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4章 文化祭
伊織はお前みたいにいかねぇんだよ!
しおりを挟む空が俺から離れて行く。
仕方ないだろ。俺が散々嫌な思いさせたんだから。
空にも空の人生があるんだから。
「で、俺と桐原さんどっちを選ぶんだ?」
「……ない」
「は?聞こえない」
「選ばない」
「選ばないって俺を?」
「どっちも選ばない。どっちとも付き合わねぇ」
「っ!!」
「もう無理っ!面倒くせぇ!どっちとも別れてやる!」
決めた!もう絶対二人とは付き合わねぇ!
戻って伊織にも言おう。
俺はクルッと振り向いて来た道を一人で歩き出す。
すると空は慌てたようにまた俺の手を握って来た。
「待てって、落ち着いたんじゃなかったのかよっ」
「あ?離せよっ!落ち着いて考えた結果がこれだ!もう決めたんだ。これ以上何も言うんじゃねぇ」
「何でそうなるんだよっ!俺はどっちかを選んで欲しくて……いや、貴哉は俺を選ぶと思ったんだ!」
「はぁ?俺を突き離すような言い方した癖にかぁ?分かりずれぇなぁ!俺はそう言うの嫌いだっ」
「なっ」
「それにお前忙しいんだろ?俺がいなければとか言ってたじゃねぇか。今更何焦ってんだよ」
「だってこうなるとは思わないだろっ!あー違う!貴哉はこういう男だ!」
空にそう言われたから分かってんじゃんと俺はニヤリと笑った。
そうだ。俺は面倒くせぇのが嫌いだ。
俺を困らせるのも悩ませるのも大嫌いだ。
「やっと俺の事思い出したかよ。ふん、こうなってからじゃ遅ぇけどな!伊織にも言ってくっからお前はもう帰れよ」
「か、帰れるかよっ!俺が悪かったって!頼むから考え直してくれよ」
「やだ。もう決めた。俺もさっさと帰ってゲームでもやろーっと」
あー、腹を括ったら気が楽になったぜ♪
あとはもっと面倒くせぇ伊織に言うだけだ。
あいつは空みてぇにいかねぇからな。
多分だけど、伊織は空とは違ってこんな風になったりしない。別れるってなったら本当に別れるだろ。
今までだって、俺が突き離したら伊織は距離を置いて来たし、それをまた引き寄せてたのは俺だ。
まぁ今の伊織は前とはちょっと違ぇからどうなるかは分からないけどな。
カラオケ屋まで戻って来たけど、空はまだ付いて来ていた。
俺はもういいやとほっといた。
「貴哉~!もう少し二人で話そうって!」
「うるせぇ。お前とは話す事はねぇよ」
「これだけは聞かせて!俺の事は好きなんだよな?同棲するのは本当なんだよな?」
「お前なぁ!今その話するんじゃねぇよ!」
「…………」
俺が答えるのに困るような事を言い出したから振り向いて迷惑そうに言うと、空は俺の後ろの廊下の先を見て顔をしかめた。
俺もそっちの方を見ると、さも機嫌の悪そうな伊織が上着を羽織って、俺の分のバッグも持ってこちらに歩いて来ていた。
俺はちょうどいいやと伊織に笑いかけた。
「よう伊織。ちょっと話そうぜ」
「……早川とは話ついたのか?」
俺と空の側まで来ると、少し微笑みながら聞いて来た。優しい伊織だった。
うっ、惑わされねぇぞ!
俺の心が揺らいでるのが分かったのか、空が前に出て伊織に言った。
「まだです!もう少し時間下さい!」
「却下。時間切れだ。帰るぞ貴哉~」
「って事だ。お前は帰れ」
「やだ!俺も話す!」
出た出た。いつもの空だ。
さっきまでとは違って引かずに食らいつこうとする一生懸命な空。
こういう空の方が俺は好きだ。
「だとよ。俺は空がいてもいいけど」
「分かったよ。貴哉がそれがいいならそうしよう」
聞き分け良くなったけど、さっきまでの伊織を忘れちゃダメだ。
もう鎖で繋がれるのはごめんだ。
伊織は俺の右隣にピッタリ。
空は左隣を一歩離れて歩いていた。
「なぁ、俺らが帰るの言って来たのか?」
「一条に言った。あいつも適当に帰るって」
「そうか。あのさ伊織、話なんだけど」
「貴哉、大事な話ならもっとちゃんとしたとこで二人で話したい」
「へ?」
そ、そう来たか!
さすがスーパー高校生じゃねぇの!
予想外な返しに言葉を失った。
「桐原さんワガママじゃないですか?俺は歩きながら話しましたよ~」
「俺の気持ちはお前みたいに軽くねぇんだよ。貴哉の事は何よりも大切に想ってんだ。んな歩きながら適当に話せるか」
「俺だって貴哉を誰よりも大切に想ってます!ただ貴方がいるせいでこういった場でしか話せないだけでしょう!?」
「あ?隠れて手出してる癖に何言ってんだ。昨日までのは見なかった事にするけど、これからはねぇぞ」
何かヤバくね?
いつもの二人の言い合いが始まったけど、俺はどうするべきだ?
とりあえず伊織にもどっちも選ばないって言わねぇとだけど……
「伊織!俺の話だけど……」
「貴哉♡今日うちに泊まれよ♡そこでゆっくり聞くから♡」
「あ、いや、それは……」
「貴哉!何だよその弱いの!俺にはハッキリ言ったじゃん!」
「馬鹿野郎!伊織はお前みたいにいかねぇんだよ!」
「早川、お前俺と同じ立場だと思ってんのか?舐めんじゃねぇぞコラ」
「伊織口悪いぞ!」
「貴哉に似ちゃったかなぁ♡」
うわ、この伊織は厄介だ!
しらばっくれておちゃらけてる伊織は俺の好きな伊織だ!
何で俺が別れるって決めたらこうなるんだよ!
すげぇ言いづらいし、別れにくいじゃねぇか!
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