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「父上! どういうことですか!」

 興奮のあまり、秘書官の制止を振り切って執務室に飛び込んで来たミハエルに対し、面食らったヘンドリックスは国王としての仮面が一瞬剥がれた。

「どわぁ!? なんだ!? なんだ!? 何事だ!?」

 ミハエルの父上呼びを諌めるどころか、国王としてあるまじき狼狽え方だった。

「ミーナ大公妃のことです! 父上が付いていながらなんという体たらくですか! せっかくの手掛かりだったというのに!」

 だがそんな国王である父の変化にも気付かないほど興奮しているミハエルは、唾を飛ばしながらヘンドリックスに詰め寄った。

「あ、あぁ、そのことか...済まぬ...儂の落ち度であった...」

 少し落ち着きを取り戻したヘンドリックスは、国王としての威厳を保とうと努力したつもりだったのだが、やはり心のどこかには後ろめたい気持ちが残っていたのだろう。国王が謝罪するなど本来あってはならないことである。

「えっ!? ち、父上!?」

 なので今度は詰め寄っていたミハエルの方が面食らってしまった。

「王家の恥をこれ以上晒すまいと配慮したつもりだったのだがな...結果として儂の浅慮であった...なにも情報を聞き出すことが出来ず...済まぬ...許せ...」

「そういう意図だったんですね...だから父上自らが尋問役を買って出たと..」

「あぁ、例え近衛騎士団であっても任せる訳にはいかないと思ってな...」

「良く分かりました...申し訳ありません...ちょっと興奮し過ぎておりました...」

 ミハエルは今更ながら不敬を素直に詫びた。

「良い。そなたも苦労しているのは分かっておるでな。それで? 捜索の状況はどうなっておる?」

「はい、叔父上...マクシミリアン大公の隠れ家はしらみつぶしに当たりましたが、あと一歩のところで取り逃がしました。今は国境付近の捜索に当たっているところです」

「そうか。引き続きよろしく頼む」

「はい、それで父上...じゃなかった陛下、ミーナ大公妃は一言も喋らず自決されたのですか?」

 ミハエルはこれまた今更ながら陛下呼びに戻した。

「あぁ、儂が部屋に入った時は既に毒を呷った後だった」

 ヘンドリックスも今更咎めたりはしない。

「身体チェックは? しなかったんですか?」

「あぁ、なにせ近衛騎士団は男所帯だからな...遠慮してしまったようだ...」

「陛下...今更ではありますが、近衛騎士団に女性の登用を具申します」

「うむ、まさに儂も今その必要性を痛感しておるところだ...直ちに手配しよう」

「お願いします。では私はこれで」

 ミハエルが去った後、ヘンドリックスは長いため息を一つ吐いた。
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