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第41話 ちみっこと魔法訓練 その1

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 冒険者達を引き連れ森を抜けた。


 待ち構えていたマリーの熱烈な抱擁に窒息しそうになったアタシは、

「ま、マリー、ぐるじい...」

「ミナお嬢様~! ご無事で何よりです~!」

 何度も背中をタップして離れて貰った。過保護過ぎるメイドにも困ったもんだ。

 冒険者達は、保護する場合に備えて念の為用意して来た空の馬車に乗って貰う。人数が多いので護衛達の馬車の方にも乗せることにしたが、そうすると今度は護衛達の馬車が定員オーバーになってしまうので、マリーをアタシ達の馬車に乗せることにした。

 という訳でアタシは今、マリーの膝の上に乗ってる訳なんだが...

「ね、ねえマリー、ずっとこのままだと重くて大変でしょう? 私、御者席に座ってもいいんだけど...」

 ちっちゃいアタシなら御者のオジサンと並んで座っても窮屈じゃないだろうしね。か、悲しくないよ!? 御者席って一度座ってみたかったし。ホントだって!

「問題ありません。ミナお嬢様は羽根のように軽いです。ご主人様に快適にお過ごし頂くのがメイドの務めですので、ここは誰にも譲りません」

「そ、そう? ならいいんだけど...」

 そう言われちゃしょうがない。でもなんだろう、何やら刺すような視線を全員から感じるんだけど...気のせいだよね?

「コホン、あ~ まあなんだ、まずはお疲れさん。色々あったがとにかく全員無事で何よりだ」

 殿下が仕切り始めたけど、なんだか歯切れが悪いな。マリーが居るからやり辛いのかな?

「それで今後の強化プランなんだが、何か意見あるか?」

「そうですね...私としては新しい魔法が使えるようになったんで、訓練をしてみたいです」

 ゴーレムを使い熟せるようになったら戦術の幅も広がるしね。

「あ、私もそれやりたい。訓練は大事だよね」

 アリシアも新しい魔法を覚えたから乗って来たね。

「そうだな、じゃあ魔法の訓練を兼ねて新しい依頼を受けるとするか?」

「あ、でも殿下とシャロン様は公務があるんじゃ?」

「闇の眷族が出て来たんだ。公務よりこっちの活動を優先するよう掛け合ってみるよ。シャロンもそれでいいな?」

「えぇ、王子妃教育もちょうど一区切り付いた所だし、構わないわ」

「みんなもそれでいいか?」

「あ、ちょっといいですか? 2学期が始まると学園祭とか学校行事が多くなると思うんですが、その辺りの兼ね合いはどうしますか?」

 とエリオットが言えば、

「魔法競技大会もありますね。2学期は学校行事が目白押しです」

 シルベスターが続く。

「魔法競技大会? 学園祭は分かるけど、それなに?」

「魔法の属性ごとに分かれて技の優劣を競うっていう趣旨の大会なんだよ。全校生徒参加で毎年、秋に開催されるんだ」

「へぇ~ そんなのあるんだね~」

 ゲームではそんなイベントなかったよなぁ~ って思ってアリシアを見ると、向こうも首を振っているからやっぱり未知のイベントなんだろう。

 ちなみにこの世界の四季は前世の日本と変わらない。暦も一年が365日、時間も一日が24時間で全く同じだ。まぁ、この辺りは日本製のゲームならではの世界観ってヤツだよね。

「我々はあくまで学生だからな。学校行事は優先して参加する。その合間を縫って訓練を進めていこうと思う。学園でも放課後なら演習場の使用許可は下りるだろうしな。どうだろう?」

 全員が頷いたので今後の方針が決まった。


◇◇◇


 冒険者ギルドに着いたアタシ達は、早速依頼達成の報告を行った。

「冒険者達を無事に連れ帰ってくれて本当にありがとう。あなた達に頼んで正解だったわね」

 ヒルダさんが嬉しそうに言う。

「あぁ、苦労した甲斐があったよ」

「ところで闇の眷族が現れたって本当なの?」

「本当だ。なんて言ったっけ?」

 殿下がアタシに尋ねる。

「闇の眷族四天王の一柱アモンって言ってました」

「それを倒しちゃったの?」

「えぇ、まあ...」

「はぁ~ あなた達ってホントに凄いのねぇ...」

 ヒルダさんは諦観したように呟く。

「それでだ、今回は何とか勝てたが、次どうなるか分からない。いつ闇の眷族と戦ってもいいように我々も備えておく必要がある。難易度の高い依頼を受けて出来るだけレベルを上げておきたい」

「なるほど...分かったわ。あなた達が強くなるように私も協力する」

「助かる。それと今回のように闇の眷族が絡んでいそうな依頼があったら、優先して我々を指名して欲しい」

「了解よ。依頼があり次第すぐに連絡するわね。それと今回の成功報酬は300万ペイルになるけど、前回と同じにする? それとも折半する?」

 殿下がアタシを見る。判断を委ねるってことね。だったら、

「折半しましょう。これは冒険者としての活動ですから」

「ちょうど6で割り切れるわね。じゃあみんな、冒険者カードを出して頂戴」

 アタシ達は報酬を受け取ってギルドを後にした。


◆◆◆


 2学期が始まった。

 クラスメイト達との久し振りの再会を喜んだ。それが一段落すると、先生がやって来てHRが始まる。内容は約一ヶ月後に迫った学園祭のことだ。実行委員や準備係を決めるらしい。アタシ達は『精霊の愛し子隊』としての活動がメインなので、それら面倒な役割は免除されている。

 その内、クラス内でどんな出し物をするのかという話し合いがあるそうだ。定番なのは模擬店だろう。後はお化け屋敷とか。占いの館とか。地味な所ではクラス展示なんてのもあったな。

 懐かしく思っていると、先生からは話し合いまでに各自意見を纏めておくようにとの指示があった。どれがいいかな~? お昼になったらみんなに聞いてみよう。


◇◇◇


「ウチのクラスでは模擬店をやろうってヤツらが多いかな?」

「えぇ、そうですわね。結構盛り上がっていましたわ。女子は執事喫茶、男子はメイド喫茶を推す声が多くてなんだか笑っちゃいました」

 殿下達のクラスは模擬店かぁ~ それにしても男女共願望丸出しで確かに微笑ましいな。

「ウチのクラスの主流はその...言いたくないです...」

「お化け屋敷?」

「な、なんで分かったのさ!?」

 そりゃシルベスターの様子を見てりゃ丸分かりだっての。ってか、そういうのに耐性ついたんじゃなかったんかい? お化け屋敷くらいでそんなに嫌がらんでも。

「遅くなりました。殿下、演習場の使用許可下りました」

 そこへ先生に許可を貰いに行っていたエリオットが戻って来た。

「おう、ご苦労さん。早速今日の放課後から訓練開始だ。みんな、準備はいいな?」

「「「「「 応っ! 」」」」」

 
◇◇◇


 訓練が始まった。まずアタシはアリシアを指名してペアを組む。ちなみに殿下はシルベスター、シャロン様はエリオットとペアを組んだようだ。何故かアリシアがみんなに睨まれてるんだが気のせいかな? まあいいや、さっさと始めよう。

「アリシア、ゴーレムの攻撃力を見てみたいから、戦って貰っていい?」

「了解~! いつでもどうぞ!」

 アタシは6体のゴーレムを作り出し、アリシアに攻撃を仕掛ける。

「うぉっとっ! 意外に動き早いね!」

 うん、アタシもゴーレムってもっとゆっくり動くもんだとばっかり思ってたよ。でも実際はアリシアを取り囲むスピードや攻撃する際のキレの良さなど、なんだか人間を相手にしてるみたいだね。

「結構硬いね! 一撃じゃ倒せない!」

 それでもさすがはアリシア、あっという間にゴーレムは半分に減った。でもねぇ.. 

「えぇっ!? なんで復活してんの!?」

「そりゃゴーレムだもん。復活くらいするっしょ」

 再びゴーレムに囲まれるアリシアちゃん。

「ち、ちなみにいつまで復活すんの!?」

「ん~? 私の魔力が切れるまで?」

「そんなのいやぁ~!」

「ホレホレ、倒さないと死ぬよ~」

「どんな虐めよこれ~!」

 虐めだなんて失礼な! ちゃんとした訓練の一環じゃないか。

 その後もアリシアの悲鳴と共に訓練は続くのだった。
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