36 / 51
第2章 聖女と聖獣
第36話 思惑
しおりを挟む
エルヴィンは歯噛みする思いで王宮からの急報を受けた。
(帝国とルーフェンが繋がっていた。ルーフェンの奴らが待っていたのはこれだったのか...)
周辺国の内情を探っていた中に、この二国が聖女に並々ならぬ関心を寄せているというのが確かにあった。歴代の聖女に比べ、聖女の力が比較にならない程の大きさであるという事は、周辺各国の間で最早知らない国が無い程に広まっている。
それも当然で、エリクサーを作れる聖女ともなれば金の卵を産むガチョウより価値が高い。戦争を仕掛けてでも手に入れたい、それ程の価値が十分ある、そう判断したのがこの二国ということなんだろう。
幸いなことに『真・聖女』であるセイラの情報はまだ渡っていないようだが、それも時間の問題と思われる。
そこまでは分かる。だがその後どうする? 首尾良く聖女を手に入れたとして、二つに分ける訳にもいくまい。まさかの早い者勝ちか? それとも手に入れた後また二国間で争うのか?
エルヴィンは頭を振って思考を切り替える。奴らの心配してる場合じゃない、まずは我が国を戦場にしない事だけに集中しよう。
断じて奴らの思い通りにさせてなるものか!
「殿下、増援が到着しました!」
部下の報告にエルヴィンは一層気を引き締めた。それと同時に現在、エインツに向かっている弟に思いを馳せた。
(こっちは任せろ。そっちを頼むぞ、リシャール)
◇◇◇
エインツの町は夜が明けたというのに、濃い瘴気の影響か薄らぼんやり霞んで見える。
「帝国軍の様子はどうだ?」
隊長のグレンが部下に尋ねる。
「今の所、表立った動きは見せておりません。こちらに向かって来る様子もありません」
動きが妙だな、何か待っているのか? グレンは南の砦でエルヴィンが感じたのと同じ考えに至った。
「瘴気の発生元と原因は掴めそうか?」
「分かっているのは、瘴気の流れが山の方から漂って来ているというくらいで、場所の特定までは...原因も掴めそうにありません」
まぁ、帝国軍の影に怯えながらの探索では仕方無いだろう。
「町の様子はどうだ?」
「建物の倒壊も人的被害も軽微だった模様で、表面上は落ち着いているように見えます」
フム、部下達の報告を受けたグレンは一つ頷いた後、窓から町内を見下ろす。確かにこうして眺める町並みに変化は見られない。
先日の酷い揺れには驚いたが、その後は揺れも収まった。相変わらず妙なうめき声は聞こえて来るが、それももう慣れた。
だが瘴気の影響は見えない所に出ていると思われる。たとえば、子供や老人などの生活弱者は耐えられないだろうと思う。
王都からの応援が到着するのは早くて明日だろう。可哀想だがそれまで何とか耐えて欲しいと願った。
(帝国とルーフェンが繋がっていた。ルーフェンの奴らが待っていたのはこれだったのか...)
周辺国の内情を探っていた中に、この二国が聖女に並々ならぬ関心を寄せているというのが確かにあった。歴代の聖女に比べ、聖女の力が比較にならない程の大きさであるという事は、周辺各国の間で最早知らない国が無い程に広まっている。
それも当然で、エリクサーを作れる聖女ともなれば金の卵を産むガチョウより価値が高い。戦争を仕掛けてでも手に入れたい、それ程の価値が十分ある、そう判断したのがこの二国ということなんだろう。
幸いなことに『真・聖女』であるセイラの情報はまだ渡っていないようだが、それも時間の問題と思われる。
そこまでは分かる。だがその後どうする? 首尾良く聖女を手に入れたとして、二つに分ける訳にもいくまい。まさかの早い者勝ちか? それとも手に入れた後また二国間で争うのか?
エルヴィンは頭を振って思考を切り替える。奴らの心配してる場合じゃない、まずは我が国を戦場にしない事だけに集中しよう。
断じて奴らの思い通りにさせてなるものか!
「殿下、増援が到着しました!」
部下の報告にエルヴィンは一層気を引き締めた。それと同時に現在、エインツに向かっている弟に思いを馳せた。
(こっちは任せろ。そっちを頼むぞ、リシャール)
◇◇◇
エインツの町は夜が明けたというのに、濃い瘴気の影響か薄らぼんやり霞んで見える。
「帝国軍の様子はどうだ?」
隊長のグレンが部下に尋ねる。
「今の所、表立った動きは見せておりません。こちらに向かって来る様子もありません」
動きが妙だな、何か待っているのか? グレンは南の砦でエルヴィンが感じたのと同じ考えに至った。
「瘴気の発生元と原因は掴めそうか?」
「分かっているのは、瘴気の流れが山の方から漂って来ているというくらいで、場所の特定までは...原因も掴めそうにありません」
まぁ、帝国軍の影に怯えながらの探索では仕方無いだろう。
「町の様子はどうだ?」
「建物の倒壊も人的被害も軽微だった模様で、表面上は落ち着いているように見えます」
フム、部下達の報告を受けたグレンは一つ頷いた後、窓から町内を見下ろす。確かにこうして眺める町並みに変化は見られない。
先日の酷い揺れには驚いたが、その後は揺れも収まった。相変わらず妙なうめき声は聞こえて来るが、それももう慣れた。
だが瘴気の影響は見えない所に出ていると思われる。たとえば、子供や老人などの生活弱者は耐えられないだろうと思う。
王都からの応援が到着するのは早くて明日だろう。可哀想だがそれまで何とか耐えて欲しいと願った。
0
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
もう悪役令嬢じゃないんで、婚約破棄してください!
猫の恋唄
恋愛
目が覚めたら、冷酷無情の悪役令嬢だった。
しかも舞台は、主人公が異世界から来た少女って設定の乙女ゲーム。彼女は、この国の王太子殿下と結ばれてハッピーエンドになるはず。
て、ことは。
このままじゃ……現在婚約者のアタシは、破棄されて国外追放になる、ということ。
普通なら焦るし、困るだろう。
けど、アタシには願ったり叶ったりだった。
だって、そもそも……好きな人は、王太子殿下じゃないもの。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。
青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。
婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。
王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる