親指エレジー  

コブシ

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<私の体だけが目当てだったのね!>

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このセリフは、女性の専売特許とばかり思っていた。

しかし、男の、しかもオッサンのこの私が、思わずこのセリフを言わずにはいられなかった出来事。

そのお客様は、いつも二人連れだって、平日の深夜に来店される。

 女性の二人組で、お仕事は水商売をされている。

どうやら二人は、先輩後輩という間柄だった。

 最初は、後輩(20代後半)の方が、当店ナンバー1のK君(30代前半)を指名、先輩はフリーで入っていた。

 見てくれと技術が良いK君。

 当たり前のように、オッサンしかいない当店で、アッという間にナンバー1になった。

どうやらその後輩は、ホスト的な感覚でK君を指名していたみたいだった。

 私も、順番で何度か先輩を施術した事があった。

すると有難い事に、先輩は私を指名してくれるようになった。

てっきり技術的な面で、指名してくれたものと思っていた。

あの日までは・・・。

その日も、二人連れだって深夜にご来店。

 後輩とK君は、いつものように、飲み屋か!というくらいに会話していた。

 私は、いつものように、黙々と自分の仕事をこなしていた。

 混んでいないかぎり、二人組のお客様は、隣同士のベッドで施術する。

すると、さっきまで会話していた隣の後輩のAさんが、マッサージに集中したいのか静かになった・・・と私は思っていた。

 「たまらんわ~あの浮き出る血管!」

 突然、Aさんが言った。

 私は、何事かとAさんの方を見た。

すると、驚いた事にうつ伏せの状態で、顔だけ私の方を見ていた。

 Aさんに見られていた事に驚いた私。

と同時に、Aさんの目線が私の顔ではなく、腕を凝視していた事に気付いた。

 「姉さん、見て!あの血管!たまらんで~!」

 「やだ、私、うつ伏せだから見えな~い!」

 二人共、キャッキャッとはしゃいでいた。

この店は、制服はないけれど、一応、黒のズボンに黒のTシャツと決まっていた。

 確かに、他のスタッフと比べても腕が太く、Tシャツの腕部分はパンパンになっていた。

 今まで、私が気付かなかっただけかどうかわからない。

けれど、こちらが仕事にならないくらい、Aさんはガン見していた。

この日を境に、来店されるたびに、Aさんを私が施術して、姉さんがガン見、姉さんを私が施術して、Aさんがガン見。

 「たまらんわ~あの腕!あの筋!」

 「いやん!私も見た~い!」

このやり取りを60分もやられる。

 「やりにくいわ!(笑)」

 慣れてきた私も、二人にそう笑いながら言って、施術していた。

こんなに女性に見られて、悪い気はしない。

 悪い気はしないんだけれど・・・私の顔には興味がないらしく、一切見ない。(笑)

「私の体だけが目当てなのね!」

という、女性の気持ちがわかる気がした出来事だった。
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