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第36話 第三者視点 夜霧の森 その3

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 ミナ達はそれぞれの場所で苦戦を強いられていた。


「くそっ! コイツ無駄にしぶといなっ!」

 それもそのはずで、エリオットが対峙しているのは、残り二組の内の強い方、Cランクパーティーの面々だった。

『エリオット~ 焦らないで~ 最後の一人よ~ 落ち着いて~』

 ウンディーネが水流を紐のようにして拘束しているのは既に三人。残りは一人である。

「分かってるっ! だがコイツが一番厄介だっ!」

 恐らくパーティーリーダーなのだろう。最後の一人はバスターソードを装備した剣士で、そこそこ腕の立つ者らしい。動きが早くてなかなか間合いに入れない。

『アイスプリズン!』

 氷の拘束技を使うも、上手く躱されてしまい、簡単には捕まえられない。仲間と早く合流したいのに焦りばかりが募る。

「くそぅっ! チョコマカと動き回ってやり辛いな!」

 その時、ウンディーネが魔法を唱えた。

『アイシクル!』

 氷柱が頭上から最後の一人を襲う。頭に当たって動きが鈍った。

『エリオット~ 今よ~』

「すまん、恩に着るっ!」

『アイスプリズン!』

 やっと最後の一人の拘束が完了した。

「ハァハァッ...相手を殺さず無力化するのがこんなに大変だとは思わなかった...」

 エリオットは荒い息を吐きながら言った。

『随分時間が掛かっちゃったわ~ 急いで合流しましょう~』

「コイツらはどうする?」

『今は置いていくしかないわね~ 大丈夫よ~ ここから離れても拘束は解けないわ~』  

「分かった。行こう」

 エリオットは仲間との合流を目指して動き出した。


◇◇◇


 シャロンは焦っていた。風魔法に拘束する技は無い。となると、相手が動けなくなるまで痛めつけるしかない訳だが、その加減が難しい。ヘタすると相手を殺してしまう。

「頭への攻撃は...マズイわね...やっぱり足への攻撃かしら? 二、三本折ればさすがに動かなくなるわよね?」

 などと物騒なことを考えていた。

『シャロン! 人間の足は二本しかないよ!』

 シルフが能天気に宣う。

「うるさいわねっ! 分かってるわよ、そんなことっ!」

 シャロンはかなりイライラしてる。本気で頼りにならない精霊だと思った。

「シルフっ! 攻撃を下半身に集中するから、あなたは相手が頭から落ちないように体を支えて頂戴! そのくらいなら出来るわよね!?」

『オッケー! 任せといて!』

 若干不安を覚えつつも相手と対峙するシャロンだったが、幸運なことにこのパーティーは三組の中でも最弱なDランクのパーティーだったので、程無く動きを止めることが出来た。

「フゥッ...やっと終わったわね...さっさと合流しましょう」

『うん、こっちだよ!』

「...間違い無いんでしょうね?」

『大丈夫! 信じて!』

 シャロンは訝しみながらもシルフの後に続いた。


◇◇◇


 アルベルトは相変わらず魔獣の群れに囲まれていた。

「おいっ! 助けはまだ来ないのか!?」

 肩で息をしている。そろそろ限界が近い。

『...しばし待て...』

 イフリートが厳かに言う。

「お前、さっきからそればっかりじゃねぇか!?」

 このやり取りを何度も繰り返している。

『...来たぞ...』

「なにぃ!? ホントか!?」

 アルベルトの言葉に被せるように甲高い悲鳴が響く。

「ヒィィィッッッ! 暗いよ、暗いよ、怖いよ~!」

『だからシルベスター、いい加減落ち着いてよ~!』

 悲鳴がシルベスター、呆れたような声はノームだ。

「その声はシルベスターか!?」

「ヒィィィッッッ...い? あ、で、殿下!?」

 シルベスターはやっと我に返ったようだ。

「助かったっ! コイツらに苦戦しててな。手伝ってくれるか?」

「は、はいっ! 今すぐっ! ところで他のみんなは?」

「分からん! とにかくまずはコイツらを蹴散らすぞ! それからみんなと合流しよう!」

「分かりましたっ!」

 シルベスターはアルベルトと共に魔獣の群れと対峙する。


◇◇◇


 ベヒモスの攻撃は熾烈を極めた。長い鼻を振り回す攻撃に加え、強靭な手足を使っての殴打は一発でも食らえば致命傷になるだろう。そして時折見せる体当たりは避けるのも一苦労だ。

「無理無理無理~!」
 
 アリシアは逃げ回るので精一杯だった。

『アリシアっ! 逃げてばっかりじゃ埒が明かないわっ!』

「そ、そんなこと言われたって~!」

 レムがいくら声を掛けてもアリシアの恐怖は拭えない。ドラゴンにすら臆せず向かっていった彼女が、何故これ程までに恐怖を感じているのか。それは彼女の前世に纏わる。

 前世のアリシアは幼い頃、TV番組で見た象の暴れるシーンが脳裏に焼き付いてしまった。普段はおとなしい象がいきなり暴れ出して人を跳ね飛ばす。そのショッキングな映像の記憶が「象は怖い」というイメージを刷り込んでしまったようだ。

 それ以来、動物園に行っても決して象の居る場所には近付かなくなった。と言うより近付けなくなってしまった。そのトラウマによりアリシアは、ベヒモスに対し必要以上の恐怖を感じて逃げ惑うしかない状態に陥っているのだった。

「怖いよ、怖いよ、怖いよ~!」

『アリシアっ! 聞きなさいっ! 今、ミナがたった一人で強敵と対峙してるわっ! 危険な状態よっ! 早く助けに行かなきゃっ!』

「えっ!? ミナが!?」

 アリシアが恐慌状態から戻って来た。

『そうよっ! 早くしないとっ! ミナが死んじゃってもいいの!?』

「そんなのダメ~!」

 ミナが死ぬなんて考えたくもない。

『だったら戦いなさいっ! こんなヤツに手間取ってる場合じゃないでしょ!?』

 レムの叱咤激励により、アリシアの目に光が戻った。友に対する友愛がトラウマを上回った。自分の頬を両手で張って気合いを入れる。

「よっしゃあ~! やったるぞ~!」

 一刻も早くベヒモスを倒してミナを助けに行く。アリシアはもう逃げない。


◇◇◇


 ミナは意識を保とうと必死だった。意識を手放した瞬間に死が待ってる。立ち上がらないと。膝が笑っているが何とか堪えて立ち上がる。

「ほう、アレを食らってまだ立つか。根性だけは認めてやる」

「お褒めに預かり光栄ね。諦めの悪いのが取り柄なのよ」

 気丈に言い放つが体と声の震えは止まらない。

「フンッ、強がっても貴様がここで死ぬのは変わらんぞ」

「それはどうかしらね。ここがあなたの墓場になるかもよ?」

「ほざけっ!」

 また触手攻撃が来る。ミナは震えながらも何とかガードする。

「えっ!?」

 違和感を感じた。触手の威力が落ちている? あの大威力の闇の力を放った後では、さしものアモンもすぐには力が回復してない?

 ミナは活路を見出だせそうな気がしたが、自分の体力もまだ回復していない。ここはガードに専念して時間を稼ぐべきか。

「フハハハッ! どうした、どうした!? 威勢の良いことだけ言って守るだけか!?」

 ガードしながらもミナはアモンを観察していた。そして気付いたことがある。アモンは戦いの開始位置から一歩も動いていない。さっきの大威力攻撃でミナが倒れた時、近付いて攻撃を加えるチャンスだったのにそうしなかった。何故か?


 ?


 確信は無い。だがあの大威力攻撃をもう一度食らう前に勝負を決めなくては。少しだけ回復した体力を使って、ミナは動き出した。

「ヌゥッ! どこへ行く!? 逃げられると思うな!」

 アモンに対して円を描くようにゆっくりと移動する。ミナを追って迫って来る触手攻撃は、木を盾にして防ぐ。倒れた木に向かってこっそりと呪文を唱える。

『ツリーコネクト』

 こうやって木と木を結び付けながらアモンの周囲を回り、着々と準備を進める。

 後はアモンがこちらの意図に気付く前に、そして大威力攻撃が来る前に準備が整うか。

 それが勝負の分かれ目だ。

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