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56 (クリフトファー視点2)

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 アンリエットと過ごす日々は刺激に溢れていてとても楽しかった。

 アンリエットのボディーガード役を半ば強引に引き受け、アンリエット狙いで群がって来た役者のアランを床に組伏せた時なんか、高揚感に胸が満たされたものだ。

 もっともその後、当のアランを自分の手駒にするとは思わなかったが。アンリエットの意外に強かな面が見れた僕は、ますますアンリエットに惹かれて行ったのだった。

 それと平行し、僕はアンリエットのことがもっと知りたくてなって、アンリエットの身辺調査を依頼した。

 アンリエットが女だてらに伯爵位を継いだ経緯はアンリエット自身から聞かされていたが、本来家を継ぐはずだった、病弱だという兄君に会わせて欲しいと言ってみても、領地で療養してるから無理の一点張りである。

 僕はなにかあるなと直感で思った。それに貴族が流行作家のパトロンになるというのは珍しいことではないが、出版社を立ち上げ代理人まで務めるというのは明らかにやり過ぎだとも思った。

 果たして調査の結果は...思った通りだった。アンリエットは頻繁にあるアパートの一室に向かうらしい。入る時は手ブラなのに出る時は良く書類袋を手にしているという。そしてそのまま自分の出版社に向かうというのだ。

 その部屋にかの流行作家が住んでいるのは間違いないが、代理人であるアンリエットが編集者のようなことをするのはどう考えてもおかしい。

 明らかに人目を避けている。余程流行作家の正体を知られたくないのだろう。時を同じくして、アンリエットの領地に向かわせた調査員から連絡が入る。

 領地に兄君らしき人物が療養しているという痕跡は無いとのこと。これで一本の線が繋がった。

 流行作家『ジョン・ドウ』の正体はアンリエットの兄君ロバート殿であると。兄君は病弱なんかじゃなく、作家業に専念したいから家督を妹であるアンリエットに譲った。外聞が悪いから、表向きは病弱だということにしてるだけ。

 そう確信した時、僕はほくそ笑んだ。これでアンリエットを囲い込むことが出来ると。僕は着々とその準備を始めたのだった。

 その後の僕は、アンリエットが開いたお茶会で給仕の役を演じたり、夜会でアンリエットのパートナーを務めながらギルバートのヤツを懲らしめたりして、楽しい時間を過ごしていた。

 本当にアンリエットと居ると退屈しない。僕はもうアンリエット無しでは生きて行けない程、アンリエットに惚れ込んで行った。

 そして運命のあの日を迎えることになる。
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