13 / 51
第1章 聖女誕生
第13話 断罪
しおりを挟む
セイラがメイドさん達のオモチャになっている頃、リシャールとレイモンドは出掛ける準備をしていた。
「さて、明日の晴れ舞台の前にイヤな仕事は片付けておかないとな。セイラと約束してるんだ、さっさと終わらせて夕食までに帰るぞ」
「はいはい」
2人は王宮を出てベルハザード家へ馬車で向かった。車中でリシャールがカインとアランに尋ねる。
「ところであの賊共はまだ黙りか?」
「えぇ、見上げた忠誠心と言うべきなんでしょうかね」
「仕えるべく主を間違えてるがな」
「ですね」
◇◇◇
先触れ無しの訪問にビックリされたが、表面上は愛想良く出迎えられた。紅茶を出されたがリシャール達は手をつけない。
「リシャール様、ようこそおいでくださいましたわ!」
「やあ、ブレンダ嬢。こんな時間に先触れも無く済まないね」
ブレンダは満面の笑みで迎えた。リシャールは冷笑で応える。
「とんでもありませんわ、リシャール様でしたらいつでも歓迎致しますわよ!」
ブレンダはリシャールが訪ねて来てくれたことに浮かれて気付いていないが、通常王族が臣下の家を先触れ無しに訪れることはまずない。余程の緊急事態でもない限り。
「急ではあるが明日『聖女認定の儀』を執り行うことになってね、君に真っ先に知らせておこうと思ったんだよ」
「あぁ、そうでしたの...」
ブレンダのテンションが一気に下がった。
「君、随分と聖女に拘っていたみたいだから、きっと気になるんじゃないかと思ってね」
「えぇ、それはまぁ...」
「良かったら明日、君も見に来るかい?」
「えっ?」
ブレンダは虚を突かれた。今まで他の候補者が儀式を受ける所に立ち会ったことなどなかったからだ。もっとも、有力と噂された候補者の内の何人かはブレンダの手によって消されたのだが...
「い、行きたいのは山々なのですが生憎、明日は外せない用事がありまして...」
「それは残念。今回は『当たり』かも知れないのに」
知っている。リシャールがわざわざ現地まで赴いて尚且つ少女を連れて来たのだ。可能性があると判断したからそうしたのだろう。
だからこそ自分の手駒の中でも精鋭を差し向けたのに...あの役立たずどもがっ! もちろん、そんなことを思っているのを悟られる訳にはいかない。ブレンダは奥歯をギュっと噛み締めて堪えた。
「あ、あら、そうなんですの。見られなくて残念ですわ」
リシャールはスッと目を細める。
「いやあ、それにしても今回は大変だったよ。候補者の少女を護送中、賊に襲われてね」
ブレンダの背中に冷や汗が流れる。
「そ、そうなんですの? 物騒な世の中ですわね」
「あぁ、全くだ。なんとか撃退出来たから良かったものの、肝が冷えたよ」
「ご無事でようございましたわ」
リシャールは冷めた目で睨み付け、
「本当にそう思ってる?」
ブレンダの冷や汗が止まらない。
「も、もちろんですわ。臣下として主君の無事を喜ぶのは当然でございましょう?」
リシャールは出された紅茶のカッブの縁を指でなぞりながら、
「その割には君、かなり激昂してたみたいじゃないか。中身が残ってる紅茶のカッブを壁に投げ付けるくらい」
ブレンダは全身から汗を噴き出している。
「なななななにを仰っているのか、分かりませんわ」
リシャールは歪んだ笑みを浮かべながら、
「あの壁に残ってるシミがそうだろ? 使用人は大事にしないと命取りになるよ?」
(あのメイドっ! 寝返りやがったのねっ! なんて恩知らずなっ!)
自分の事は棚に上げて怒り心頭のブレンダにリシャールは最後通牒を突きつける。
「王族の命を狙った者には国家反逆罪が適用されて、3親等以内の親族まで全てが処刑されるって知ってるかい?」
ブレンダは蒼白になってカタカタ震えている。自分の浅慮な行動で一族郎党が罰せられるかも知れないという現実に恐怖した。
「なにせ僕らを襲った賊は、候補者の少女には目もくれず、真っ先に僕の命を狙って来たからねえ」
リシャールがそう言った途端、ブレンダが弾かれたように叫んだ。
「なっ!?、そんなはずありませんわっ! 連中には少女だけを狙うようにとちゃんと指示を...あっ!」
ブレンダは慌てて口を抑えたがもう遅い。
「ブレンダ嬢を連行しろ」
カインとアランに両脇をしっかりと拘束されたブレンダは、最早抵抗する気力もないようだ。
◇◇◇
「お見事でした」
帰りの車中でレイモンドがリシャールを労う。
「最後は本人の自爆だったがな」
「それでもです」
「余罪があるはずだ。厳しく追及しろ」
「もちろんです」
フゥとため息をついてリシャールはシートに凭れかかる。もっと早くにブレンダの暴挙を止められていれば、救える命があったと思うとやるせない気持ちなる。
予兆はあったはずだ。ここ最近、聖女認定の儀に挑む候補者が減っていたこと、ブレンダの聖女に対する執着が尋常ではなかったこと、筆頭公爵という立場から情報が集め易かったことなど。
(情報漏れにもっと早く気付いていればこんなことは起きなかったはずだ。ベルハザード家の責任追及が本格的に始まれば、芋づる式に情報漏洩した者も明らかになるだろう。この際、膿を出し切るべきだ。忙しくなるな。だがまあ、まずは明日だ)
一人の狂女によって犠牲になってしまった者達のためにも、明日でこの聖女騒動にピリオドを打つ。
リシャールは固く心に誓った。
「さて、明日の晴れ舞台の前にイヤな仕事は片付けておかないとな。セイラと約束してるんだ、さっさと終わらせて夕食までに帰るぞ」
「はいはい」
2人は王宮を出てベルハザード家へ馬車で向かった。車中でリシャールがカインとアランに尋ねる。
「ところであの賊共はまだ黙りか?」
「えぇ、見上げた忠誠心と言うべきなんでしょうかね」
「仕えるべく主を間違えてるがな」
「ですね」
◇◇◇
先触れ無しの訪問にビックリされたが、表面上は愛想良く出迎えられた。紅茶を出されたがリシャール達は手をつけない。
「リシャール様、ようこそおいでくださいましたわ!」
「やあ、ブレンダ嬢。こんな時間に先触れも無く済まないね」
ブレンダは満面の笑みで迎えた。リシャールは冷笑で応える。
「とんでもありませんわ、リシャール様でしたらいつでも歓迎致しますわよ!」
ブレンダはリシャールが訪ねて来てくれたことに浮かれて気付いていないが、通常王族が臣下の家を先触れ無しに訪れることはまずない。余程の緊急事態でもない限り。
「急ではあるが明日『聖女認定の儀』を執り行うことになってね、君に真っ先に知らせておこうと思ったんだよ」
「あぁ、そうでしたの...」
ブレンダのテンションが一気に下がった。
「君、随分と聖女に拘っていたみたいだから、きっと気になるんじゃないかと思ってね」
「えぇ、それはまぁ...」
「良かったら明日、君も見に来るかい?」
「えっ?」
ブレンダは虚を突かれた。今まで他の候補者が儀式を受ける所に立ち会ったことなどなかったからだ。もっとも、有力と噂された候補者の内の何人かはブレンダの手によって消されたのだが...
「い、行きたいのは山々なのですが生憎、明日は外せない用事がありまして...」
「それは残念。今回は『当たり』かも知れないのに」
知っている。リシャールがわざわざ現地まで赴いて尚且つ少女を連れて来たのだ。可能性があると判断したからそうしたのだろう。
だからこそ自分の手駒の中でも精鋭を差し向けたのに...あの役立たずどもがっ! もちろん、そんなことを思っているのを悟られる訳にはいかない。ブレンダは奥歯をギュっと噛み締めて堪えた。
「あ、あら、そうなんですの。見られなくて残念ですわ」
リシャールはスッと目を細める。
「いやあ、それにしても今回は大変だったよ。候補者の少女を護送中、賊に襲われてね」
ブレンダの背中に冷や汗が流れる。
「そ、そうなんですの? 物騒な世の中ですわね」
「あぁ、全くだ。なんとか撃退出来たから良かったものの、肝が冷えたよ」
「ご無事でようございましたわ」
リシャールは冷めた目で睨み付け、
「本当にそう思ってる?」
ブレンダの冷や汗が止まらない。
「も、もちろんですわ。臣下として主君の無事を喜ぶのは当然でございましょう?」
リシャールは出された紅茶のカッブの縁を指でなぞりながら、
「その割には君、かなり激昂してたみたいじゃないか。中身が残ってる紅茶のカッブを壁に投げ付けるくらい」
ブレンダは全身から汗を噴き出している。
「なななななにを仰っているのか、分かりませんわ」
リシャールは歪んだ笑みを浮かべながら、
「あの壁に残ってるシミがそうだろ? 使用人は大事にしないと命取りになるよ?」
(あのメイドっ! 寝返りやがったのねっ! なんて恩知らずなっ!)
自分の事は棚に上げて怒り心頭のブレンダにリシャールは最後通牒を突きつける。
「王族の命を狙った者には国家反逆罪が適用されて、3親等以内の親族まで全てが処刑されるって知ってるかい?」
ブレンダは蒼白になってカタカタ震えている。自分の浅慮な行動で一族郎党が罰せられるかも知れないという現実に恐怖した。
「なにせ僕らを襲った賊は、候補者の少女には目もくれず、真っ先に僕の命を狙って来たからねえ」
リシャールがそう言った途端、ブレンダが弾かれたように叫んだ。
「なっ!?、そんなはずありませんわっ! 連中には少女だけを狙うようにとちゃんと指示を...あっ!」
ブレンダは慌てて口を抑えたがもう遅い。
「ブレンダ嬢を連行しろ」
カインとアランに両脇をしっかりと拘束されたブレンダは、最早抵抗する気力もないようだ。
◇◇◇
「お見事でした」
帰りの車中でレイモンドがリシャールを労う。
「最後は本人の自爆だったがな」
「それでもです」
「余罪があるはずだ。厳しく追及しろ」
「もちろんです」
フゥとため息をついてリシャールはシートに凭れかかる。もっと早くにブレンダの暴挙を止められていれば、救える命があったと思うとやるせない気持ちなる。
予兆はあったはずだ。ここ最近、聖女認定の儀に挑む候補者が減っていたこと、ブレンダの聖女に対する執着が尋常ではなかったこと、筆頭公爵という立場から情報が集め易かったことなど。
(情報漏れにもっと早く気付いていればこんなことは起きなかったはずだ。ベルハザード家の責任追及が本格的に始まれば、芋づる式に情報漏洩した者も明らかになるだろう。この際、膿を出し切るべきだ。忙しくなるな。だがまあ、まずは明日だ)
一人の狂女によって犠牲になってしまった者達のためにも、明日でこの聖女騒動にピリオドを打つ。
リシャールは固く心に誓った。
0
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる