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 私の予想通り、次の日からエリザベートは事ある毎に我が家へとやって来ては、兄に纏わり付くようになって行った。

 さすがに婚約者の居る身でありながら、こんな頻繁に他の男の元へ通うのは外聞が悪いだろう。

 エリザベートにそう注意したのだが、あくまでも表向きは「お兄様とお似合いになりそうな令嬢の釣書を持って来た」という体にしているのでなにも問題はないとの一点張りである。

 そして今日も今日とて「お兄様~♪」と完全に目をの中をハートマークにしながら兄に纏わり付いている。だからお兄様呼びは止めれ!

 兄は顔を強ばらせながらも辛抱強く応対している。少しは対人関係に進歩が見られたようでなによりだ。その点だけはエリザベートに感謝しよう。

 私は私で、お世話になった人達の挨拶回りに忙しかった。特にもう一人の友人であるケイトリンには寂しがられた。

 ケイトリンには私が居なくなった後、エリザベートが暴走しないようにストッパーとなって貰うことと、兄にお似合いの令嬢を紹介して欲しいと頼んでおいた。どちらも快く承諾してくれたので一安心だ。

 それから出版社で業務の引き継ぎを行った。今まで兄の正体を明かさなかったことで「せめて自分達には教えて欲しかった」など恨み節を言われたが、そこら辺はこっちの事情もあるんだから勘弁して欲しい。

 そうこうしながら約一ヶ月、兄に業務の引き継ぎと教育を施し、そろそろ大丈夫だろうと判断した私は、明日領地に旅立つことを決めた。

 私に同行するのはアランだ。最初はセバスチャンが付いて行きたいと言ってくれたが私が断った。

 まだ慣れない兄の補佐が出来るのは、セバスチャンをおいて他には誰も居ないからだ。私に付いてセバスチャンまでこの屋敷を離れたら、恐らく兄は大変な目に遭うこととなるだろうからそれは避けたかった。

 それにアランも大分執事として成長したみたいだし、セバスチャンが居なくてもなんとかなるだろうと判断した。セバスチャンはまだまだ不安そうだったが。

 そして出発の日、見送りにはエリザベートとケイトリンも来てくれた。今生の別れでもないのに号泣しているエリザベートに苦笑しながらも、皆一人一人と挨拶を交わし笑顔で旅立った。


◇◇◇


 領地までは馬車で約2日掛かる道程だ。

「お嬢、今日はこの町で一泊しようか?」

 そろそろ日が暮れる頃合いになって、御者席から顔を覗かせたアランが街道近くにある町を指差す。

「そうね。ちょうど良い時間だし」

 急ぐ旅ではないから野宿などという危険は冒さない。私達は町のホテルに泊まることにした。

 ホテルに着いて宿泊名簿に記入していると、いきなり横から声を掛けられた。

「アンリエット!? もしかしてアンリエットじゃないのか!?」

「えっ!? あ、あなたはウィリアム!?」

「そうだよ! いやぁ、懐かしいな!」

 そこに居たのは私の幼馴染みのウィリアムだった。

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