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第12話 第三者視点 精霊王の祠 その2

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 プルートーは驚愕していた。


 この娘、まだ心が壊れない。もう何度目かになるか分からない程、耐え難い悪夢に苛まれ続けているというのに。ここまで心の強い人間を見たのは初めてだった。

 面白い...プルートーは愉悦を感じていた。この強い人間を屈伏させられれば、どれ程痛快なことだろう。目の前で悲鳴を上げながら恐怖と戦っているミナを見下ろして暗く嗤った。

 人間の心を操るのは慣れている。こういった強い心を折るには、その者に近しい人間を甚振る方が効果がある。人間とはなんて愚かな生き物なんだろう。自分は傷付けられても耐えられるのに、家族や恋人、友人が傷付けられると簡単に折れる。本当に愚かだ。

 プルートーは一旦、ミナに対する攻撃を止めた。ミナの悲鳴が途切れる。冷たい石畳の上に突っ伏したその小さな体は、度重なる悪夢に苛まれ、今や息をしてるのがやっとという酷い状態だった。

「ふむ、ここまで耐えられたのは貴様が初めてじゃ。褒美をやろう。貴様の代わりに心を壊す者を選ばせてやる。誰が良い? 選べ」

 ミナからの返答は無い。あるいは既に声も出せないのか? 確認しようとプルートーが近付いて行くと、

「...け..る...な」

 どこにそんな力が残っていたのか、ミナがゆっくりと立ち上がった。しかもその体は白い光に包まれている。

「ふざけるなっ!!」

 ミナの裂帛の気合いに押されてプルートーが慌てて仰け反る。

「き、貴様、なんだその力はっ!?」

 誰を傷付けるって? 殿下? シャロン様? エリオット? シルベスター? 冗談じゃないっ! 誰一人傷付けさせるもんかっ!

「お前なんかの好きにさせて堪るかぁ!!」

 ミナの体を包んでいた白い光が溢れ、洞窟中に広がる。

「グォォォッ! 眩しいっ! この光は貴様かっ! ユグドラシル!」
 
 どこからか厳かな声が響いて来た。

「...闇の亡者よ...この者に手出しするのは許さん。早々に立ち去るが良い」

「おのれ~! あと一歩だったのにっ! 覚えておれよっ!」

 プルートーの捨て台詞を最後に、禍々しい闇の気配は消え去った。

 それを確認したミナは力尽きて意識を手放した。


◇◇◇


 一方その頃、浮島に着いたアルベルト達は『精霊王の祠』の前に居た。

「ここに昼間、ミナさんとお参りに来たのよ。その時、ミナさんは誰かの声が聞こえたみたい。私には何も聞こえなかったから気のせいじゃないかと思ってたんだけど...」

 シャロンが口惜しそうに言う。

「なるほど...その時点で何か良からぬものに目を付けられたのかもな...取り敢えずこの祠を調べよう」

 石碑の周りや建屋の周りを隈無く調べたが、なんの痕跡も見付からなかった。手詰まりになりかけた頃、シルベスターが何かに気付いた。

「微かですが魔力の流れを感じます..」

「なにっ!? どこからだ!?」

「...この石碑の下からです」

「...こいつを押してみよう」

 男三人係りで押してみる。

「いくぞっ! せーのっ!」

 一瞬の抵抗の後、ガコンっという音と共に石碑が後ろに倒れ、その下に地下へ続く階段が現れた。

「これはっ!」

 全員で顔を見合わせる。アルベルトが代表して告げる。

「...降りてみよう。危険かも知れないからシャロンは残っ」

「行くわっ!」

 被せるようにシャロンが言う。

「...分かった。全員で行こう」

 アルベルトを先頭にゆっくりと慎重に階段を降りて行った。


◇◇◇

 
 どれくらい気を失ってたんだろう...

 ミナが目を開けた時、白い光は収束しボール状になって洞窟の真ん中辺りにプカプカ浮いていた。

「気付いたか」

 球体が点滅し、あの厳かな声が聞こえた。

「あなたは...」

「儂の名はユグドラシル。精霊王とも呼ばれておる」

「精霊王...」

 ミナはまだ頭がぼんやりしていて良く理解出来ていない。

「助けるのが遅くなって申し訳なかった...辛い思いをさせて済まない...」

「あ、いえ...それよりも説明をお願い出来ますか?」

「うむ、そうだな...お主、儂と闇の奴との因縁に関してご存知かな?」

「えぇ、1000年前、あなたは『星の乙女』と共に闇の精霊と戦い、共倒れになったと」

「おぉ『星の乙女』か...懐かしい響きだ...その通り、あの者がいなければ奴を封印することは敵わなんだ。感謝してもしきれん...儂はあの戦いで力を使い果たし、目覚めるまで1000年掛かった」

「目覚め...それは闇の精霊も同時にってことですか?」

 ミナの頭もやっとハッキリしてきた。

「いや、奴の方が僅かばかり早かった。そのせいでお主を酷い目に合わせてしまった...」

「いえ、それはもういいです。それより眷族がどうのと言ってましたが?」

「うむ、奴は完全に復活する前に、儂に対する手駒を少しでも増やしておこうと画策しておるらしい。お主を取り込もうとしたのもその一環じゃ」
 
「では...闇の眷族なる者が既にこの世に存在していると?」

「厄介なことにな...奴は取り込みに失敗したお主を敵認定するじゃろう...」
 
 ミナは寒気を感じ、身を震わせる。またあの悪夢を見ると思うと...

「お主にこれを...」

 光の球体の一部がミナの手元に伸びて来るのを手で受け止める。光が消えると、そこには木の形をしたペンダントが存在していた。

「...これは?」

「儂の加護を込めた。お主の力になるじゃろう。受け取ってくれ。儂もまだ完全に復活した訳ではないから、この程度が精一杯なんじゃがな...」

 申し訳なさそうに言ってるが、精霊王の加護とは...それだけでなんとも恐れ多い...しかも木の形って...これってやっぱり世界樹(ユグドラシル)ってことよね?...ミナはこんな時なのに少し笑いそうになった。

「いえ、とても嬉しいです。ありがとうございます」 

「フフッ、それにしてもお主を見ているとミコトを思い出す」

「ミコト? 誰ですかそれ?」

「あぁ、1000年前の『星の乙女』じゃよ」

 ミナは息を呑んだ。


◇◇◇


 アルベルト達は戦っていた。

『ファイアボール』

『ウインドカッター』

『アイスニードル』
 
『グランドスパイク』

 それぞれの得意属性魔法で迫り来る魔獣を迎え撃っていた。

「くそっ! 地下にこんなダンジョンがあるなんてっ!」

 アルベルトが喚いた通り『精霊王の祠』の階段を降りた先は、ダンジョンになっていた。魔獣はそれ程強くない。吸血コウモリや吸血ヒル、巨大ネズミに火吹きトカゲや毒吐きヘビなど。ただ数が多い。

「今、何階だ?」

「地下5階よ。あと半分。急ぎましょう!」

 アルベルトの問いにシャロンが答える。彼女の空間認知能力は地下でも発揮される。マッピングはお手の物だ。これが無かったらダンジョン内で迷子になっていただろう。

「殿下、先頭を代わります」

「すまん、頼む」

 それでも疲労は隠せない。特に先頭を歩くアルベルトは、灯りとして常に火魔法を展開しているから尚更だ。見かねたシルベスターが交代を申し出た。彼は四属性持ちなのでこういう時は便利だ。ちなみに四属性の中でも一番得意なのは火魔法だったりする。

 またしばらく戦闘と移動が続き、地下7階に達した時だった。目の前に割と広目の空間が広がり、魔獣の気配も無い。どうやらダンジョン内の安地らしい。

「ここで少し休憩しましょう」

 エリオットが提案する。得意の水魔法で全員の喉を潤す。その水には癒しの効果が有る。体力を回復させ、負った傷を治してくれる。

 なんだか俺達バランスの良いパーティーだよな、とアルベルトは場違いながらもそう思っていた。もちろん、ミナの救出が最優先で、急がねばならないが、少しだけこの状況を楽しんでいる自分に気付いた。

 休憩後、気を取り直して先に進む。そして...

 ついに最下層の地下10階に辿り着いた一行の前には、ダンジョンにそぐわない重厚な造りのドアが待ち構えていた。

「これってやっぱり...」

「「「ボス部屋ですね」」」

「だよな...」

 アルベルトの問い掛けに全員の声が揃う。フゥッと一息ついて全員の顔を見渡す。

 意を決してドアノブに手を掛け叫ぶ。

「行くぞっ!」



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