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 覚悟していた事とはいえ、これまで男性経験の全く無いファリスにとっては、ドキドキワクワクする気持ちと共に、初めての男性に対する恐怖感みたいなものも相まって、体が小刻みに震えているのを自覚していた。

 緊張しながら待っているのだが、一向にミハエルの唇は降りて来ない。訝しく思ってちょっと薄目を開けてみると、そこには厳しい顔付きでファリスを睨み付けているミハエルの姿があった。

「えっ!? なんで!?」

 ファリスは思わずそう口にしていた。なぜならこれは明らかに媚薬で篭絡された表情じゃなかったからだ。

 実はファリス、媚薬を盛られた男の表情を以前に見た事があったりする。媚薬の効果を確認しておくために、使用人の男を使って実験してみたからだ。

 その時の男の表情はこんな風じゃなかった。もっと目はトロンとしていて、だらしなく涎を溢しながら、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべていたものだった。

「残念だったな。王族に媚薬の類いは効かない。幼少期から薬に耐性を持つよう訓練されているからな。ハニートラップに引っ掛からないために」

「そ、そんな...」

 自分の目論見が看破されていたこと、そして王族の男子を甘く見ていたことを実感させられたファリスは、絶望感に包まれたまま絶句するしかなかった。

「既成事実を作れば優位に立てるとでも思ったか? 残念だが、もしそうなったとしても君は失格になっていたぞ?」

「えぇっ!?」

「なにを驚く? 当たり前だろう? 薬を使って自分の思い通りに事を運ぼうとするような輩に、とてもじゃないが王妃なんて任せられないさ。そう思わないか?」

「そ、それは...」

 言われてみれば確かにその通りだ。目的のためには手段を選らばないような輩が王妃になったりしたら大変だ。ヘタすりゃ国家存亡の危機に陥るかも知れない。

 ファリスは自分の考えが甘かったことを痛感して臍を噛んだ。

「つまり君はヤられ損になるという訳だが、どうする? まだ続けるのか?」

「い、いいえ! いいえ!」

 ハッキリと否定しながらファリスは慌ててミハエルから離れた。目的が達成できないと分かった以上、こんな形で純潔を散らされたんじゃ堪ったものじゃない。

「そうか? それは残念だな」

 ミハエルは余裕綽々と言った笑みを浮かべながら楽しそうにしている。一方のファリスは対照的に悲壮感を漂わせている。

「さてファリス嬢、君に対する罰はどうしたもんだろうね?」

 王族に対して薬を盛ろうとしたのだ。極刑に値すると言われても文句は言えまい。ファリスは覚悟完了したような表情を浮かべて、ミハエルの言葉の続きを待った。
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