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3章 文化祭まで一週間
※ 俺も二人みたいになれたらもう少し違ったのかな
しおりを挟む※七海side
文化祭まで一週間。今週の土曜日には本番だ。
俺達演劇部は、今日から体育館を使っての活動になる。体育館を使うのは演劇部だけじゃないからこのステージを使って練習出来るのは貴重な時間だ。今日と明日と、前日の金曜日の午後は演劇部が使える事になっているから、みんな張り切って動いていた。
俺もみんなと一緒に張り切らなくちゃいけないんだけど、なんかね、文化祭が近付くにつれて気分がどんどん落ちていくんだ。
理由は分かってる。文化祭が終わったら二之宮が演劇部を辞めちゃうからだ……
「七海?ボーッとしてどうした?」
「あ、いーくん」
同じ学年のスーパーアイドルいーくんが俺を覗き込んで聞いて来た。いーくんはドラゴン、俺はプリンセスを演じるから、自然といーくんといる時間が多かった。
俺は小さい頃からお姫様に憧れていて、いつかかっこいい王子様と結婚するなんて思っていたんだ。だから今回可愛いドレスを着る事が出来るプリンセス役に任命されてとても嬉しかった。
相手役のドラゴンが二之宮だったらな~とか考えたりもしたけど、二之宮のキャラじゃないし、負担が大き過ぎるもんね。
こうして一緒の舞台に立てて同じ事を出来ているだけでも良かったんだ。
だけど、文化祭が終わったらもう二之宮とは一緒に演技が出来なくなるんだ。
「憧れのお姫様になれても、迎えに来てくれる王子様がいなきゃ意味ないんだなぁって」
「……二之宮か」
「そうだよ~。本当に辞めちゃうのかなぁ?」
もういーくんには俺が二之宮を好きな事はバレてるから普通に話す事にした。
俺といーくんはステージ上で演者や裏方達に指示を出したり、薗田さんや現部長の卯月達と話して打ち合わせをしている一生懸命な二之宮を見ていた。
こうして見てると二之宮って本当に真っ直ぐな奴だなぁって思うよ。真面目で何に対しても臆せずに堂々としてて。でも、無愛想で目付きも悪いから勘違いされてばかりだったんだよね。
俺もその一人だった。二之宮茜はうるさくて生意気な奴。きっと今でもそう思って嫌ってる人もいるんじゃないかな?
でもね、俺は知ってたよ。二之宮が誰よりも真っ直ぐで良い奴だって事。薗田さんと話してる時に笑っていたのを見た事があって、俺はその笑顔を見てから二之宮の事が気になって仕方なくなったんだ。そうしたら周りとは違った目で見る事が出来たんだ。でも俺はそれを隠した。そして周りが本当の二之宮に気付かないようにワザと嫌がらせしたり、二之宮を悪者扱いしてたんだ。
ただ単に意識しちゃうと素直になれないって俺の性格もあったけど、俺は周りから愛されていたからみんなはすんなり受け入れて同じように二之宮を悪者扱いしてた。
これで誰も二之宮を好きになる事はない。と思っていたのに、甘かった。まさか外部の人間、それもあんな猛犬の桃山に気に入られちゃうなんて……
さすがに桃山に勝てる気がしないから友達として側にいれたらって思ってたけど、まさか部活を辞めちる事になるとは。
きっと俺のせいだ。前に謝る機会をくれた時には違うって言ってくれたけど、その環境を作ったのは紛れもない俺だ。
だから俺は自分のせいもあってこんな気分になってるんだ。
「ああ、残りの高校生活は貴哉達と過ごすんだろ?今の二之宮は一条とも仲良いし、今まで出来なかった事をやりてぇんだろ」
「秋山と一条か~」
あの二人も凄いよな。いきなり現れていきなり二之宮と仲良くなっちゃうんだもん。
そうだ、秋山が現れてから二之宮を見る周りの目が変わったんだ。秋山も二之宮同様、パッと見は取っ付きにくそうなんだけど、不思議と人が寄ってくるんだよな。
そして周りから自然と愛されてるんだ。
俺の愛され方とは全然違う。俺は自ら愛されるように振る舞ってるけど、二人はあくまでも自然なんだ。
「あの二人も凄いよね。問題児だけど、普通に学校来てるし、二之宮とも凄く仲良いし。俺も二人みたいになれたらもう少し違ったのかな」
周りの事を気にしないで自分の好きに振る舞う。
俺は一人になるのが怖くていつも誰かに甘える事しか考えてなかった。媚を売れば甘やかしてくれるような見た目をしているのは自覚があるからね。だから七海ちゃん七海ちゃんってみんな甘やかしてくれてたけど、今ではもう媚を売るのも忘れるぐらいの脱帽感しかないや。
もう興味のない奴に甘えるのとかもする気が起きないしね。
どうせなら二之宮に素直に甘えたい……
「それはどうだろうな?あの二人は俺でもすげぇと思うし、あとはタイミングもあるんじゃね?たまたま七海はそこのタイミングだったから今がある」
「えー、それ言ったらもうダメじゃん」
「そんな事ないだろ。タイミングが無けりゃ作りゃいい。何もしないでいるよりは自分で作ればいくらだってタイミングは生まれるからな」
「……いーくん、俺の事二之宮に告らせようとしてる?」
「あ?だって、お前は二之宮が部活辞めて接点が無くなるからしょげてんだろ?だったら当たって砕けろよ。それに分かんないじゃん。桃山と別れてお前んとこ来てくれるかもじゃん」
「絶対ないでしょー!俺も二人とお昼したりしてるけど、あの二人超絶仲良しだもん!」
「俺も超絶仲良しの貴哉と早川を別れさせて手に入れたけど?」
「それはいーくんだから出来たのー!俺は何でも出来るスーパースターじゃないもんっ!」
「あーだこーだうるせぇな。だったら七海にしか出来ねぇ事やってみれば?ちなみに俺は何でも出来ねぇよ。可愛いくなるのは無理だった。俺も自分に出来ない事があるの最近知った」
いーくんは苦笑いをしながらそう言った。
嘘、あのいーくんに出来ない事があるなんて!しかも自分で認めてる!
確かに最近俺のとこに来ては可愛いくなる方法聞いたりしてたけど、いーくんには出来なかったのか。
「まぁ確かにいーくんはかっこいいだもんな。それで可愛いまであったら反則だもん」
「反則でも何でもいいから可愛いをやってみたかったよ。それが出来る七海はすげぇなって思うよ」
「……俺なんて」
いーくんに凄いなんて言われる程じゃないよ。そりゃ自分自身女の子っぽいなと思うし、普段も女の子の格好したりしてるけど、でもそれは意識してやってる事だもん。自然に出来なきゃ意味が無い。
じゃなきゃ王子様にだって見てもらえないよ。
「ま、とにかく二之宮は二之宮の考えで決めた事だし、無理に引き止めてもあいつの可能性の邪魔になるからな!好きにさせてやれよ」
「うん。そうだね」
再び舞台の上を走り回る二之宮に視線を戻す。
いなくならないでよ二之宮。
俺、寂しいよ……
ふと悲しくなって涙が出そうになった時、体育館に今話題の新しく生徒会長になった男、前田侑士が颯爽と体育館に入って来るのが見えた。
「あ、侑士じゃん」
「侑士だねー。どうしたんだろー?」
俺といーくんは目を見合わせて、珍しい来訪者を身で追っていた。
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