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 我が家は伯爵家の中でも裕福な方だ。

 私はそんな家の長女として生を受けた。5歳年上の兄が1人居る。本来なら兄が家督を継ぐべきなのだが、生まれつき病弱なので継ぐのは無理と判断され、私が後継者となるべく育てられた。

 15歳になったら入学する王立学園でも、普通の貴族令嬢なら家政科を選ぶところを、私は経営管理科を選んで3年間みっちり学んだ。

 お陰で卒業してすぐ、両親が海難事故に遭い儚くなった時も、悲しみを乗り越えて家督をスムーズに継ぐことが出来た。

 以来、王都にある屋敷と領地を往復しながら業務を熟し、忙しい毎日を過ごしている。いつまでも悲しんでいる暇なんかなかった。

 ギルバートとの婚約が決まったのは、両親が儚くなって1年が過ぎた頃だった。ギルバートの家は侯爵家とは名ばかりの落ちぶれた家で、伯爵家とはいえ裕福な我が家に資金援助目当てで近寄って来た。

 断っても良かったのだが、相手は一応格上の侯爵家。是非にと請われて断り切れなかった。ギルバートがあんなクズだと知っていれば、間違っても婚約なんか結ばなかったが、今となってはもう遅い。だったらこれからやるべきことは、

「よろしい。おバカな二人に鉄槌を下しましょう!」

 そう宣言した私は、あるアパートの一室を目指した。


◇◇◇


「兄さん、入るわよ~」

 ドサッ! バサバサッ!

「うわっと!? 兄さん! ドア付近に本を置かないでいつも言ってるでしょ!」

「あぁ、悪い悪い。アンリ、いらっしゃい。今日はどうしたんだい!?」

「それが実はね...」

 私は兄のロバートに一部始終を語った。

「ぬわんだとぉ! ギルバートの野郎! ウチの可愛い妹になんてことしやがる! ぶっ殺してくれよう!」

 妹バカの兄が激昂した。

「兄さん、落ち着いて。まだ実際の被害には合ってないから。私が今日ここに来たのはね、彼らがバイブルと呼んでいた小説『真実の愛は永遠なり』の続きが知りたかったからよ。ベストセラー作家の『ジョン・ドウ』さん」

 そう、私の兄はベストセラー作家なのだ。病弱設定は世間を憚るウソで、実際は作家業に専念したいから家督を放棄したのだ。

 外聞が悪いので病気療養中ということにしてるが、実体はこうして締め切りに追われながら、アパートの一室に缶詰め状態になっている。

 だが本人は元々引き籠もりなので、今の生活が気に入っているという。私はそんな兄を支えるために家督を継ぐことにした。

 なぜなら私は、兄の書いた小説の第1号のファンだからだ。そしてそれは今も続いている。兄の書く小説に、私はどっぷりと嵌まっているのだ。

 それに私は元々、領地経営に興味があった。だから家督を継ぐための教育も苦にならなかった。

 こうして私と兄は、それぞれの役割分担をしっかり行って来たのだ。兄の書いた小説がベストセラーになった時、私は自分のことのように喜んだものだ。
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