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第2章 聖女と聖獣
第21話 聖なる山
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セントライト王国の北側、隣国との国境沿いに広がる山脈には、山頂付近を万年雪に覆われた峻嶺な山々が連なる。この山脈は、隣国である好戦的なアズガルド帝国の侵攻を防いでくれている。
その一角に一際高く聳える山がある。霊峰とも呼ばれるその山の名を『ラース・ダシャン』という。かつて伝説の大賢者が邪竜を封印したという謂れのある5000m級の山である。その伝説とは...
ーーー その昔、神獣である竜の内の一頭が闇に堕ち、邪竜となって人々に災いを齎した。
邪竜の吐く息は一息で森を燃やし、その爪は一撃で大地を切り裂き、翼を一度羽撃けば竜巻を引き起こし、村や町がいくつも被害に合い、人間の住むこの世界は滅亡の危機に瀕していた。
人々が絶望していた時、この山で修行をしていた一人の修験者の元に神が降臨した。神は修験者に邪竜と戦えるだけの力と大賢者の称号を与え、騎獣として天駆ける神獣を下賜した。
大賢者は死闘の末、なんとか邪竜をこの山に封印する事に成功したが、邪竜から受けた傷が致命傷となり命を落とした。
嘆き悲しんだ神獣は神界には戻らず、この山に眠る大賢者の亡骸に寄り添う事を選んだ。
そして今も見守り続けているという ーーー
とまあ、ここまでなら良く有りがちな英雄譚ではあるが、お気付きだろうか? 初代聖女の誕生秘話に酷似している事を。
要するに、初代聖女の逸話をオマージュし、子供向けのアレンジを加えたお伽噺という事である。邪竜が暴れ回ったという記録も記憶も無ければ、神が降臨したという記録も記憶も無い。
大賢者も伝説の存在で実在の人物では無い。霊峰という名で呼ばれる通り、修験者の修行場であるのは確かだが、それだけである。
そう思われて来た。これまでは...
◇◇◇
聖女が現れて約半年が経った頃、山の麓にあるエインツという町に奇妙な噂が流れていた。曰く「邪竜の封印が解けそうになっている」らしい。
誰がいつ頃から広めた噂なのか定かではないが、真しやかに囁かれ始めたのはここ最近の話だということだ。
曰く「地の底から何者かの呻き声が聞こえ大地が揺れた」「山頂から大きな黒い影が飛び立ったのを見た」「山から魔獣や野獣が姿を消した」「修行している修験者達と連絡が取れなくなった」などなど。
噂の真偽はともかく、人的被害が出ているかも知れない事を憂慮したエインツの町の領主は、冒険者ギルドに調査を依頼した。だが...
調査に向かった冒険者の一向は誰一人として戻って来なかった...
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そして今も見守り続けているという ーーー
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