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3章 文化祭まで一週間
はは、ボラ部に戻って来たって感じするわ
しおりを挟む俺はぐったりしながらボラ部の部室の机に突っ伏していた。
はぁ、まじ疲れた!
侑士の奴があんなに面倒くさいとは思わなかった!絶対怒らせないようにしねぇとな~。
あの後全てを終えた伊織と茜が入って来てくれて何とか俺と犬飼は見逃してもらえたんだけど、俺まで侑士に説教されてるみてぇだったわ。
ボラ部も何とか準備終わったみてぇだな。
みんな帰る準備してらぁ~。
「貴哉、帰ろう」
「おう」
伊織に声を掛けられて俺は立ち上がる。
すると、紘夢に呼び止められた。
「二人共待って~。これ二人の分♪」
「あ!Tシャツ!」
紘夢に手渡されたのはボラ部オリジナルTシャツだった。俺は感動して、すぐに広げて見てみる。うん!すげぇいいじゃん♪
「ボランティア魂~!かっけーじゃん♪花もお洒落だしな!」
「でしょー?明日来たらすぐに着用必須ね~♪」
「はは、ボラ部に戻って来たって感じするわ」
「そうだな」
伊織は俺の隣で笑っていた。
二人で部室を出て帰ろうとすると、空とすれ違った。あれ?今から部室行くのか?
俺と目が合うと、ニコッと笑って立ち止まった。
「空、まだ帰らないのか?」
「進捗具合を顧問に報告しに行ってたんだ。部室に鞄あるからそしたら帰るよ」
「そっか。気を付けて帰れよ」
「うん。貴哉も」
空はチラッと伊織を見てペコっと頭を下げた。
二人がそれぞれ何を考えてるのかは分からない。
でも、ずっと黙っている伊織も、一人で部室へ向かう空も、きっと良くは思ってないだろう。
と思っていたら伊織が空に向かって話し出した。
「早川、本当にいろいろありがとうな。そんでお疲れ様。来週からは俺もちゃんと部長やるからこれからもよろしくな」
「え……いえ、お疲れ様です……こちらこそよろしくお願いします」
空は驚いた顔しつつも無難な返事を返していた。俺も驚いた。
伊織なりに気を使ったのか、近くで聞いてる限りいつもの嫌味には感じなかった。
そして空はまた頭を下げて、部室の方へ向かって行った。
「さて、帰るか」
「伊織……」
「ん?」
俺は普通にしてくれてる伊織に申し訳なさでいっぱいだった。本当は知ってる癖に。怒りたい癖に。
でも、知らない振りをしてこうして俺の隣にいてくれようとしている伊織。
俺はそんな伊織を想うと、自然と笑顔になれた。
「何か食ってかね?腹減った!」
「いいぜ♪何食いたい?」
「そうだな~?マックとか?」
「貴哉ってマック好きだよな」
「美味いじゃん。頼んですぐに出て来るし」
「んじゃ行きますか」
伊織はいつもの自信満々な笑いを浮かべて俺の手を握った。それに俺も自然と握り返す。
伊織と付き合っていて、俺と空がしちゃいけない事、てかちょっとでも怪しい行動を取ろうものなら絶対に許さなかった伊織が、今は知らない顔をしてくれている。
心に引っかかるものはあったけど、そんな伊織のおかげで俺も金髪少女になって今までにないぐらいの演技が出来たし、マックが食いたいって思えたんだ。
だから俺もこのまま空と一線を越えてしまった事は胸にしまっておこうと思った。
せめて文化祭が終わるまではな。
でも忘れたくはない。空と一時的にだけど愛し合えた事、俺はとても幸せな気持ちになれたんだ。
だからカツラも被って、お転婆デシーノを演じられたのかもしれねぇ。
どっちも好きで、どっちか選ぶなんて出来ねぇとか良くない事なのは分かってる。
でも、やっぱり俺は伊織も空も好きで、二人に側にいて欲しいって思う。
いつかもっと先の階段を登れるようになるまで、それまではこのままでいてもいいよな。
「伊織、ありがとう」
歩きながら言いたくなったから伝えると、伊織はフワッと笑って俺の肩を抱いた。
ありがとう。あとごめん。
こんな俺でごめん。
「貴哉愛してる。ずっと一緒だからな」
「おう!」
今の俺と伊織は誰がどう見ても仲の良いカップルだった。
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