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4章 文化祭

好きでもない奴と結婚するって事か?

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 空と桃山を探し出して結構経った。
 今は外の出店を見て回っていた。
 でも一向に見つからないから、俺はもう諦めようかと思っていた。


「もう12時だ。あーあ、もう少しで貴哉行っちゃうのか~」

「つっても演劇部自体は1時間とかで終わるし、俺の出番って途中までだからそんなかからねぇよ」

「でも終わったら桐原さんと過ごすって約束してたじゃん。今日俺が貴哉といられるのはあと1時間半か~」

「…………」


 空が不満に思う姿を見て俺は何も言葉が出なかった。
 昨日空と一線を越えたけど、やっぱり良くねぇかなとは思うんだ。
 それは空にも伊織にもだ。

 二人は前みたいに言い合ったりしなくなったから分かりずらいけど、俺が思ってる以上に嫌な思いをしてる筈だ。
 
 だけど、どうする?
 どちらかを選べなんて出来ねぇよ。


「貴哉?黙っちゃってどうした?」

「いや、何でもねぇ」

「何でもねぇ訳ねぇじゃん。貴哉が黙るなんてさ。桐原さんの事なら気にしてねぇよ?別に二人は付き合ってるんだし、一緒に過ごすのは普通だろ」

「空……」

「そりゃ悔しいよ?でも俺はまだ桐原さんには勝てないから、無理はしない。貴哉がハッキリ空じゃなきゃやだって言えるようになるまで頑張るから♪」


 空は明るく笑っていた。
 なんだよそれ、すげぇ前向きじゃん。
 そんな事言われたら甘えちまうじゃねぇか。


「好きだ」

「へっ!?」

「お前の事、ちょー好きだわ♡」

「貴哉……お、俺もちょー好き!大好き♡」

「あら、こんな場所で堂々と愛を確かめ合うなんて、さすが私が認めた男ね貴哉」

「!?」


 横から聞き覚えのある女の声がして、パッと声の方を見ると、そこには綺麗な黒髪ロングの前髪パッツンの美少女がいた。少しキツい目付きにスッと通った鼻筋、ニッと笑う口元はピンク色に輝いていた。つばの広い白い帽子を被り、白のブラウスにベージュのワンピース。
 この誰もが振り向く品のある女は久しぶりに俺の前に姿を現した。


「芽依!」

「ごきげんよう♪相変わらずね貴哉。安心したわ」


 忘れもしない、一条芽依だ。
 そう、紘夢の妹で超が付くお嬢様だ。
 でもおかしい。いつも後ろに張り付くように立っている付き人がいない。まさかこんなとこに一人で来たってのか?紘夢とは仲が悪いって聞いてるし、え、俺に会いに来たのか!?


「お前も相変わらずだな!心配してたんだぞ?お前大丈夫なのか?」

「私はこの通り無事よ。何を心配しているのかしら?」

「いや、聞いたぞ。うちに泊まったの父ちゃんにバレたんだろ?」

「どこで情報が漏れたのかしら。春樹?」

「いや、紘夢に聞いたんだ」

「貴哉、紘夢と話すようになったの?」

「まぁ、友達だからな」

「友達ね……それよりも今日は貴方に報告があって来たのよ」

「報告って?」

「私、高校を卒業したら結婚するの」

「結婚!?」


 俺は素で驚いた。隣にいた空も一緒だった。
 高校卒業したらって、芽依も俺らと同じ一年だったよな?え、あと二年と少しもあるのに結婚だと!?


「そうよ。今日はその婚約者と来ているのだけど、お使いを頼んだら戻って来なくなっちゃったのよ。今日は彼が一緒だから使用人もいないの。それで貴方に会いに来れたって訳♪」


 楽しそうに笑う芽依は普通の女子高生に見えた。
 そんな芽依にこの歳で婚約者って何だよ!?
 紘夢は知ってるのか!?


「な、なぁ、婚約者って、何で?いきなりどうしたんだよ?」

「あら♡やきもち焼いてくれるのかしら?」

「じゃなくてお前の事心配してるんだ!」

「簡単に話すけど、紘夢が出て行ったから私が父の会社を継ぐ事で話が進んでいるのよ。それで結婚相手も父に決められたって訳よ」

「それって、好きでもない奴と結婚するって事か?」

「貴哉」


 俺が質問すると、空に止められた。
 でもさ、そんなの芽依が可哀想過ぎるじゃん!
 これじゃ今までの紘夢と変わらねぇじゃん!


「結果的にそうなるわね。でも、私は気にしてないわ。貴哉、貴方と結ばれるのが理想だったけれどそれは難しそうだから」


 芽依はチラッと空を見て笑った。
 そして話を続けた。


「でも、私の心にはずっと貴方がいるわ。それで十分なの♪それとね、婚約者の方も私と同じ境遇で意気投合したのよ。お互いの立場や気持ちを利用して上手くやろうって手を組んだのよ。今日貴方に会いに来れたのも彼の協力のお陰よ。そうね、紹介したかったのだけど、どこへ行ったのかしら」

「芽依ちゃん、お幸せにって言葉は変か。でも、芽依ちゃんがそれでいいなら応援させてね」

「ありがとう。貴方は確か早川くん、だったわね。貴方も貴哉を幸せにするのよ。不幸にでもしようものなら私が許さないから」

「分かってます!!お嬢様!!」

「芽依……てかお前こんなことに一人でいたら変な虫寄って来るぞ!早く婚約者と合流して守ってもらえ!」

「ええ、そうするわ。ちょっと電話してみるわ」


 芽依はスマホを取り出して連絡を取り始めた。
 スマホ?電話?


「あー!」

「うわっ何だよいきなり大きな声出して~!」

「電話だよ!桃山に電話してどこにいるのか聞きゃいいんじゃん!」

「あ、確かに」

「彼と連絡がついたわ。こちらへ来てくれる事になったのだけれど」

「悪いな芽依!俺達急いでるんだ!この学校の目玉の演劇部!午後開演すっから見て行けよ♪俺も出るからよ」

「まぁ!貴哉が演劇ですって!?是非鑑賞させてもらうわ♡」

「じゃあな~!婚約者はまた今度会わせてなー!」


 俺と空は芽依と別れて桃山に電話をかけて居場所を聞き出そうとした。
 久しぶりに会った芽依は少し大人っぽくなったように見えた。
 
 好きでもない奴と結婚なんか可哀想だとか思ったけど、芽依は芽依なりに損しないように考えて納得しているみてぇだった。
 俺の知ってる芽依はとにかく自分勝手でワガママお嬢様だ。だけど、最後に会った時とは少し変わっていた。
 いや、俺が知らなかっただけなのかも知れない。

 俺と空が立ち去る時に芽依の後ろにスラッと背の高い優しそうな笑顔の男が目に入って、振り向いた芽依がニッコリ笑っていた。
 何だよ。俺が心配する事無かったな。

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