上 下
101 / 276

101

しおりを挟む
 アランは私が投げ付けたクッションを今度は見事にキャッチしやがった!

「チッ!」

「お嬢、そんな舌打ちなんかしたら貴族女性の面目丸潰れだよ~?」

「うるさいっての!」

 全く! 腹立たしいヤツだ! 

「まぁなにはともあれ、パトリックの旦那とはすっぱり縁を切るこったね」

「分かってるわよ...それにしてもどういうつもりだったのかしら? 愛人が居ながら私に求婚するって...」

「だから言ったじゃん? ウィリアムと同じ匂いを感じるって。さすがに元娼婦を正妻には出来ないから、お嬢を正妻に迎えたその後に『実は愛人が居て子供も居るんだ』とか言うつもりだったんじゃないの? ホント女をバカにするのも程があるよね~」

「最低だわ...」

 兄弟揃ってクズ野郎だな...

「しかしこれでまたお嬢の結婚相手は白紙に戻っちゃったね~」

「もういいわよ...一生独身で...」

 私は半ば諦め気味にそう呟いた。

「まぁまぁ、そんな達観しないで?」

「達観したくもなるわよ...ここまで男運が悪いだなんて...もしかしたら私の前世になにかあったのかと勘繰りたくなるくらいよ...」

「お嬢の前世はきっと、絶世の美女で男を手玉に取るような悪女だったのかも知れないね~ その反動で今世では逆に男に苦労させられると」

「笑えないわね...」

 本当に...

「そういえば、お嬢。クリフトファー様のこと聞いてる?」

「なにを? というか、なんでこのタイミングでクリフトファー様の話が出て来んのよ?」

 私は訝しみながらそう問い返した。

「王都に居る友人から小耳に挟んだんだけどさ。クリフトファー様、家督を妹さんに譲って出奔したらしいよ?」

「えっ!? ウソッ!? マジで!?」

 ビックリした私は思わず聞き返していた。

「マジっぽいよ? お嬢になんか連絡とか無かったん?」

「いいえ、エリザベートからも兄からもセバスチャンからもなにも聞いてないわ...」

「そっかぁ~ 敢えてお嬢の耳には入れなかったのかなぁ~?」

「そうかも知れないわね...どっちみち私とはもう関係の無い人だし...」

 しかし、あのクリフトファー様が出奔か...なにも無ければそのまま順当に公爵家の跡取りとしてやって行けたはずなのにな...結局、クリフトファー様も他人に人生を狂わされてしまった一人だっていうことか...

 何事も無かったかのように、新しい女の人を嫁に迎えて家を継ぐってことはクリフトファー様の性格上できなかったのかな...

 なんていうか...切ないな...なにせ一時は婚約寸前まで行った間柄だしな...今頃どこでなにをしているのやら....

 そんな風に想いを馳せていると、

「お嬢様、お客様です」

 ハンスが来客を告げに来た。

「お客? 誰?」

 私はお茶を飲みながら尋ねた。

「クリフトファー殿と名乗っておられます」

「ブッホウッ!」

 その瞬間、盛大にお茶を吹き出したのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。

はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」 「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」 「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」 「ああ…なるほど。わかりました」 皆が賑わう昼食時の学食。 私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。 マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。 全くこの人は… 全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。 夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。 しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。 しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。 離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお
恋愛
幼い頃に王族の婚約者となり、人生を捧げされていたアマーリエは、白紙にすると約束されていた婚約が、婚姻予定の半年前になっても白紙にならないことに焦りを覚えていた。 その矢先、学園の卒業パーティで婚約者である第一王子から婚約破棄を宣言される。 破棄だの解消だの白紙だのは後の話し合いでどうにでもなる。まずは婚約がなくなることが先だと婚約破棄を了承したら、王子の浮気相手を虐めた罪で捕まりそうになるところを華麗に躱すアマーリエ。 恩を仇で返した第一王子には、自分の立場をよおく分かって貰わないといけないわね。

処理中です...