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「私は...その...良く分からないわ...」

 正直、アランのことを主人と従者という立場外で見たことは一度もない。確かに端から見れば気の置けない間柄に見えるかも知れないし、最近は堅苦しい言葉遣いもすっかり影を潜めた。

 だが、だからと言って一線を越えたことは無いし、これからもずっとそうだと思っていた。

 そりゃ確かに時折アランがそれとなく匂わせるようなことを言って来たりしてたけど、あくまでもそれは軽口のレベルであり本気だとは思っていなかった。
 
 今思うと赤面するようなことを平気で言ってたような気もする。

「あれれれ~? アンリエット~ 顔が赤くなってない~? 少しは意識してたりして~?」

「うっさい! ちょっと黙ってろ!」

「おぉっ怖っ♪ はいは~い♪ 黙ってま~す♪」

 全くもう...コイツは...他人事だと思って楽しんでやがんな...

「お嬢様、ただいま戻りました」

 そこにハンスが戻って来た。

「お帰り。ご苦労様」

 エリザベートが居ることに気付いたハンスは、

「おや? これはこれはエリザベート様。お越しになられているとは露知らずご挨拶が遅れまして申し訳ございません」

「急に来てゴメンね。お邪魔してるわ」

「あぁ、ハンス。コイツのことは気を遣わないでいいから」

「アンリエット、酷い~」

 相手にすると面倒なんで丸っと無視する。

「それでどうだった?」

「え~と...それが...」

 ハンスはチラチラとエリザベートの方を見ている。まぁ仕方ない。気にするなって言う方が無理か。

「聞かれても大丈夫よ、ハンス。エリザベートには既に事情を話してあるから。コイツは居ない者として扱って?」

「そうよ~♪ 私は空気なの~♪」

 無視無視無視~!

「は、ハァ...それでは...コホン、ウィリアム殿の件ですが、国は参考人としての事情聴取を考えているようで、どうやら拘束まではされないようでございますね」

「そうなの? ちょっと意外ね。ウィリアムも色々やらかしてたみたいだから、てっきり拘束されるもんだとばっかり思ってたわ」

「表面上は示談が成立しているからというのが大きいのだと思われます。やはりメインとなる被疑者は元当主と現当主ということになるようでございますね」

「なるほどね。良く分かったわ。疲れたでしょう? 下がっていいわよ? ゆっくり休んで?」

「お心遣い痛み入ります。それでは失礼させて頂きます」

「お疲れちゃん♪」

「エリザベート...黙れ...」

「アンリエット、怖い~」

 あぁ、なんかどっと疲れが...

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