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プロローグ(一章まるごと読み飛ばしOK非エロエピソード)

第四次勇者計画の予算

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(まさか、また私の知らぬ間に負債が増えてはいまいな?)

 王国の財政を預かる財務尚書ざいむしょうしょゾーンは薄気味悪い笑みを浮かべる御用商人シャーロックをにらみつける。

「本らならばこのような事柄は財務尚書閣下に逐一ご報告とご相談をすべきとは私も重々承知いたしてはおりますが、何分なにぶんにも国王陛下にあらせられては本計画に関しては一切他言無用、何にも勝る機密保持をときつく厳命あそばされたものですから、御用商人たる私といたしましてもこれに背くすべをもちませんで・・・」

「いや、それは良い!詳細を申されよ」

 礼に背くことなく財務尚書の感情を揺さぶるためにわざとネチッこく話すシャーロックに対しゾーンは話を急かした。既にゾーンはシャーロックの術中にはまっていると言える。
 シャーロックは愛想笑いの下でさらにクスっと笑いながら続けた。

「はい、アダマンタイトおよびアダマンタイト・アセンブラーその他の輸送費および設置費用と教皇庁への工作費、ならびに『聖骸せいがいの乙女』の輸送料と復活にかかる諸費用といたしまして、締めて8600万シルバーを王室機密費よりお支払いいただいております。」

(王国の国防予算以上だと!?)

(馬鹿な、王室機密費どころか王室費の総額をも上回るではないか!
 まだ4月だというのに王室予算を使い切ったのか!?)

「このほかに未払いの分が・・・」

「待て!・・・総額でいくらになるのだ?」

「総額でしたら・・・そうですな・・・概算ですが、13億5800万Sといったところでございましょうか・・・」

 その額に全員が驚愕した。アンタレス、イェッタハン、ゾーンが口々に声をあげる。

「馬鹿な!戦列艦が400隻は買える額だ!
 それも訓練済みの乗員と装備付きでだぞ!!」
「王国歳費の5倍以上!?」
「そ、それを王国で負担しろと言うのか!?」

 その反応にわざとらしくうろたえたような演技をしながらシャーロックは宥めるように言った。

「いえ、先ほども申し上げましたように、この内8600万Sは既にお支払い済みで・・・」

「それでも13憶近く残っておるではないか!
 王国の財力がどれほどか、おぬしなら知っていよう!?
 払えるわけがない!!」

 感情のたかぶりを抑えきれないゾーンの絶叫じみた抗議にシャーロックは、自分が少しばかり調子に乗りすぎた事に気付いた。慌てたように言いつくろう。

「お待ちください! この内12憶Sは聖遺物をお借りするための保証金です。
 アダマンタイト・アセンブラーと『聖骸せいがいの乙女』を教皇庁へお返しすれば、全額返還されるのです」

「・・・その支払いは、どうなっている?」

 一気に金額が小さくなったことで冷静さを取り戻したゾーンが声を低くして訊ねると、ようやく安心したシャーロックは再び落ち着いた声で説明する。

「信用状で支払い済みです。
 本来なら現金でしかお受け取りいただけませんが、私は王国と教皇庁の双方の御用商人でございますから、今回特別に信用状での支払いを認めていただきました」

「では、その分は支払わなくていいんだな?」

「もちろんでございます。
 お借りした聖遺物を無事教皇庁へ御返還申し上げれば、その場で信用状を破いて終わりです」

 イェッタハンは胸をなでおろしていった。

「紛らわしいぞ、シャーロック殿!
 そのような払わんでもいい額など入れんで良いではないか!?」

「も、申し訳ございません内務尚書ないむしょうしょ閣下。
 財務尚書閣下から総額をとお求めになられたものですから・・・」

「で、シャーロック殿、残りはいくらなのだ?」

「はい、既に発生している未払い代金は彼女の身体の素体となったホムンクルス代と、博士の報酬分だけでございます」

「それで全部か?」

 ゾーンは不信感をぬぐい切れず、用心深く尋ねる。

「いえ、お借りした聖遺物を教皇庁へ御返還するための輸送費が発生する予定です。
 それも含めて、総額で7200万Sと見積もっております」

「7200万・・・それでも王国歳費の1/3だ。」

 ゾーンのその声は嘆きに近かった。シャーロックは宥めるようにやさしく穏やかに話しかける。

「私も商人ですのでお支払いいただかないわけにはいきませんが、御用商人である以上王国に害となるようなことは致しません。
 お支払い方法につきましては御相談に乗らせていただきたいと存じます。
 そうですね、利子も何か代わりとなるような追加の免税措置でも講じていただけるのでしたら、ゼロで構いませんとも」

「そうか、そうしてくれると助かる。」

 すっかり脱力したようにゾーンは言った。

(くそっ、またしても・・・)

 ゾーンは結局シャーロックの思惑通りに話が進んでしまったであろうことに気付いているが、どうしようもできなかった悔しさにほぞを噛んだ。
 逆にシャーロックはニンマリと笑みをたたえる。

(よし、呑んだな。
 払わんでもいい保証金まで含めわざと金額を膨らませたのは正解だった。
 1億5000万Sもの金、普通に請求したってどうせ出し渋るにきまっとる。
 だが、いったん13億という莫大な金額を提示したことで財務尚書の頭から予算検証は吹っ飛んだ。教皇庁への工作費なんぞ突かれたら水増し分を値切られただろうが、まるまる儲けたワイ)
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