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第2章 聖女と聖獣

第36話 思惑

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 エルヴィンは歯噛みする思いで王宮からの急報を受けた。

 (帝国とルーフェンが繋がっていた。ルーフェンの奴らが待っていたのはこれだったのか...)

 周辺国の内情を探っていた中に、この二国が聖女に並々ならぬ関心を寄せているというのが確かにあった。歴代の聖女に比べ、聖女の力が比較にならない程の大きさであるという事は、周辺各国の間で最早知らない国が無い程に広まっている。

 それも当然で、エリクサーを作れる聖女ともなれば金の卵を産むガチョウより価値が高い。戦争を仕掛けてでも手に入れたい、それ程の価値が十分ある、そう判断したのがこの二国ということなんだろう。 

 幸いなことに『真・聖女』であるセイラの情報はまだ渡っていないようだが、それも時間の問題と思われる。

 そこまでは分かる。だがその後どうする? 首尾良く聖女を手に入れたとして、二つに分ける訳にもいくまい。まさかの早い者勝ちか? それとも手に入れた後また二国間で争うのか?

 エルヴィンは頭を振って思考を切り替える。奴らの心配してる場合じゃない、まずは我が国を戦場にしない事だけに集中しよう。

 断じて奴らの思い通りにさせてなるものか!

「殿下、増援が到着しました!」

 部下の報告にエルヴィンは一層気を引き締めた。それと同時に現在、エインツに向かっている弟に思いを馳せた。

 (こっちは任せろ。そっちを頼むぞ、リシャール)


◇◇◇


 エインツの町は夜が明けたというのに、濃い瘴気の影響か薄らぼんやり霞んで見える。

「帝国軍の様子はどうだ?」

 隊長のグレンが部下に尋ねる。

「今の所、表立った動きは見せておりません。こちらに向かって来る様子もありません」

 動きが妙だな、何か待っているのか? グレンは南の砦でエルヴィンが感じたのと同じ考えに至った。

「瘴気の発生元と原因は掴めそうか?」

「分かっているのは、瘴気の流れが山の方から漂って来ているというくらいで、場所の特定までは...原因も掴めそうにありません」

 まぁ、帝国軍の影に怯えながらの探索では仕方無いだろう。

「町の様子はどうだ?」

「建物の倒壊も人的被害も軽微だった模様で、表面上は落ち着いているように見えます」

 フム、部下達の報告を受けたグレンは一つ頷いた後、窓から町内を見下ろす。確かにこうして眺める町並みに変化は見られない。

 先日の酷い揺れには驚いたが、その後は揺れも収まった。相変わらず妙なうめき声は聞こえて来るが、それももう慣れた。

 だが瘴気の影響は見えない所に出ていると思われる。たとえば、子供や老人などの生活弱者は耐えられないだろうと思う。

 王都からの応援が到着するのは早くて明日だろう。可哀想だがそれまで何とか耐えて欲しいと願った。

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