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4章 文化祭

空、俺がいない間に何があったんだ?

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 演劇部の片付けもそこそこに、俺は一人ボラ部の陣地に戻ると既に片付けが終わっていて、テントと、机と椅子だけが残っていた。
 あー、なんかもう文化祭も終わりなのかーとしんみりした気分になるな。

 ここで戻った俺を見つけた空が駆け寄って来た。


「貴哉ー♪お疲れ!演劇部どうだった!?」

「おう!空もお疲れ~。上手くやれたと思うぜ?てかカツラのせいで髪ぐしゃぐしゃになったから直して~」


 俺が空に甘えると、こっちおいでと手を引かれて校舎の中に連れて行かれた。
 校舎の中ではまだやってるとこや俺達みたいに店じまいしてるとこがあった。

 一般の奴らも少なくなって来たな。

 空に連れて来られたのはボラ部部室だった。そして空は自分の鞄からいつも持ち歩いてる鏡と髪をセットする道具を慣れた手つきで用意し始めた。


「相変わらずだなお前。女子かよ」

「いつ何時でもお洒落には気を抜かないが俺のモットーなの♪はい、ここに座って♪」


 俺を椅子に座らせて、ドライヤーをコンセントに繋ぎ出した。そして鏡を俺の前に立てて置いて、テーブルの上にワックスを用意した。
 慣れた手つきで櫛で俺の髪を梳かし始めた。

 髪を触られて気持ち良くてそのまま身を任せていた。
 
 俺はたまに空にはやってもらっていた。俺を起こしに来てた時とか、学校とかでこうして俺の髪をいじる事はあった。
 俺は空に髪をいじられるのが好きだった。

 ドライヤーでブローしながら俺のぺたんこになった髪をふわっとさせていく。前髪は真ん中から両サイドに分けられて見事にデコ全開になった。


「えー、普通でいいのにー」

「せっかくだから俺の好きにさせてって♪」


 空は本当にこういうのが好きなんだなぁ。俺は面倒くさくていつも寝癖を直すのがやっとだ。
 まぁ空に任せときゃ間違いないんだろうけど。

 そして最後にワックスで整えて、完成した俺の髪型は見事にお洒落?になった。前髪は後ろに流す感じのセンター分け、サイド後ろはフワッとさせ無造作に毛束を作り整えられていた。
 うん。さっきのぺたんこよりはマシだな!


「完成~♡かっこいー♡」

「サンキュー。おお!なかなかイケてんじゃん」


 俺は目の前の鏡で確認して満足した感想を言うと、空はほっぺにチュッとキスをして来た。
 あっぶねぇなぁ!こんなとこ誰かに見られたらヤベェだろ!


「おまっ!何すんだ!」

「だって貴哉かっこいいんだもん♡」

「そ、そうか?かっこいいかぁ?」

「この後桐原さんと過ごすんだろ?少しぐらい俺にも甘えさせろよ♡」

「お前……」


 空は悲しそうに笑った。
 ズリィだろそれは。んな顔されたら俺は何て言ったらいいのか分からなくなるだろうが。


「貴哉、愛してる」
 
「お前どうした?何かあった?」

「貴哉も言ってよ」

「……愛してるよ」


 迷ったけど、不安げに見てくる空に素直に伝えると、ギュッと抱き締められた。
 こいつ、何かあったな。
 俺は抱き返して背中をポンポンとしてやる。


「空、俺がいない間に何があったんだ?話せよ」

「ちょっと落ち込んでるだけ。でももう大丈夫。貴哉に会えたから♪」


 理由を言おうとしない空は、体を離してニコッと笑った。そして俺の髪をセットしてくれた道具をしまい始めた。


「そろそろ行こうか。そう言えばさっき渡辺さん達が来て打ち上げしようって話してたんだけど……」

「空」

「何ー?」


 何も無かったように振る舞う空を呼んでこっちを見させる。もういつもの空に戻ったみてぇだな。
 だけど、このまま普通に別れてもいいのか?こいつ情緒不安でまた変な事したりしねぇよな?

 俺はそれが心配だった。


「ダメだ!まだ俺に付き合え!やり残した事がある!」

「は?何いきなり!」

「桃山だよ!猛犬注意!あいつからブレスレット奪ってねぇじゃん!ほら行くぞ空♪」

「でも、もう桐原さんも来るじゃんっ」

「宝探しはお前とやってんの!それ終わるまでは俺は空と過ごすんだ♪」

「貴哉、ほんとお前は……」


 俺が空の腕を掴んで引っ張ると、困ったように笑った。
 もうなっち達のクラスも終わってるかも知れねぇし、ブレスレットとかもそんな事はどうでも良かった。

 俺はただもう少しだけ空と一緒にいる理由が欲しかっただけなんだ。

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