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第1章 聖女誕生
第9話 黒幕は
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嬉々として拷問しようとするセイラをなんとか宥めて、リシャールは指示を下した。セイラは不満そうだが、ここに長居するべきではないと判断した。
「襲撃の第2波が来るかも知れないので、ここに留まるのは得策ではない。かと言って、この賊共を放置する訳にもいかない。そこでだ、幸いここから王都まではそう遠くない。カイン、ひとっ走り王都まで行って急いで応援を呼んで来い」
「分かりました」
「分かってるとは思うが、くれぐれも内密にな」
リシャールが念を押すと、カインは心得たとばかりに頷いた。
「アランは周囲を警戒。こいつらの仲間がまだ居るかも知れないから注意しろ」
「了解しました」
「セイラ、この『バインド』って魔法は、掛け続けても平気か?」
「あぁ、問題ない」
「では応援が来るまで頼む」
「任せろ」
王族として命令し慣れているリシャールの指示に、3人共素直に従った。カインが馬に乗って出発した後、アランを外に残し、リシャールとセイラは馬車に戻った。
使った矢の補充や弓の張り具合の確認など、武器の手入れ黙々と行っているセイラを見ながら、リシャールは一抹の不安を感じていた。先程のセイラは、リシャールを助けるためとはいえ躊躇いなく人を殺した。
しかも捕らえた賊に対し、自ら進んで拷問までしようとした。そんな人間が果たして、聖女として神に選ばれるに相応しい者なのだろうか? 確かに魔力が高いのは認める。魔法を操るのも上手だ。だがそれ以外は?
言動や態度の悪さは今更言うに及ばず、それに加えて倫理観まで欠けているとしたら? 連れて来たのはいいが、リシャールはちょっと心配になってきた。
「なぁ、セイラ。いつから冒険者やってるんだ?」
「今年になってからだ。冒険者登録できるのが10歳からだからな」
「あぁ、なるほど」
この国では15歳で成人と見なされるが、就労に就くのは10歳から認められている。とはいえ、なんでまた冒険者なんて危険な仕事を...
「母ちゃんやガキどもを早く楽にさせてやりたかったからな」
「じゃあ孤児院のために仕事を?」
「あぁ、冒険者なら実力があれば金が稼げるからな」
「なるほど...」
「なにせ国からの補助金だけじゃやっていけねぇから、自分達で稼ぐしかねぇんだよ」
「それは...」
リシャールにとって耳の痛い話である。昨今、この国は隣国との小競り合いや災害の復旧などに予算を割かれて、こういった福利厚生まで中々手が回らないのが現状だ。
それに加えて、聖女探しに掛かる費用もバカにならない。リシャールはなんとしても早急に聖女問題を片付けたかった。
「ところで、黒幕に誰か心当りあんのか?」
「あぁ、まあね...」
リシャールは忌々しげに呟いた。
「今現在、王都に『自称聖女』が居てね...」
「自称? なんだそりゃ? 鑑定すれば分かるんだろ?」
「その通り。鑑定した結果、聖女じゃないと判定されたんだが、鑑定結果が間違ってると言い張って納得しようとしない」
「それはまた...」
イタい人だなとセイラは思った。
「しかも困った事に身分の高い女性でね。高潔なる聖女には高貴な身分たる公爵家の自分こそが相応しいと言って憚らず、教会としてもあまり邪険にも出来ず対応に苦慮してる」
「なんでそんなに聖女になりたいんだ?」
「さぁ、本人の自己満足ためか、高慢なるプライドの故か、あるいは...」
「あるいは?」
セイラの問い掛けにリシャールは頭を振って、
「いや、なんでもない。とにかく聖女になることに並々ならぬ執着を抱えてる彼女が、セイラにちょっかいを出して来た可能性が高い」
「聖女候補ってだけでか?」
「それだけが理由じゃないかも知れないんだけどね...」
歯切れの悪いリシャールの答えに、セイラは首を傾げた。
「襲撃の第2波が来るかも知れないので、ここに留まるのは得策ではない。かと言って、この賊共を放置する訳にもいかない。そこでだ、幸いここから王都まではそう遠くない。カイン、ひとっ走り王都まで行って急いで応援を呼んで来い」
「分かりました」
「分かってるとは思うが、くれぐれも内密にな」
リシャールが念を押すと、カインは心得たとばかりに頷いた。
「アランは周囲を警戒。こいつらの仲間がまだ居るかも知れないから注意しろ」
「了解しました」
「セイラ、この『バインド』って魔法は、掛け続けても平気か?」
「あぁ、問題ない」
「では応援が来るまで頼む」
「任せろ」
王族として命令し慣れているリシャールの指示に、3人共素直に従った。カインが馬に乗って出発した後、アランを外に残し、リシャールとセイラは馬車に戻った。
使った矢の補充や弓の張り具合の確認など、武器の手入れ黙々と行っているセイラを見ながら、リシャールは一抹の不安を感じていた。先程のセイラは、リシャールを助けるためとはいえ躊躇いなく人を殺した。
しかも捕らえた賊に対し、自ら進んで拷問までしようとした。そんな人間が果たして、聖女として神に選ばれるに相応しい者なのだろうか? 確かに魔力が高いのは認める。魔法を操るのも上手だ。だがそれ以外は?
言動や態度の悪さは今更言うに及ばず、それに加えて倫理観まで欠けているとしたら? 連れて来たのはいいが、リシャールはちょっと心配になってきた。
「なぁ、セイラ。いつから冒険者やってるんだ?」
「今年になってからだ。冒険者登録できるのが10歳からだからな」
「あぁ、なるほど」
この国では15歳で成人と見なされるが、就労に就くのは10歳から認められている。とはいえ、なんでまた冒険者なんて危険な仕事を...
「母ちゃんやガキどもを早く楽にさせてやりたかったからな」
「じゃあ孤児院のために仕事を?」
「あぁ、冒険者なら実力があれば金が稼げるからな」
「なるほど...」
「なにせ国からの補助金だけじゃやっていけねぇから、自分達で稼ぐしかねぇんだよ」
「それは...」
リシャールにとって耳の痛い話である。昨今、この国は隣国との小競り合いや災害の復旧などに予算を割かれて、こういった福利厚生まで中々手が回らないのが現状だ。
それに加えて、聖女探しに掛かる費用もバカにならない。リシャールはなんとしても早急に聖女問題を片付けたかった。
「ところで、黒幕に誰か心当りあんのか?」
「あぁ、まあね...」
リシャールは忌々しげに呟いた。
「今現在、王都に『自称聖女』が居てね...」
「自称? なんだそりゃ? 鑑定すれば分かるんだろ?」
「その通り。鑑定した結果、聖女じゃないと判定されたんだが、鑑定結果が間違ってると言い張って納得しようとしない」
「それはまた...」
イタい人だなとセイラは思った。
「しかも困った事に身分の高い女性でね。高潔なる聖女には高貴な身分たる公爵家の自分こそが相応しいと言って憚らず、教会としてもあまり邪険にも出来ず対応に苦慮してる」
「なんでそんなに聖女になりたいんだ?」
「さぁ、本人の自己満足ためか、高慢なるプライドの故か、あるいは...」
「あるいは?」
セイラの問い掛けにリシャールは頭を振って、
「いや、なんでもない。とにかく聖女になることに並々ならぬ執着を抱えてる彼女が、セイラにちょっかいを出して来た可能性が高い」
「聖女候補ってだけでか?」
「それだけが理由じゃないかも知れないんだけどね...」
歯切れの悪いリシャールの答えに、セイラは首を傾げた。
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