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68 (第三者視点9)

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 エリザベートはアンリエットの屋敷に向かっていた。

 兄であるクリフトファーの憔悴し切った表情と、殴られたような腫れた頬が気になって仕方なかったのだ。

 屋敷に着いて出迎えたアランにアンリエットに会いたい旨を伝えると、

「えっ!? 出掛けたまま戻っていない!?」

「は、はい、そうなんです...」

 もうすぐ日が暮れる。こんな時間までアンリエットが帰って来ないなんて...どう考えてもおかしい。やっぱりアンリエットの身になにか...

「どこに行くって言ってたの?」

「そ、それが...行き先はおっしゃらなかったんです...セバスチャンさんが一緒ですから滅多なことは無いと思うんですが...この時間までお戻りになられないのは少々心配です...」

「そうよね...どこに行ったか見当はつく?」

「申し訳ありません...私は雇われてからまだ日が浅く...」

 確かにその通りだ。アンリエットとの付き合いならエリザベートの方が長い。交遊関係もそれなりに把握しているつもりだ。

 だがこんな時間までお邪魔するような家は限られてくるはずだ。自分の所かあるいはケイトリンの所ぐらいだろう。

 ケイトリンの家に行くのに行き先を伝えなかったりするだろうか? いや、それはまず有り得ないと思う。ではどこに? エリザベートが考え込んでいる所に、慌てた様子でセバスチャンが帰って来た。

「アラン! サンドラを呼べ! 急げ!」

 いつも沈着冷静な彼にしては珍しく焦っているようだ。ちなみにサンドラとはアンリエット付きの侍女である。命じられたアランがすっ飛んで行く。

「セバスチャン! 一体なにがあったの!? アンリエットはどこ!?」

 アンリエットになにかあったのは間違いない。エリザベートは詰問した。

「え、エリザベート様!? ど、どうしてここに!?」

 どうやらエリザベートの存在に今気付いたようだ。余程慌てていたのだろう。

「アンリエットのことが心配になったんで来たのよ。なにせお兄様がこの世の終わりみたいな顔で帰って来て、なにかあったのか聞いてもなにも言わないんだもの」

 セバスチャンは戸惑った。ロバートのアパートと存在に関しては、アンリエットと自分以外知る者は居ない。

 当然エリザベートも知らない。自分の判断で話しても良いものだろうか? いくらエリザベートがアンリエットの親友であるとはいえ、クリフトファーの妹であることは変わらない。

 セバスチャンとしては心情的に、これ以上アンリエットと公爵家を関わらせたくないと思っていた。だが、

「さっさと答えなさい!」

 更にエリザベートに詰め寄られると、その勢いに呑まれて思わず口を割ってしまったのだった。
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