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「なんでよ!? いいじゃないの!? 王妃になれるのよ!? 殿下には愛されてるし。一体なにが不満なのよ!?」

 ソニアは本当に訳が分からないとばかりに肩を竦めた。

「なにもかもがですよ...そもそも、私みたいな田舎者に王妃が務まるはずないじゃありませんか...ずっと牛や馬や羊を相手にしてたんですよ?」

 ライラは自嘲気味にそう呟いた。

「ライラさん、あなた自分で気付いていないの?」

「なにがですか?」

「あなたの所作、ここに来た当初に比べたら随分と洗練されて来ているのよ?」

「えぇっ!? どこがですかぁ~!?」

 ソニアの言葉がよっぽど意外だったのか、ライラは頻りに首を捻っている。

「無意識だったのね。殿下が言っていた通り、マナー講座を真剣に学んでいるからこそ、自然に身に付いたってことなんでしょうね」

「な、なんてこと...」

 そう冷静に分析したソニアに、ライラは頭を抱えてしまった。

「王妃になるのになにも問題はないじゃないの!? あなたもやる気あるみたいなんだから」

「ううぅ...」

 ライラとしては一重に、マナー講座の講師が厳しかったから真面目に取り組むざるを得なかった。その一言に尽きるのだが、結果として粛々と王妃に相応しい気品が身に付いてしまったようだ。

「見事に殿下の目論見通りになったって訳ね」

「あおぅ....」

 ライラは周りから次第に外堀を埋められて行くような感覚に陥った。なんだか薄ら寒く感じられたので、思わず自分の両腕で自分の体を抱き締めていた。

「ライラさん、もう観念して殿下の想いを受け止めてあげたらどう?」

 ソニアはまるで聞き分けのない子供をあやすような優しい口調でそう言った。

「い、イヤですよ...な、なんで私が...」

「殿下に本気で愛されているのにまだなにか不満があるっていうの?」

「そ、そういう問題じゃなくて...」

「あなた自身の気持ちはどうなのよ?」

「わ、私の?」

「そう。あなたは殿下のことをどう思っているのよ?」

「わ、私は...」

 いきなり踏み込まれたライラは答えに窮した。自分はミハエルのことをどう思っているんだろう? 改めてそう聞かれても答えはすぐには出ない。

 腹黒ではあるが嫌いなタイプではない...とは思う。だが将来を共にする気があるかと問われれば、まだお互いを良く知り合っている訳でもないし、そこまで深くは踏み切れないという気持ちもある。

「まぁいいわ。合宿はまだ続くんだし急ぐこともないわよね。ゆっくりと愛を育みなさいな。私がたっぷりサポートしてあげるからね♪」

 中々答えを出せないライラのことを、ここぞとばかりにソニアが煽った。
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