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「ちなみにカスパート家の保有している出版社は、ここのところ売り上げが芳しくないようでございます」

「それって人気作家が離れたってこと?」

「左様でございます」

「どこに流れたの?」

「我が社でございます」

「えっ!? ウチに!?」

 私は素でビックリした。

「お気付きになってはおられませんでしたか?」

「気付かなかったわ...ここ最近、我が社の売り上げが伸びていたことは知ってたけど、それって兄さんの作家引退作品がヒットしてるもんだとばっかり思い込んでいたわ...」

「えぇ、ロバート様の最後の作品がヒットしているというのももちろんありますが、それ以上に人気作家達が挙って我が社に移籍したというのが大きいと思います」

「どうしてまた急に?」

 私は訳が分からず首を捻った。

「一つには我が社のエースが引退するということで、代わりになりそうな作家達を積極的にスカウトしたという点が挙げられます」

「あぁ、なるほど...それまではあまりスカウト活動に熱心じゃなかったのね...」

「良くも悪くもロバート様頼りでございましたからな」

「ハハハ...」

 私は笑うしかなかった。

「そしてもう一つ、我が社は競合他社より出版マージンが格段に高いという点が挙げられます」

「あぁ、それはそうよね。元々は兄さんの作家業を応援するために始めた事業なんだもん。最初っから儲けは度外視してたわ。そもそも兄さんがお金に無頓着な人だから、収益のほとんどを私が管理してたようなもんだし。良く良く考えてみれば兄さんの上げた収益っていうのは、ただ社内で金が動いていただけの話なのよね。つまるところ、我が伯爵家の内部だけで完結してたってこと」

「左様でございますな」

「マージンそのままで他の作家達をスカウトしたってことね?」

「はい、そう聞いております」

「そりゃウチに流れて来るはずだわ」

 私は大いに納得したが、

「でもそんなんで利益は出せんの?」

 逆に心配になって来た。

「ロバート様ほどではございませんが、それなりに名の知れた人気作家達が挙って作品を発表しておりますからね。質より量ということで採算は大幅な黒字になっているようでございますよ?」

「なんかその...身も蓋もないわね...」

 私は苦笑するしかなかった。

「そんな経緯で我が社は安泰。カスパート家は斜陽と相成った訳でございます」

「なるほど...良く分かったわ...それで私に白羽の矢を立てたって訳か...」

「左様でございますな」

「ちなみにカスパート家の評判ってどうなの?」
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