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 その日、絵画の習い事をミシェルと一緒に受けていたライラは、

「ミシェルさん、くれぐれも用心して下さいね?」

 しっかりとミシェルに釘を刺していた。

「...ライラさん...今日そのセリフ言うのもう何度目ですか...」

 ミシェルは呆れたような口調でそう言った。

「何度だって言いますよ! なにせ相手は『腹黒陰険スケコマシ淫乱好色エロエロ色魔王』なんですから!」

 ライラの中のミハエル像はイメージの急降下に歯止めが掛からなくなったようだ。

「ハァ...もう一度聞きますが、一体ミハエル殿下となにがあったって言うんですか? そこまで嫌ってなんかいなかったでしょう?」

「何度だって言いますが、それだけは言いたくありません!」

 そう、実はこの二人、先程からこのような不毛な対話を繰り返していたのだった。なので二人共、目の前のキャンバスは真っ白なままだ。

「だからそんなんじゃ訳が分からないって...これも何度も言ってるんですが...」

「分からなくてもいいんです! とにかく身持ちを固めて付け入る隙を与えないようにして下さいね! なにかあったら泣くのは女なんですからね!」

 とにかくライラは頑なに注意を促し続ける。ミシェルは段々と疲れて来た。

「あのミハエル殿下に限ってそんなことにはならないと思いますが...相手がライラさんならともかく...」

「えっ!? 今なんて!?」

「なんでもありませんよ...ハァ...分かりました...せいぜい気を付けることにしますよ...」

「それでいいんです!」

 ついに根負けしたミシェルに、ライラは満足そうな笑顔を浮かべた。

「まぁなんにせよ、私のやることは一つだけですからね」

「ん!? それってどういう意味ですか!?」

 ライラは首を傾げた。

「お忘れですか? 私はライラさんがミハエル殿下と結ばれて、王妃様になられることを期待しているんですよ?」

「あ、素で忘れてた...確かにそんなこと言ってましたっけ...」

 ライラは遠い目をした。

「良く分かりませんが、なにやら今はお互いにすれ違いというか誤解をされているようなご様子」

「いや、そういうことじゃないんですが...」

 そんなライラの言葉を丸っと無視してミシェルは続けた。

「だったらここは私が一肌脱ぐしかありませんね! お任せ下さい! 誤解を解いて絶対にお二人の仲を取り持ってみせますからね!」

 まるで今から貴族令嬢らしからぬ腕捲りでもしかねない勢いのミシェルの様子に、ライラは困惑しながらドン引きしていた。
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