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 カツーン...カツーン...カツーン...

 薄暗い地下牢にハイヒールの足音が木霊する。その足音はとある薄汚れた牢屋の一つの前で止まった。

「お久し振り。あら? 割と元気そうね? もっと窶れているかと思っていたわ」

 コウシャンが鉄格子越しに話し掛けたのは、牢屋に入れられたダンシャルだった。あの卒業パーティーの日以来、ここに収監されて処罰が決定するのを待っている。もうかれこれ一ヶ月になる。

 格好はあの日に着ていたドレスのままだ。風呂に入れてないので汚れまくっている。顔も化粧が落ちて酷い状態になっている。髪は汗と油でベタベタになっている。

「...なんの用よ...」

 ダンシャルは固い粗末なベッドに腰掛けたまま力無く呟く。

「どうしてもあなたに聞いておきたいことがあったのよ」

「...何よ?」

「あなたは何を狙っていたの? まさか本気で逆ハー狙いだったの? その割には攻略対象者と簡単に寝るだなんて攻略がお粗末過ぎない? このゲーム、全年齢対象なのよ? 18禁じゃないのよ?」

 その言葉にダンシャルは飛び上がった。そして鉄格子に齧り付く。

「あ、あんた! ま、まさか!」

「えぇ、そのまさかよ。私もあなたと同じ転生者なの」

 コウシャンは淡々と告げた。

「そ、そんな...あっ! だからイベントが何一つ起きなかったのね!」

 ダンシャルは得心が行ったというような顔をした。

「そりゃ当然でしょう? 私が転生した悪役令嬢の末路がどうなるのか、あなたもよおく知ってるはずよね?」

「......」

 ダンシャルは答えない。いや、答えられないのだ。そんなダンシャルを冷めた目で見やりながらコウシャンは続ける。

「卒業パーティーで断罪されて、今あなたが入っている独房で自害するのよね?」

「......」

 ダンシャルは尚も答えない。

「それか別のルートだと、公開処刑としてギロチンで首を刎ねられるってパターンもあったわね?」

「......」

 ダンシャルはまだ答えない。

「そんな運命を甘んじて受け入れろと? 冗談じゃないわよ!」

 コウシャンは吐き捨てるようにそう言った。

「だから何もしなかったのよ。このゲーム、悪役令嬢に何か恨みでもあるのかっていうくらい、製作者サイドの悪意を感じたからね。なにせ全てが死亡エンドなんだもん。定番の国外追放や修道院送りすらないのよ? そんなゲームの悪役令嬢に転生してしまったと分かった時の絶望があなたに分かる?」

 コウシャンは厳しい目でダンシャルを睨み付けた。

 ダンシャルはついに俯いてしまった。

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