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第2章 聖女と聖獣
第38話 発進
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タチアナはクロウを連れて菜園に来ていた。
クロウに食事をさせる為だが、タチアナ自身も朝から妙な胸騒ぎに襲われ、落ち着かなくて外に出たかったというのもある。
クロウは相変わらず何も口にせず、ただただ北の方を見詰めている。つられてタチアナも同じ方に目を向けたその時、腕に巻かれたリシャールの魔力を検知する魔道具が音を立てて砕け散った。
「えっ!? なんで!?」
呆気に取られたタチアナの全身にゾワッとした怖気が走り、身を竦ませる。北の方から途轍もないプレッシャーが掛かって来ているのを知覚した時、リシャールの身に何か良く無い事が起こったのだと本能的に理解した。
思わずその場にヘタり込んでしまったタチアナはガタガタと震えていた。そんなタチアナを後ろから見ていたセイラが慌てて駆け付ける。
「お、おい、タチアナ、一体どうしたんだ!?」
「あっ! セイラ様ぁ、リシャール様がリシャール様がぁ!」
そう言って泣きじゃくってしまったタチアナの手にあったのは、粉々に砕け散ったリシャールの魔力を検知する魔道具のなれの果てだった。
セイラも昨夜見た変な夢のせいもあり、不安な気持ちでいたのだが、それを見た瞬間により不安が高まった。その時だった。
『...けてあげ...』
「えっ!? なに!? どこから!? 誰の声だ!?」
『...助けてあげて...』
「えっ!? 誰を!? なにを!?」
『あの人達を助けてあげて』
「リシャール達のことか!? そりゃ助けが必要なら助けてやるけど...」
急に1人で喋り出したセイラを、タチアナが訝しげに見やる。
「セイラ様!?」
そんな中、謎の声は更に続けた。
『じゃあ助けに行きましょう。一緒に』
パリーーーンッ!!!
乾いた音色が響き渡った瞬間、クロウの体が光に包まれた。
「クロウっ!? 大丈夫っ!? えっ!?」
光が収まった時、クロウの体は二階建ての家より大きな姿に成長していた。
「「えええええっっっっっ!?」」
タチアナとセイラの絶叫が重なって響き渡ったが、クロウは何でもないような顔で、
「クルルル」
と、ちょっとだけ低くなった声で鳴いた。
『さ、行くわよ。乗って』
「の、乗るってどこに!?」
『この子に。さぁ早く』
「えっ!? ちょっと待ってっ!? ひぃやぁぁぁ!?」
混乱しているセイラを、クロウがそっと咥えてポイッと自分の背中に放り投げる。
「せ、セイラ様!?」
タチアナはどうして良いか分からずオロオロしている。
「あぁビックリしたぁ~! ってここトカゲの背中!?」
『乗ったわね、じゃあ行くわよ』
乗ったというか乗せられたというか、とにかく色々な事がいっぺんに起こってセイラは混乱の極みにある。
「ひょわわわっ!? えっ!? う、浮いてる!?」
セイラを乗せたクロウはフワッと浮き上がり、一旦空中で静止した後、急に加速して北を目指す。
「ひぃぃぃ! 怖い怖い怖いっ~!」
『落ち着いて。落ちたりしないから』
「そ、そんな事言われても~!」
怖いモンは怖いっ! セイラは目を閉じてしがみ付くので精一杯だった。タチアナはその姿を呆然と見送るしかなかった。
クロウに食事をさせる為だが、タチアナ自身も朝から妙な胸騒ぎに襲われ、落ち着かなくて外に出たかったというのもある。
クロウは相変わらず何も口にせず、ただただ北の方を見詰めている。つられてタチアナも同じ方に目を向けたその時、腕に巻かれたリシャールの魔力を検知する魔道具が音を立てて砕け散った。
「えっ!? なんで!?」
呆気に取られたタチアナの全身にゾワッとした怖気が走り、身を竦ませる。北の方から途轍もないプレッシャーが掛かって来ているのを知覚した時、リシャールの身に何か良く無い事が起こったのだと本能的に理解した。
思わずその場にヘタり込んでしまったタチアナはガタガタと震えていた。そんなタチアナを後ろから見ていたセイラが慌てて駆け付ける。
「お、おい、タチアナ、一体どうしたんだ!?」
「あっ! セイラ様ぁ、リシャール様がリシャール様がぁ!」
そう言って泣きじゃくってしまったタチアナの手にあったのは、粉々に砕け散ったリシャールの魔力を検知する魔道具のなれの果てだった。
セイラも昨夜見た変な夢のせいもあり、不安な気持ちでいたのだが、それを見た瞬間により不安が高まった。その時だった。
『...けてあげ...』
「えっ!? なに!? どこから!? 誰の声だ!?」
『...助けてあげて...』
「えっ!? 誰を!? なにを!?」
『あの人達を助けてあげて』
「リシャール達のことか!? そりゃ助けが必要なら助けてやるけど...」
急に1人で喋り出したセイラを、タチアナが訝しげに見やる。
「セイラ様!?」
そんな中、謎の声は更に続けた。
『じゃあ助けに行きましょう。一緒に』
パリーーーンッ!!!
乾いた音色が響き渡った瞬間、クロウの体が光に包まれた。
「クロウっ!? 大丈夫っ!? えっ!?」
光が収まった時、クロウの体は二階建ての家より大きな姿に成長していた。
「「えええええっっっっっ!?」」
タチアナとセイラの絶叫が重なって響き渡ったが、クロウは何でもないような顔で、
「クルルル」
と、ちょっとだけ低くなった声で鳴いた。
『さ、行くわよ。乗って』
「の、乗るってどこに!?」
『この子に。さぁ早く』
「えっ!? ちょっと待ってっ!? ひぃやぁぁぁ!?」
混乱しているセイラを、クロウがそっと咥えてポイッと自分の背中に放り投げる。
「せ、セイラ様!?」
タチアナはどうして良いか分からずオロオロしている。
「あぁビックリしたぁ~! ってここトカゲの背中!?」
『乗ったわね、じゃあ行くわよ』
乗ったというか乗せられたというか、とにかく色々な事がいっぺんに起こってセイラは混乱の極みにある。
「ひょわわわっ!? えっ!? う、浮いてる!?」
セイラを乗せたクロウはフワッと浮き上がり、一旦空中で静止した後、急に加速して北を目指す。
「ひぃぃぃ! 怖い怖い怖いっ~!」
『落ち着いて。落ちたりしないから』
「そ、そんな事言われても~!」
怖いモンは怖いっ! セイラは目を閉じてしがみ付くので精一杯だった。タチアナはその姿を呆然と見送るしかなかった。
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