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第34話 第三者視点 夜霧の森 その1

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『夜霧の森』まで馬車に揺られながら、ミナ達は作戦会議をしていた。


「ヒルダさんの情報に拠ると、行方不明になっている冒険者のパーティーは、Cランクが2つにDランクが1つの合計12人、まずはこの人達の救出を最優先にします。助けられればいいんですが、不幸にも亡くなられていた場合、最低限の遺品だけでも回収してあげようと思います。ここまでいいですか?」

 ミナが全員を見渡すと、何とも言えない重い雰囲気が漂っていた。恐らくだが、全員の心の中にあったのは、生存している確率はかなり低いだろうという考えだった。

「あぁ、それでいいと思う。人命が第一で調査は二の次だ。最も、人探しをすることで自ずと原因の究明に繋がりそうな気がするがな」

 重い雰囲気を払拭するようにアルベルトが言うと、

「やはり闇の眷族絡みでしょうかね...」

 エリオットが続く。言葉にはしたくないが、それも全員が感じていたことだ。また雰囲気が重くなる。気分を切り替えるようにシャロンが続ける。

「それは現地に着いてから判断すればいいことですわ。今ここで議論しても仕方無いでしょう。それよりもCとDランクの冒険者が向かったということは、その森の魔獣はやっぱり大して強くは無いんですのね?」

「えぇ、確かに父からはそう聞いています。以前行った調査ではホーンラビットやワイルドボア、ゴブリンなど、弱い魔獣しか出没しなかったはずです。ボク達であれば何も問題ないかと」

 シルベスターが答える。さすがは魔道騎士団長の息子といったところだろう。

「そうは言っても油断は禁物だと思います。最初に攻略したダンジョンの件もありますし。気を引き締めていきましょう。それと...アリシアっ! 寝るなっ!」

「ふぁいっ!?...あ、ごめんなさいっ!」

 ミナが纏めに掛かっても静かだと思ったら、アリシアはずっと寝てたようだ。これには全員が破顔した。「さすがは大物だ」とか「着くまで寝かせておきましょう」とか、みんなに揶揄われたアリシアは真っ赤になって俯いてしまった。

 場の雰囲気が期せずして軽くなったところで、一行は『夜霧の森』に到着した。


◇◇◇


 辿り着いた『夜霧の森』はまさに異様の一言だった。深く立ち込めた霧は一寸先の視界すら確保出来ず、森全体の上空を覆う黒い靄のようなモノのせいで昼間なのに夜のように暗い。

「こ、これはっ!?」

 しかも全員が感じ取ったこの嫌な気配、間違いなく闇の眷族が関わっているだろう。全員に緊張が走る。ミナは全員の目を見ながら告げた。

「隊列を組み替えます。2列にします。前列にエリオット、シャロン様、アリシア、後列に私、殿下、シルベスター、アリシアとエリオットはシャロン様を守ってあげて」

「「 了解! 」」

「シャロン様、洞窟や大きな木の洞などを空間認知能力で見付けられますか?」

「えぇ、出来ると思います。でもどうして?」

「冒険者が生き残っていて、隠れているとしたら、そういう場所じゃないかと思って」

「なるほど、了解致しましたわ」

「それと全員、カンテラを持って行きましょう。精霊達が前を照らしてくれても、この霧じゃ足元が覚束無いので。何があるか分からないこの状況では、出来るだけ魔力は温存したいし、森の中じゃ火の魔法は使い辛いですからね」

「あぁ、確かにそうだな。荷物になるからとか言ってる場合じゃないもんな」

 全員がカンテラを持ったことを確認したミナは最後に、

「マリー、あなたはここに残って」

「しかしお嬢様っ!」

「マリー、これは命令よ。ここで私達の帰りを待ちなさい」

 ミナは敢えて厳しく言った。唯一人、精霊の加護を持たないマリーに、この先は危険過ぎると判断したからだ。そしてミナはマリーを安心させるように微笑んだ。

「大丈夫よ。私達は必ず帰って来るから。信じて待っていて頂戴な」

「...分かりました...どうかご無事で...」

 沈痛な面持ちのマリーに見送られながら、一行は森の中に分け入った。


◇◇◇


 森の中に足を一歩踏み入れると、そこはまるでミルクの中を泳いでいるかのような、そんな錯覚に陥りそうな場所だった。立ち込める濃い霧で、ともすれば隣に居る人の姿さえ見失いそうだ。

「みんな、しっかり固まって。隣の人の位置を絶えず確認して逸れないように」

「しかし...この霧は酷いな...自分の伸ばした手の先さえ見えなくなりそうだ...」

「足元が濡れてるから注意して」

「良くこんな森を攻略しようなんて思ったもんだよ」

「魔獣の気配は今の所ありませんね」

 各々が感想を述べ合う。喋ってないと不安になるし、お互いの位置確認の為でもある。森に入って約1時間、慎重になっているせいで歩みは遅いが、かなり深くまで分け入ったはずだ。しかし未だに冒険者の姿も魔獣の姿も確認出来ない。

「シャロン様、洞窟や木の洞はありましたか?」

 ミナの問いかけにシャロンは難しい顔で、

「それがね...さっきから探しているんだけど、それらしきモノが見付からないのよ...」

「そうですか...まぁ、元々あるかどうかも分からないモノですからね。取り敢えずこのまま進みましょうか。シャロン様には引き続き探して貰いながら」

 ミナは最後まで言うことが出来なかった。急に足元からまるでコールタールのような黒いドロドロしたモノが湧き出したと思ったら、あっという間に視界が塞がれてしまったからだ。

「うぉっ! なんだこれ!?」

「気持ち悪い~!」

「な、何も見えない!」

「み、みんなどこ~?」

「い、いやぁ~!」

 全員が阿鼻叫喚の中、ミナは何とか全員の無事を確かめようとしたが、意識まで黒いモノに呑み込まれそうになった。必死で抵抗していると、胸元にある精霊王から貰ったペンダントが光っているのを見た。その記憶を最後にミナは意識を手放した。


◇◇◇


 意識が覚醒した時、ミナは自分がどこに居るか分からなかった。真っ暗な空間に1人っきり。仲間は誰も居ない。

「アリシアっ! シルベスターっ! エリオットっ! 殿下っ! シャロン様っ!」

 叫んでも返事は無い。

「誰も居ないの!?...」

 1人っきりの恐怖で体が震え出したミナは、自分の体をかき抱いて震えを止めようとしたが上手くいかなかった。

「誰か...助けて...」

 その囁きに応えてくれる人も誰も居なかった。


◇◇◇


 時を同じくしてアリシアも1人っきりの恐怖に震えていた。

「ここどこよ~? 誰か~!」

『アリシア、落ち着いて。ここは闇の力に支配された場所。あなた達はバラバラにされたようね』

「レムっ! あなた起きてたのね!」

 光の精霊レムはいつもの寝惚けモードではないようだ。

『闇の力が増しているから寝てられないわよ』

「やっぱりそうなんだ...他のみんなはどうなったの?」

『みんな、それぞれの精霊と一緒だから無事だと思う。まずは合流することを目指しましょう。私が導くわ』

「うん、分かった。よろしくね!」

 アリシアは力強く頷いた。


◇◇◇


 同じ頃、エリオットも水の精霊ウンディーネから状況を聞かされた。

「それじゃ急いで合流しないと。道案内をよろしく頼むぞ」

『任せて~ と言いたい所だけど~ 何かが近付いて来るわね~』

「なにっ!? 仲間か!?」

『違うみたいよ~ 気を付けて~』

 エリオットは緊張しながら近付いて来るモノを待ち構えた。


◇◇◇


 その頃、シャロンは既に動き出していた。

「こっちでいいのね?」

『うん、合ってるよ!』

 風の精霊シルフが元気に応える。

『あ、でも、何かが近付いて来るね!』

「何かって何よ?」

『分かんない!』

 はぁ~っとため息を一つ吐いて、シャロンは警戒を強めた。この精霊は本当に頼りになるのだろうかと心配になりながら...


◇◇◇


 同時刻、シルベスターはパニックを起こしていた。

「暗いの怖いよ~!」

『シルベスター、ちょっと落ち着いてよ』

 土の精霊ノームが宥めても効果が無い。

「誰か助けてよ~!」

『困ったな~ 何かが近付いて来るんだけど...』

「もうお家に帰りたいよ~!」

『ダメだこりゃ...』

 お手上げである。


◇◇◇


 アルベルトは苛ついていた。

「おい、本当にこっちで合ってんだろうな?」

『......』

 火の精霊イフリートはこんな時でもマイペース。アルベルトに一言『付いて来い』と言ったっきり何も話さない。

「はぁ~...」

 アルベルトは特大のため息を吐いて後を付いて行く。

 何かが近付いて来ることをまだ知らないまま...
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