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3章 文化祭まで一週間
嫌なもんは嫌!卯月は間違ってねぇな♪
しおりを挟むそれから卯月は相変わらず元気はなかったけど、落ち着いた様子で話していた。
俺と伊織は普段いつも笑顔でいる卯月の心の声を黙って聞いていた。
「俺が悪いんだ。俺が二之宮を怒らせるような態度を取ったから。二之宮が前田くんに練習時間について相談したらしいんだけど、上手くいきそうだと報告してくれたんだ。俺は一応部長だからね。そんな二之宮を俺は……シカトした」
「シカト?なんで?」
「二之宮は本当に凄い奴だと思うよ。俺なんかより部長に相応しいってね。それに比べて俺は演技も出来なければ力仕事もまともに出来ない。何も出来ないただの一般人だ。ずっと悩んでいたんだ。俺には向いてないって。それなのに二之宮は辞めるとか言い出すし、みんな二之宮の事を頼りにしてるのに……」
「へー、卯月もそう言う事思うんだ~」
「…………」
伊織が驚いてたけど、俺は黙って聞いていた。
卯月が言いたい事は分かった。思ってる事も。
笑顔の裏にはそんな複雑な思いがあったなんて、誰も思わないだろうよ。
俺はクヨクヨメソメソしてる奴の事は好きじゃないから放っておくけど、でも、不思議と俺は落ち着いて聞いていられた。
それは、俺は卯月が演劇部の部長でいてくれて嬉しかったからだ。
「俺は、笑顔だけは絶やさないようにしてたんだ。親にも言われて来たからね。いつも笑顔でいなさいって。そうすれば自然と人が集まってくるから。どんな時でも笑顔を心掛けていたよ。でもさ、もう限界だよ……俺だって逃げ出したい時ぐらいある……」
「卯月……」
「そうだよなー!嫌なもんは嫌!卯月は間違ってねぇな♪」
「貴哉くん?」
俺がニカっと笑ってそういうと、卯月が顔を上げて見て来た。
「俺は嫌な事あったら逃げるぜ?でも、それを越えなきゃいけない目的があるなら我慢してやる。例えば俺は学校が嫌いだ。勉強も朝早く起きるのも出来ればやりたくねぇ。でも、それをしないと退学になっちまうんだ。退学になんてなったら母ちゃんに怒られるだろ?俺はそれだけは避けてぇんだ。だから逃げたいけど逃げずに頑張ってるって訳」
卯月は真っ直ぐに俺を見ていた。伊織は何も言わずに笑っていた。
俺は一度話を切ってから、更に俺は続けた。
「俺は初めは演劇部の助っ人なんか嫌で仕方なかった。でも夏休みと進級の為にやる事にしたんだ。周りに嫌われてるのは分かってたけど、そんなのどうでもいい。ここまでやって来れたのは伊織と茜がいてくれたからだけど、まず初めにお前が歓迎してくれた事が何より嬉しかった。卯月、お前が部長じゃなかったら俺は助っ人なんかやらなかったかもだし、茜ともこうして仲良くなってなかったかもしれねぇんだ。だからさ、もう少し頑張ってみねぇ?俺、お前の笑顔見れなくなるのやだよ」
「貴哉くん、俺の事そんな風に思っててくれたの?」
「ん?俺だけじゃなくてみんな思ってんじゃね?卯月はいつも笑顔で明るくて場を和ませる良い奴だって。だからさ、無理に何でもやらなきゃとか思わなくていいんだって。茜は自分でやりたくてやってるだけなんだから勝手にやらせとけよ。何も部長だからみんなより頑張らなくちゃって思わなくても良くね?」
「貴哉のそういう所大好き♡俺もそう思うぜ?卯月にしかない良い所だっていっぱいあるだろ。あの詩音さんが選んだ人間なんだからな」
「そうだぞー。伊織なんか副部長に全部任せっきりだしな」
「それは少しは悪いと思ってるって。でも俺は早川の事やみんなの事を信じてるんだ。俺がいなくてもちゃんとやってくれるなって」
「ふ、二人共……俺は、二之宮に何て事を……」
ここで卯月の目から涙が溢れた。
卯月は部長だからって変なプレッシャーと闘ってたんだな。きっと詩音も卯月や二之宮の事を分かった上でそれぞれに部長と副部長を与えたんだと思う。
まぁこうしてメソメソしてるの見ると、少しは部長らしくならねぇとって思うけどな!
「茜の事は気にすんなって。あいつならそういう態度取られるの慣れてるだろ。あ、なんなら仲直りさせてやろうか?茜も誘って卯月も一緒に肉じゃが食おうぜ♪」
「そりゃいいな。卯月、この後予定は?」
「ないけど……二之宮は許してくれるかな?」
「そんな事心配してんのか?茜はそんなに小せぇ男じゃねぇよ」
もし茜が許さねぇって言うなら俺が説教してやる。俺も茜のスパルタには少し思うところがあるからな!なんて、許さないなんてねぇよ。
俺には卯月と仲直りをした時の茜の喜ぶ顔が目に浮かぶけどな。
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