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3章 文化祭まで一週間
おー、空が料理してるー♪
しおりを挟むキッチンへの入口に立っていた茜の隣に並んで中を覗くと、桃山が右手に包丁を握って左手にジャガイモを持っていた。そしてその横で犬飼と七海が桃山を包丁を手離すように説得していた。
少し離れた作業台では空と卯月が肉を切り分けている所だった。その後ろの流しでトモが一生懸命お米を研いでいた。
なんつーか、キッチンに野郎ばっかですげぇ絵面だな……
「また桃山が暴れてんの?」
「秋山……いや、湊は手伝おうとしているみたいなんだ。多分あの二人は湊が料理出来るの知らないからただ凶器を手にしてる風にしか見えないんだろうな」
「何か面白ぇから放っておこうぜ~。よう卯月~!茜連れて来たぜ」
三人にはコントやらせとけばいい。俺は肉を切ってる二人組の方へ近付いて卯月に声を掛ける。茜も付いて来た。
卯月はハッとしたような顔をして肉と包丁を置いて振り向いた。
「二之宮……」
「やあ卯月。少し話したいんだけど、忙しいか?」
「いや、大丈夫だよ。早川くん、ちょっと抜けてもいいかな?」
「はい。手伝ってくれてありがとうございました」
「茜、俺も行こうか?」
「いや、二人で話すよ。秋山ありがとうな」
「そっか。そんじゃごゆっくり~」
今の茜なら大丈夫だろ。
茜と卯月は騒がしいキッチンから出て行った。
そして、俺は肉を切ってる空に話し掛ける。
紘夢に借りたのか、腰の部分に黒いエプロンをちゃんと付けてて何か様になってんじゃん。
「おー、空が料理してるー♪」
「へへ♪本格的なのって作った事ないけどさ、みんなが手伝ってくれてるから楽しいよ♪」
嬉しそうに笑う空を見て俺も嬉しくなった。
空が楽しいって言うなら安心した。紘夢んとこでバイトする事になって、安心もあったけど、少し心配もあった。空の事だから先輩の紘夢に気使うんじゃねぇかなって。でも上手くやってるみてぇだな。
「そっか♪お前の作る肉じゃが楽しみにしてるからな♪」
「貴哉の為に美味しいの作るぜ~♪」
「そこは紘夢の為にだろー?」
空と楽しく話してたら、後ろで米といでるトモが顔だけ振り向いて騒ぎ出した。
「貴哉~!ちょっと助けてくれよ~!」
「あ?どうしたんだよ?」
「今米といでんだけど、汗かいちまってよ~!拭いてくれねぇか?」
「テメェ!絶対汗垂らすんじゃねぇぞ!今拭いてやる!」
「あ!貴哉、それ台布巾!」
「へ?拭けりゃなんでも良くね?なぁ?トモ~」
「ううっ貴哉が拭いてくれるなら何でもいい……」
「いやいや、良くないだろ。猿野さん、菌だらけになっちゃったかもだから顔洗って来た方がいいですよ」
「でもまだ途中なんだ」
「お米なら貴哉が代わってくれますよ♪ね?貴哉♪」
「はぁ!?俺がやんのかよっ!?」
「適当な物で人の顔拭くのが悪いんだろっ」
「だって、これが近くにあったんだ!」
「ちゃんと顔洗ってくるから喧嘩すんな!」
トモに止められて俺は仕方なく米とぎの続きをやる事にした。母ちゃんにこき使われる時にやった事はあるからやり方は分かる。だけど、今回のこの量は初めてだ。これ何合分あるんだ?ってぐらい大量だった。
「トモが汗かくの分かるわー」
「貴哉も汗垂らすなよ~」
「分かってるわ!」
さっさと終わらせて次に何か言われない内にリビングに逃げよう。
俺が大人しく米をといでると、桃山が隣にやって来て、皮が剥けたジャガイモを見せて来た。
「貴哉~。見て見て。これ全部俺が剥いたの♡」
「へ?ああそうなんだ。すげぇね」
「で、こっちが小平ので、こっちがクソ犬の」
自分のを作業台に置いて、右手に小平が剥いたらしい小さいジャガイモの塊と、左手に犬飼が剥いたらしいボコボコのジャガイモを見せて来た。
「うわっ!酷ぇな!食うとこ全然ねぇじゃん!」
「ヤバいよな?二人共センスなさすぎて腹立って来たんだ。殺っていいよな?」
今度は包丁を持って聞いて来た。
桃山がそれやりながら言うと冗談に聞こえねぇから。
そしてそれを見ていた空が怒り出した。
「ちょっと小平さん!犬飼さん!何ジャガイモ無駄にしてるんですか!邪魔するなら手伝わなくていいです!」
「だって~!ジャガイモの皮剥きなんてした事ないんだもーん!でも、頑張ったんだよぉ!指切っちゃいそうだったんだからぁ!」
「俺だってやった事ねぇわ!てか皮剥き器とかあるんじゃねぇの普通!それ出せよ!」
「ありますよ普通に。良く探さないで始めるのが悪いんでしょ!」
空が引き出しから皮を簡単に剥ける道具を出して二人に言った。
二人は空に怒られて慌ててるみたいだ。
「あー、代わりに空が怒ってくれたわ」
「今は空が料理長だからなー」
どうやら早川料理長は言う事を聞かないと怒るらしいな。
その後俺達は言う事を聞いて黙々と作業を手伝った。
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