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 ルイスはミハエルの命令を王宮に伝えるという体を装おって、そそくさと騎士団の詰め所を後にした。向かう先はもちろん王宮ではなく、ライラを閉じ込めてある場所だ。

「くそっ! あの女のせいで計画が全て台無しだ!」

 忌々し気に呟きながらルイスが向かった先は、例の古井戸ではなく地下にあるワインセラーだった。

 芳ばしいワインの香りが充満する場所の一角に、ちょっと分かり辛いが壁の一部に出っ張りが突き出ている所がある。ルイスがその出っ張り部分を強く押すと、音も無く壁がスライドして通路が現れた。

 実はこれ、有事の際に王族が緊急脱出するための抜け道なのである。王族しか知らないはずの抜け道の存在を、なぜルイスが知っているのか理由は不明だが。

 ともあれ、作戦が失敗した以上長居は無用とばかりに、ルイスは急いで通路に飛び込んだ。


◇◇◇


「う、うーん...」

 一方その頃、ライラはようやく気絶から目覚めた。まだ後頭部に痛みは残るものの、少し寝たおかげで大分頭はスッキリしてきた。目眩も無い。後頭部にそっと触れてみたが、どうやら出血も収まったようだ。

「お腹空いた...喉渇いた...」

 少しホッとしたと同時に、今度は食欲が湧いてきた。無理もない。夕べからなにも口にしていないのだから。

「なんかないかな...」

 ライラは、閉じ込められた地下牢らしき部屋をゆっくりと眺めてみた。自然の岩をくりぬいて鉄格子を嵌めただけの簡単な造りだ。ベッドも無ければトイレも無い。要するになんも無い。

「ん? 今なんか水音がしなかった?」

 喉が渇いてるための幻聴かと思って耳を澄ませてみたら、

『ピチャン...ピチャン...』

 間違いなかった。この場所はどうやら地下のようなんで、地下水が漏れているのかも知れない。

 水音を頼りに暗がりを手探りで捜す。

「あ、あった! ここだ!」
 
 手に水が当たった感触があった。ライラは手の平を広げて落ちてくる水を貯めた。一滴一滴、溢さないよう慎重に。やがて水は手の平一杯になった。

「ゴクッ...ゴクッ...ふぅ、美味しい...」

 ライラがやっと人心地付いたその時だった。

『コツン...コツン...』

 という靴音と共に、灯りがこちらの方へと向かって来ていた。ライラは緊張して身構える。やがて靴音は鉄格子の前で止まった。

「よう、お嬢様。目が覚めたみたいだな?」

「あ、あんた! よくもやってくれたわね! 覚えてなさい! 絶対に許さないんだから!」

 灯りに映ったルイスの顔を認識した途端、ライラは怒りを爆発させた。
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