親指エレジー  

コブシ

文字の大きさ
上 下
3 / 35

<2点の男>

しおりを挟む
ある夜のお客様。




 30代の普通の体型の男性。




「こことここ、二点だけ押してくれますか?」




30分コースだったそのお客様は両耳の下のくぼみを指差して私に言った。




お客様がそう仰られるので、最初からその二点を片方ずつ親指で押し始めた。




「もっと強めでお願いします。」




私は耳の下のくぼみなんて痛いだろうから、5割くらいで押していた。




そう言われて、7割くらいで押し始めた。




「あの~もっと強くできます?」




 「わたくし力は弱い方じゃないですけど、よろしいでしょうか?」




今度は自分のMAXで押し始めた。




「お客様、これくらいで大丈夫でしょうか?」




 「はい、丁度いいです。」




私はもっと強くって言われたらどうしようかと、内心不安だった。それ以上は無理だったので。




しかし、親指のみ二点を全力で30分。




 普通、指が痛くなったら、肘とか掌底で指を休ませるんだけど、場所が耳の下のくぼみだけに指以外使えなかった。




いつもとは違う汗のかきかただった。





なんとか30分乗りきった時には、親指は完全にぶっ壊れていた。




しかし、あのお客様痛くないのかな~?




 世の中にはいろんな人がいるものだな~。
しおりを挟む

処理中です...