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4章 文化祭
※ 数馬くんはそのままでいいから
しおりを挟む※直登side
空くん達との会話から抜けて俺はそろそろ数馬くんを迎えに行こうと席を立つ。
今は文化祭の打ち上げでお好み焼き屋さんに来てるんだけど、人が多い所が苦手な数馬くんはきっとトイレに引き篭もってるんだろう。
たまにあるんだよね~。一緒に出掛けててもトイレって言って全然戻って来ないと思ったら個室に入って閉じこもったりするの。
数馬くんの病気の事は知ってるけどさ、俺は数馬くんじゃないから気持ちが分からない訳よ。だから、もう少し普通に出来ないかなって思っちゃうんだよね。
「はぁ、さすがに言い過ぎかな」
それでも数馬くんと別れないのは、見た目と中身のギャップだけじゃなくて、二人で一緒にいて本当に楽しいからだ。
何だろうな?数馬くんって、少し天然入ってるし、可愛いんだよね。
もう二人きりなら全然普通に話してくれるし、大好きなんだけどさ~。
トイレに向かって歩いていると、トイレから慌てた様子の倉持が出て来た。
同じクラスの男で、そばかすがあるぐらいの特に特徴の無い子。
貴哉は良く話してるけど、俺はあまり話した事がない。
すると、倉持は俺を見付けてしがみついて来た。
え?いきなり何よ?
「中西くん!今広瀬くんがトイレで辛そうなんだ!」
「数馬くんが!?」
辛そうって、まさか発作が起きたのか?
俺は急いでトイレへ駆け込んで、床にうずくまる数馬くんを見付けた。
駆け寄って様子を見ると、息が荒くてとても辛そうだった。
「数馬くん!俺だよ!ほら目見て?」
「はっ……はっ……」
「大丈夫だよ!俺がいるから!」
涙でぐしゃぐしゃになった数馬くんの顔を見て俺の心がキュッとなった。
優しく抱きしめてあげて背中をさすると、数馬くんも俺の背中に腕を回してぎゅーって服を掴んで来た。
「大丈夫。もう大丈夫だよ。ずっと側にいるからね」
「うっなおとっ」
「落ち着くまで何も話さなくていいから。数馬くんはそのままでいいから」
ポンポンと背中を優しく叩くと、数馬くんは俺に顔を埋めて泣いていた。
辛そうな数馬くんに対して俺はこうする事ぐらいしか出来ない。ただずっと抱きしめてあげて落ち着くのを待つだけ。
後ろにいた倉持が心配そうに声を掛けて来た。
「中西くんっ先生呼んで来た方がいい!?」
「待って。呼ばなくて大丈夫だよ。あまり人が多くなると余計に悪化しちゃうから。倉持も行っていいよ。教えてくれてありがとう。俺と数馬くんはもう少ししたら戻るから」
「う、うんっ分かった」
倉持は申し訳なさそうにしてトイレから出て行った。別に倉持が悪い訳じゃないのにね。てかもしかして倉持と何かあったとか?
まぁどちらにせよ数馬くんを落ち着かせるのが先だな。
ここだと人が入って来た時に目立っちゃうから、トイレの個室に入る事にした。
二人で入るには少し狭かったけど、ここなら誰か入って来ても見られないでしょ。
「ふぅ、倉持と会ったのが俺で良かった~」
「直登……」
もし倉持が見付けたのが俺じゃない他の誰かだったらこんな姿の数馬くんを見られる事になるからね。そんなの嫌だ。俺は俺の好きな人の特別な姿は誰にも見せたくないんだ。
個室に入って閉鎖された空間になった事で数馬くんは安心したのか、息も整って来たみたいだ。
「あ、落ち着いた?」
「うん……迷惑掛けてごめん」
「今更でしょー。俺の方こそ目離してごめんね?」
「ううん。俺が悪いんだ」
自分を責める数馬くんの顔を俺のロンTの裾で拭いてあげる。ほんと可愛いなぁ。吊り目で、気の強そうな顔してるのに、喋るとこんなに弱そうだなんて、可愛いくて仕方ないよ。
俺は数馬くんのおでこにキスをして笑いかける。
数馬くんは一見、貴哉同様ヤンキーだ。だから数馬くんへの第一印象は貴哉の子分って思ったんだ。
髪も襟足だけ長くて、サイドの一部を今はオレンジに染めてる。そして何より大量のピアスが印象的だ。俺が言ったら大分減ったけど、それでも耳にはまだ数個付いていた。口のピアスはもうすっかり付けなくなったけど、穴は今だに残ってる。
「数馬くん好きだよ」
「ん……俺もっ」
数馬くんは元々貴哉の事を好きだった。と思う。
今は俺と付き合って、俺の事を好きだと言ってくれてるからいいけど、貴哉に懐いてるのは今でも変わらない。
俺はそれをあまり良く思ってないんだよね。
とにかく俺は好きな人には俺だけを見ていて欲しいと思うんだ。
本当なら数馬くんみたいに他の男を見ていたらとっくに別れてる所だけど、どうしてかずっと一緒にいたいと思ってしまうんだ。
「あのね、倉持がいっぱい話してくれたんだ。俺を褒めてくれた……それなのに俺は何も言えなくて、倉持がトイレから出て行っちゃうって思って腕を掴んだら……こうなっちゃったんだ」
「えっ数馬くんから掴んだのか?」
「うん。自分でも驚いた。初めてだよこんなの」
数馬くんの初めてを奪うなんて、倉持の奴油断出来ないな。ちょっとやきもち妬きつつも、数馬くんの話を聞いていた。
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