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「ドロシー嬢、朗報だ。君の母親であるイザベラ殿を無事保護した」

「本当ですか!?」

「あぁ、今こっちに向かっているところだ」

「あ、ありがとうございます!」

 感極まったのかドロシーは泣き出してしまった。

「それと君達母娘の隠れ家と偽物の身分も用意した。ほとぼりが冷めるまでそこで静かに暮らすと良い」

「な、何から何まで本当に申し訳ございません!」

 これまでの緊張感から解放された反動故か、ドロシーの涙は止まらなくなった。

 そこにあったのは、ある日無理矢理公爵令嬢という身分を押し付けられ、肩肘張って生きて来たであろう少女の姿ではなく、どこにでも居るごく普通の少女が年相応に振る舞っているかのような姿だった。

「念のために聞いておくが、公爵令嬢という身分に未練は無いな?」

「はい! 欠片もありません!」

 ドロシーはキッパリと言い切った。

「よろしい。今日から君はただのドロシーだ。母親と二人で幸せにな」

「あ、ありがとうございます~!」

 ついにドロシーが号泣し始めた頃、

「あ、来たようだぞ?」

 部屋のドアがノックされた。

「入れ」

「失礼します」

 近衛兵の一人が部屋に入って来た。そしてその後ろには...

「あぁ、お母さん!」

「ドロシー!」

 ドロシーに良く似た中年の女性が続いていた。その姿を見かけるや否や、ドロシーは泣きながら抱き付いた。

「お母さん! お母さん! お母さ~ん!」

「ドロシー! ドロシー! ドロシー~!」

 互いを連呼しながら抱き合う母娘の姿を優しく見守りながら、ミハエルと近衛兵はそっと部屋を後にした。


◇◇◇


「さて、残すはラングレー公ただ一人だな。なにか動きはあったか?」

 詰め所に戻ったミハエルは、そこに詰めている近衛兵達を見回しながら尋ねた。

「今の所まだ動きは無いようです」

「そうか。取り引きの時期じゃないのかな?」

「かも知れませんね。どうします? ドロシー嬢に対する殺人教唆でまずはしょっぴきますか?」

 ミハエルは腕を組んでしばし考えた後、

「う~ん...それだとちと弱いな...」

 顔を顰めながらそう言った。

「シラを切られたら面倒だし、警戒させて肝心の密輸の方の証拠を隠滅されたりしたら厄介だ。ここはやはり現場を押さえたい所だな」

「確かにそうですね」

「ところで騎士団長はどこ行ったんだ?」

 ミハエルは部屋を見渡しながらそう言った。

「陣頭指揮を執るために現地へ飛びました」

「騎士団長自らが?」

「はい、なんでも『お前らに任せておくのは不安だ』とのことで...」

「そうか。なら向こうは任せて安心だな」

 ミハエルは少しだけ胸を撫で下ろした。
 
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