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第2章 聖女と聖獣
第22話 黒い魔獣
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王宮の執務室でリシャールは報告書を手に渋い顔をしていた。
「殿下、どうしました?」
補佐官であるレイモンドに尋ねられたリシャールは、黙って報告書を渡した。それに目を通してレイモンドの顔も歪む。
「霊峰に異変が!? もしかして帝国がなにか仕掛けて来たんでしょうか?」
「まだ分からん。だが聖女が現れて約半年、そろそろ何か仕掛けて来る奴が出て来てもおかしくない頃合いだろう」
「ですが目的はなんでしょうか?」
「さあな。だが犠牲者が出ているかも知れん今の状況を無視する訳にもいかん。さて、どうしたものか...」
「騎士団を派遣します?」
「いやまだそこまでの大事にはしたくない。やっと落ち着いたばかりだしな」
筆頭公爵家の不祥事に始まり聖女の誕生まで、王国内は上を下への大騒ぎだった。当然治安は乱れ、騒ぎに便乗した不穏な輩が蔓延り、王のお膝元である王都にも影を射した。
なので、特に聖女近辺の警護には厳戒体制で臨んだ。ようやく国内のバタバタも収まり、日常を取り戻しつつあるこの時を狙っていたかのような今回の騒動に、リシャールは眉を顰めた。
「まずは諜報部隊を送って状況の確認をさせよう」
「分かりました」
「それと念の為、聖女近辺の警護を強化しておいてくれ」
「了解しました。あの...セイラ様の方はどうします?」
「あれは放っておいていい。情報は他国に漏れていないはずだし、我々の言うことを素直に聞くタマじゃないしな...」
リシャールはため息を吐いた。あの『真・聖女』には護衛というか監視は常に付けているが、報告によるとちょっと目を離した隙に姿を眩ましてしまうとのことで、ホトホト苦労させられているらしい。
リシャールは頭を振って、婚約者である聖女タチアナの元へ向かう準備を始めた。今日はこれから神殿における式典に参加する予定だからだ。
◇◇◇
「セイラさまぁ~~! どこですかぁ~~!?」
神殿に聖女タチアナの叫びが木霊する。今日は久し振りに『真・聖女』であるセイラが訪ねて来たのだが、ちょっと目を離した隙に居なくなってしまったのだ。
つい最近11歳になったばかりの眉目麗しい女神のような少女セイラは、その外見にそぐわずとにかく自由奔放、豪放磊落、あらゆる意味で規格外であった。
既に身長は18歳のタチアナを越え、胸部装甲も迫る勢いだ。いや既に抜かれているかも知れない。最近はタチアナの胸を揉んでこなくなった。
「もうすぐリシャール殿下がいらっしゃるというのにぃ~! どこ行っちゃったのよぉ~!?」
タチアナが神殿中を探し回っていた頃、セイラは神殿で自給自足のため野菜を育てている菜園の端に居た。何かに呼ばれた気がしたのだ。
ここはまだ何を植えるか決まってない場所で、これから耕す予定の荒れ地である。そこに何か黒いモノが蹲っていた。
「なんだこれ? トカゲか?」
大きさは猫くらいだろうか、真っ黒な体にはウロコが生えている。体に比べて小さな翼が四枚付いていて、長い尻尾の先は二股に分かれている。四肢は太く丈夫そうな爪が生えていて、トカゲに似た顔には鋭い牙が生えている。
その不思議な生物は、赤い瞳を潤ませてセイラを見上げ、
「クゥッ!」
と甲高い声で鳴いた。
「殿下、どうしました?」
補佐官であるレイモンドに尋ねられたリシャールは、黙って報告書を渡した。それに目を通してレイモンドの顔も歪む。
「霊峰に異変が!? もしかして帝国がなにか仕掛けて来たんでしょうか?」
「まだ分からん。だが聖女が現れて約半年、そろそろ何か仕掛けて来る奴が出て来てもおかしくない頃合いだろう」
「ですが目的はなんでしょうか?」
「さあな。だが犠牲者が出ているかも知れん今の状況を無視する訳にもいかん。さて、どうしたものか...」
「騎士団を派遣します?」
「いやまだそこまでの大事にはしたくない。やっと落ち着いたばかりだしな」
筆頭公爵家の不祥事に始まり聖女の誕生まで、王国内は上を下への大騒ぎだった。当然治安は乱れ、騒ぎに便乗した不穏な輩が蔓延り、王のお膝元である王都にも影を射した。
なので、特に聖女近辺の警護には厳戒体制で臨んだ。ようやく国内のバタバタも収まり、日常を取り戻しつつあるこの時を狙っていたかのような今回の騒動に、リシャールは眉を顰めた。
「まずは諜報部隊を送って状況の確認をさせよう」
「分かりました」
「それと念の為、聖女近辺の警護を強化しておいてくれ」
「了解しました。あの...セイラ様の方はどうします?」
「あれは放っておいていい。情報は他国に漏れていないはずだし、我々の言うことを素直に聞くタマじゃないしな...」
リシャールはため息を吐いた。あの『真・聖女』には護衛というか監視は常に付けているが、報告によるとちょっと目を離した隙に姿を眩ましてしまうとのことで、ホトホト苦労させられているらしい。
リシャールは頭を振って、婚約者である聖女タチアナの元へ向かう準備を始めた。今日はこれから神殿における式典に参加する予定だからだ。
◇◇◇
「セイラさまぁ~~! どこですかぁ~~!?」
神殿に聖女タチアナの叫びが木霊する。今日は久し振りに『真・聖女』であるセイラが訪ねて来たのだが、ちょっと目を離した隙に居なくなってしまったのだ。
つい最近11歳になったばかりの眉目麗しい女神のような少女セイラは、その外見にそぐわずとにかく自由奔放、豪放磊落、あらゆる意味で規格外であった。
既に身長は18歳のタチアナを越え、胸部装甲も迫る勢いだ。いや既に抜かれているかも知れない。最近はタチアナの胸を揉んでこなくなった。
「もうすぐリシャール殿下がいらっしゃるというのにぃ~! どこ行っちゃったのよぉ~!?」
タチアナが神殿中を探し回っていた頃、セイラは神殿で自給自足のため野菜を育てている菜園の端に居た。何かに呼ばれた気がしたのだ。
ここはまだ何を植えるか決まってない場所で、これから耕す予定の荒れ地である。そこに何か黒いモノが蹲っていた。
「なんだこれ? トカゲか?」
大きさは猫くらいだろうか、真っ黒な体にはウロコが生えている。体に比べて小さな翼が四枚付いていて、長い尻尾の先は二股に分かれている。四肢は太く丈夫そうな爪が生えていて、トカゲに似た顔には鋭い牙が生えている。
その不思議な生物は、赤い瞳を潤ませてセイラを見上げ、
「クゥッ!」
と甲高い声で鳴いた。
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