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4章 文化祭

何となく言いたかった

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 それから俺は伊織の抜群の歌声とパフォーマンスに負けを認めて、もう勝負をする気も失せたのでテーブルの上のポテトをちびちび食っていた。

 あー、そういや茜どうなったかなぁ?
 今頃犬飼と仲良くやってるかなぁ?
 てか俺何か忘れてるような?
 小さくてうるさい何かを……


「おい秋山!」

「あ!七海!」


 そうだ!こいつの事忘れてた!
 七海にも犬飼同様、協力するように頼まれてたんだわ。
 んでももう茜は犬飼に惚れてるっぽいしな~。
 まぁとりあえず……


「ドンマイ」

「はぁ!?いきなりなんだよ!?」

「何となく言いたかった」

「もしかして、二人共いないけど、やっぱり二之宮と犬飼って……」


 何かを察したのか七海は顔色を青くしてその場に座り込んだ。
 俺は全部知ってるけど、否定しておいた。


「ちげーよ。茜は家の用事。犬飼は知らねぇよ。雉岡辺りが知ってるんじゃん?」


 適当な事言って誤魔化そうとしてると、ずっと俺に張り付いていた伊織が少し離れて七海に言った。


「なぁ、七海は二之宮とどうなりたいんだ?」

「どうって……別に普通に仲良くしたいだけだよ」

「だったら二人の事気にするのも変だなって。気にするぐらいなら告ればいいじゃん」

「いーくんには俺の気持ち分からないよ……」


 すっかり元気がなくなった七海。
 茜に簡単に告れないのは桃山という存在がデカいだろう。犬飼と違って七海はいつも桃山の事怖がってるからな。


「七海~、まずさ茜とどうなりたいのかハッキリさせろよ。じゃないと俺も協力出来ねぇよ」

「……分からない」

「何だそりゃ?茜の事好きなんだろ?」

「初めは下手に告白して二之宮と微妙な関係になるのが嫌だったから、このまま友達でもいいやって思ってたけど、どんどん二之宮は人気出てくるし、それ見てると嫌だなぁって思うんだ」


 床に座ったまま七海はそんな事を言っていた。
 確かに茜の人気はすげぇよ。こいつらだけじゃなくて、新しい生徒会長の侑士もだもんな。
 みんな茜の笑顔にやられてるけど、初めて俺が茜の笑顔見た時もいいなと思ったもんな~。


「誰よりも先に二之宮を好きになったのに、今じゃ遠い存在だよ二之宮は……」

「七海、茜は人に嫌われる事を恐れてるんだ。部活では自分から嫌われるような態度取ってるけど、本当のあいつはとても臆病で、人一倍気使ってるクソ真面目な男なんだ」

「何となく分かるよ。秋山が来てからの二之宮はそんな感じがする」

「だから、あいつに好きって伝えても微妙な関係にはならねぇよ。むしろ喜ぶよあいつは。桃山がいるから困るだろうけど、無理に好きを押し付けねぇで気持ちだけ貰って?みたいに言えば笑ってくれると思うぜ」

「本当に?」

「貴哉ってば語るね~。他の男の事だからムカつく♡」


 こんな時にもやきもちを妬いてくる伊織に抱きしめられながらキスをされるけど、俺は気にする事なく七海を見ながら話を続けた。


「もしお前が気持ちを伝えたいってんならセッティングしてやるよ。もちろん桃山抜きでな。でもこのままでいいと思ってんならもうあーだこーだ言うんじゃねぇよ。茜にも桃山にも犬飼にも迷惑だ」

「……言う!伝えるよ!でもちゃんと協力してくれるんだろうな?今日すっぽかしたじゃんっ」

「それは悪かったよ。そうだな、お詫びに茜と二人きりにしてやるよ♪お前明日とか時間あるか?俺と買い物行きたがってたけど行こうぜ♪茜も誘うからよ」

「待てよ。明日は俺とデートだろ」

「いいじゃねぇか。お前と俺とならいつでも出来るんだし」

「嫌だね。俺も行く」

「あーもう好きにしろよ。で、七海の予定は?」


 床にいる七海に問い掛けると、ニッコリ笑って立ち上がった。


「行く♪秋山ありがとう!明日楽しみにしてるね♪」

「はは、やっぱお前は笑ってた方が似合うよ♪可愛い顔しやがって」

「七海もうあっち行けよ。邪魔だから」

「気になったんだけど、いーくんてこんなだったっけ?さっきもみんなの前で大胆な事し出すし、秋山の事好きなのは知ってるけど、もっと紳士的じゃなかった?」

「キャラ変したんだと。新生伊織の性格悪男の誕生だ」

「どーも性格悪男でーす♪貴哉に寄る奴は片っ端から排除するんでよろしくー♪」

「まるで桃山じゃん……」


 開き直る伊織に軽く引いてる七海。
 この伊織には少し慣れて来たけど、本当にこのままでいいのかちょっと疑問に思う。

 だって、伊織って誰にでも明るくて優しいからモテてたんだろ?それが無くなったら伊織じゃなくね?
 俺は伊織の事変わらず好きでいられるんかなぁって思う訳よ。

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