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3章 文化祭まで一週間
※ 認めたく無い自分が嫌なんです
しおりを挟む※空side
ボラ部部室で俺はボーッと窓の外を眺めていた。
もうみんな帰った後で、静かな部室の中、一人でただ中庭が見える景色を見ていた。
貴哉は桐原さんと帰って行った。
二人共幸せそうに見えた。
昼間の出来事が本当に夢だったのかと思うぐらい、いつも通りだった。
俺も帰ろう。明日も忙しくなるから早く帰って休もう。
クルッと振り向いて鞄を取ろうとすると、ニヤリと笑う一条さんと目が合った。
え、まだいたの?
「ビックリした……まだ帰ってなかったんですね」
「空くん待ってたんだよ~♪」
「俺を?でも今日はバイト無いですよね?」
明日の文化祭に備えて今日は休みにしてくれたんだ。だから一条さんが俺と帰る理由が分からなかった。
「バイト無くても一緒に帰ろうよ。吉乃には言ったから二人でね」
「……いいですけど」
何も企んでないよな?この人は本当に何を考えているのか分からないから疑いたくなるんだ。
それは失礼だから俺は悟られないように普通にする事にした。
「警戒してるね~。別に何も企んでないからいつも通りにしてよ~。あはは~」
すぐに悟られた。
俺は貴哉とは違って顔に出やすいタイプじゃないと思うけど……
俺は苦笑いをしながら一条さんと学校を出た。
俺は自転車を押しながら、その隣を一条さんが歩いていた。
一条さんとは部活やバイトの件で話す事が増えたけど、思っていたよりも子供っぽいなと思う。
俺らが普通にしてる事とかやってる事に食い付いては笑って喜んでいる。幼い子供が新しいおもちゃを与えられる。そんなイメージ。
でもそんな一面の一方、ガラッと変わる瞬間もある。悪巧みをしているような笑みを浮かべて、自信満々でスラスラと難しい事を喋り始めて周りにいる人達を自分のペースに持っていく事がたまにある。
まだ俺はどっちが本当の一条さんなのかは分からないでいる。
分からないままの方がいいのかとも思っている。
「一条さん、Tシャツのデザインの意味教えて下さい。それぞれを花に例えたんですよね?俺の花って何ですか?」
何か会話をしなくてはと思って少し気になっていた質問をしてみた。一条さんが書いた俺の花は赤くて花びらの先にかけて白くなっているお洒落な花びらがたくさんある丸い花。
「ダリアだよ。優雅、気品、栄華とか豪華な見た目通り華やかな花言葉なんだ。開業祝い、就職祝い、誕生日とかあらゆるめでたい席で贈られてる人気の花だよ」
「へー、どうして俺がダリア何ですか?一条さんから見たイメージ?」
「うん。空くんの見た目の華やかさで選んだ♪でもね、ダリアにはネガティブな花言葉もあるんだ」
「えー、何ですかー?」
「裏切り、移り気、気まぐれ、不安定」
「…………」
一条さんが俺をチラッと見て言った。
裏切りって……俺がそうだと言ってるのか?
「ま、これは俺の勝手なイメージだからあまり気にしないでよ~♪」
「気にしますって……俺が裏切ると思ってますよね?」
「んー、それはないかな~?」
「え?」
「空くんは見た目はダリアみたいに華やかだけど、中身はとても慎重で真面目。他の人と大きく外れた事をするのを恐れているよね。それと、依存体質でもある」
「依存体質?」
「誰かが側にいないと不安になったりしない?一人でいると不安になる。誰かに頼りたくなる。部活では副部長として一生懸命頑張ってるけど、その反動が貴ちゃんに対して出てるんじゃないかな?」
「っ……」
一条さんの言う事に俺は言葉を失った。
自分が依存体質だとは思った事はない。確かに過去にはいろんな女と過ごしていた時期もあったけど……
でも一人でいると不安になる事はあった。
特に貴哉と別れてからは頻繁に思う。
だから今日俺は自分を抑えられなくて貴哉に手を出しちゃったのか?
「でも貴ちゃんにはいーくんがいるからずっと側にいるなんて無理だもんね。そうなったら誰が空くんの側にいるんだろうね?」
「一条さん……別に俺は誰かに側にいてもらいたいなんて思ってません。昔みたいに誰とでも付き合う訳じゃありません」
「貴ちゃんが心配してたんだよ。空くんの事を」
「貴哉が?」
「自分がずっと付いててやる事が出来ないから俺に頼んで来たの。空の面倒見てやってくれって。あいつは一人にすると危なっかしい奴だからって」
「何だよそれ……」
「貴ちゃんの頼みだから喜んで引き受けたよ♪それも貴ちゃんにとって大切な空くん絡みだからね。だからね、これからは俺が側にいるよ~」
「貴方も何を言ってるんですか。そんなの必要ありません」
「じゃあ俺が必要とするよ。空くんがいなくなったら困るのは俺だ。美味しい夕飯が食べられなくなるからね。だから側にいて欲しいなー?」
「…………」
「個人的に気に入ってるのもあるよ。見た目は申し分無いし、真面目で知的な所も良いよね。あの春くんに次いで学年ナンバー2の成績とか凄いよ~」
「あの、一条さん」
「なぁに?」
「からかってるのなら辞めて下さい。俺も怒りますよ」
「それは困るな~。空くん怒らせたら貴ちゃんにも怒られちゃうよ。何が嫌だった?謝るから教えてくれない?」
一条さんは困ったように笑って聞いて来た。
何が嫌だったって?そりゃ、そんなの……
「ごめんなさい。一条さんが言った事が嫌な訳じゃないんです。認めたく無い自分が嫌なんです」
「ふふ♪そういう所も好きだな~♪昼間にも言ったけど、これからは俺は空くんの味方だよ。貴ちゃんから頼まれたのもあるけど、空くんはとても良い子!俺も空くんには幸せになってもらいたいなって思ってるよ」
「一条さん。ありがとうございます」
「いいって事よ~♪あ、肉まん食べる!?俺的にあそこのコンビニのが一番美味しいんだ♪」
「肉まん?食べたいです」
「よーし!先輩が奢ってあげる!他にも食べたいのあったら言いたまえ♪なんてね~♪仲の良い後輩が出来たら言ってみたかったのー♡あはは♪」
一条さんは無邪気に笑った。
その顔は本当に楽しそうで、見てるこっちまで笑えて来るような顔だった。
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