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「い、いや、あれはだな...その...無かったことにして欲しい...なんて...」

 マリウスは媚びるような目でミランダを見詰めてそう呟いた。

「殿下、見苦しいですよ。男子足るもの二言があってはなりません。それこそ恥ずべきことです。それに、殿下にはちゃんとしたお相手がいらっしゃっるみたいじゃありませんか?」

 そう言ってミランダは、訳が分からないといった表情で未だマリウスの後ろに控えているサンドラを指差した。

「そ、そうですよ! 殿下は私のことを愛しているとおっしゃって下さったじゃありませんか!」

 指差されたサンドラは、ハッと我に返るなりそう叫んだ。

「黙れ! このウソ吐きめ! 貴様、ずっと俺を騙していたんだな! 誰も貴様を虐めてなんか居ないじゃないか! 全て貴様の自作自演のお芝居だったってことなんだな!」

 さっきまでとは打って変わって、マリウスはサンドラを憎々し気に睨み付けてからそう糾弾し始めた。

「あ、あれは...ち、違うんです! わ、私の勘違いだったんですよ!」

「勘違いだと!?」

「そ、そうです! わ、私のことを虐めてたのはあの人だったんですよ!」

 この後に及んでもまだ己の非を認めないどころか、更なる悪足掻きを重ねようと踠くサンドラの姿は、見苦しいのを通り越していっそのこと清々しいと思える程だった。

 そしてそんなサンドラに指差し返されたミランダはといえば、

「いやいや、私にも不可能ですって。だって私もそこのリリアナ同様、この学園に通ってませんもん。なにテキトーなこと言ってくれちゃってんですか?」

 そりゃそうだ。リリアナの時も思ったが、こんな美少女が学園に通学してたら噂にならない訳がない。

 それこそ真っ先にマリウスの耳にも届いたことだろう。

「あぐ...そ、そんな...」

 万策尽きたのか、ついにサンドラはその場に崩れ落ちた。というより、あまりにも穴だらけでお粗末な作戦だったと言わざるを得ないだろう。

 まんまとマリウスを篭絡させたまでは良かったが、ツメが甘過ぎたということになる。

「このウソ吐き女を引っ立てろ!」

 マリウスが近衛兵にそう指示を下す。

「イヤァッ! 離して離して~! マリウス様ぁ~! お願い~! 助けて~!」

 両脇を近衛兵に固められたミランダは、引き摺られるようにして連れて行かれた。最後まで喚き散らしていたが、マリウスは一顧だにしなかった。それどころじゃなかったからだ。

「ミランダ嬢、本当に申し訳なかった...改めてお願いする...どうか俺の婚約者になってくれないだろうか?」

 そう言ってマリウスは跪いた。

「だからイヤですって。あんな見え見えのハニートラップにコロッと引っ掛かる男なんてこっちから願い下げですよ」

 ミランダはどこまでも辛辣だった。

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