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36 (ギルバート視点10)

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 僕は自分の屋敷の前で呆然と立ち尽くしながら、このような結果に至るまでの日々を漫然と思い返していた。

 思えば途中からキャロラインはあんまり乗り気ではなかったように思う。シナリオ通りに進まないことだけが原因だったとは思えない。

 キャロラインが僕からの誘いを断るようになっていったのはいつ頃からだったか。もうその頃からキャロラインは、僕との関係を終わらせようとしていたのかも知れない。
 
 実際、今日を迎える前からキャロラインはこう言っていた。

「ね、ねぇ、ギルバート...もう止めない? 現実は小説のシナリオ通りには行かないのよ...」

「なに言ってるんだよ! 僕達は真実の愛で結ばれているんだぞ! 大丈夫! 最後にはきっと上手く行くさ!」

 そう言って僕は強引にキャロラインの手を引いたんだったっけ。

 だが最後のあの瞬間、僕が国王陛下と対峙している最中、後ろを振り返るとそこにキャロラインの姿はなかった...

 真実の愛だと思っていたのはどうやら僕だけだったようだ。僕は自嘲しながらトボトボと当て所なく歩き始めた。キャロラインに会いに行こうとは微塵も思わなかった。


◇◇◇


 本当に着の身着のまま放り出された僕は、まず古着屋に行って着ていたタキシードを古着と交換した。

 それからブレスレットやペンダント、カフスボタンなどのアクセサリーを質に入れ、当座の現金を手に入れた。

 この辺りは手慣れたものだ。アンリエットからの贈り物を質に入れてキャロラインとの遊行費に充てていたんだから。

 まぁ、そんなことをしていたからこんな目に遭ってる訳でもあるんだが...

 今更嘆いても仕方ない。時が戻る訳でもない。自業自得だ。これからはもう貴族でもなくただの平民なんだから、仕事をして自分で稼がないと。

 気を取り直して僕は職業斡旋所に向かった。

「可能であれば住み込みで働ける職場があると嬉しいんですが...」

 そう言って僕は受付の職員にお願いした。なにせ今日泊まる宿すらない。

「住み込みねぇ...まぁ、あるにはあるが娼館での雑用係兼用心棒って仕事だけどやってみるかい?」

「構いません。雨風が防げればなんでも。今日から働けますか?」

「あぁ、人手不足らしくてね。すぐに来て欲しいそうだ」

「是非お願いします!」

 渡りに船とはこのことだ。僕は喜んでその娼館に向かった。

 ...まさかその娼館で運命というか宿命というか...そんな再会を果たすことになろうとは...

 この時の僕は夢にも思っていなかったのだった...
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