【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ5th season

pino

文字の大きさ
上 下
129 / 219
3章 文化祭まで一週間

※ 俺も二人みたいになれたらもう少し違ったのかな

しおりを挟む

 ※七海side

 文化祭まで一週間。今週の土曜日には本番だ。
 俺達演劇部は、今日から体育館を使っての活動になる。体育館を使うのは演劇部だけじゃないからこのステージを使って練習出来るのは貴重な時間だ。今日と明日と、前日の金曜日の午後は演劇部が使える事になっているから、みんな張り切って動いていた。

 俺もみんなと一緒に張り切らなくちゃいけないんだけど、なんかね、文化祭が近付くにつれて気分がどんどん落ちていくんだ。
 理由は分かってる。文化祭が終わったら二之宮が演劇部を辞めちゃうからだ……


「七海?ボーッとしてどうした?」

「あ、いーくん」


 同じ学年のスーパーアイドルいーくんが俺を覗き込んで聞いて来た。いーくんはドラゴン、俺はプリンセスを演じるから、自然といーくんといる時間が多かった。
 俺は小さい頃からお姫様に憧れていて、いつかかっこいい王子様と結婚するなんて思っていたんだ。だから今回可愛いドレスを着る事が出来るプリンセス役に任命されてとても嬉しかった。
 相手役のドラゴンが二之宮だったらな~とか考えたりもしたけど、二之宮のキャラじゃないし、負担が大き過ぎるもんね。
 こうして一緒の舞台に立てて同じ事を出来ているだけでも良かったんだ。

 だけど、文化祭が終わったらもう二之宮とは一緒に演技が出来なくなるんだ。


「憧れのお姫様になれても、迎えに来てくれる王子様がいなきゃ意味ないんだなぁって」

「……二之宮か」

「そうだよ~。本当に辞めちゃうのかなぁ?」


 もういーくんには俺が二之宮を好きな事はバレてるから普通に話す事にした。
 俺といーくんはステージ上で演者や裏方達に指示を出したり、薗田さんや現部長の卯月達と話して打ち合わせをしている一生懸命な二之宮を見ていた。
 こうして見てると二之宮って本当に真っ直ぐな奴だなぁって思うよ。真面目で何に対しても臆せずに堂々としてて。でも、無愛想で目付きも悪いから勘違いされてばかりだったんだよね。
 俺もその一人だった。二之宮茜はうるさくて生意気な奴。きっと今でもそう思って嫌ってる人もいるんじゃないかな?
 でもね、俺は知ってたよ。二之宮が誰よりも真っ直ぐで良い奴だって事。薗田さんと話してる時に笑っていたのを見た事があって、俺はその笑顔を見てから二之宮の事が気になって仕方なくなったんだ。そうしたら周りとは違った目で見る事が出来たんだ。でも俺はそれを隠した。そして周りが本当の二之宮に気付かないようにワザと嫌がらせしたり、二之宮を悪者扱いしてたんだ。
 ただ単に意識しちゃうと素直になれないって俺の性格もあったけど、俺は周りから愛されていたからみんなはすんなり受け入れて同じように二之宮を悪者扱いしてた。
 これで誰も二之宮を好きになる事はない。と思っていたのに、甘かった。まさか外部の人間、それもあんな猛犬の桃山に気に入られちゃうなんて……
 さすがに桃山に勝てる気がしないから友達として側にいれたらって思ってたけど、まさか部活を辞めちる事になるとは。

 きっと俺のせいだ。前に謝る機会をくれた時には違うって言ってくれたけど、その環境を作ったのは紛れもない俺だ。
 だから俺は自分のせいもあってこんな気分になってるんだ。


「ああ、残りの高校生活は貴哉達と過ごすんだろ?今の二之宮は一条とも仲良いし、今まで出来なかった事をやりてぇんだろ」

「秋山と一条か~」


 あの二人も凄いよな。いきなり現れていきなり二之宮と仲良くなっちゃうんだもん。
 そうだ、秋山が現れてから二之宮を見る周りの目が変わったんだ。秋山も二之宮同様、パッと見は取っ付きにくそうなんだけど、不思議と人が寄ってくるんだよな。
 そして周りから自然と愛されてるんだ。
 俺の愛され方とは全然違う。俺は自ら愛されるように振る舞ってるけど、二人はあくまでも自然なんだ。
 

「あの二人も凄いよね。問題児だけど、普通に学校来てるし、二之宮とも凄く仲良いし。俺も二人みたいになれたらもう少し違ったのかな」


 周りの事を気にしないで自分の好きに振る舞う。
 俺は一人になるのが怖くていつも誰かに甘える事しか考えてなかった。媚を売れば甘やかしてくれるような見た目をしているのは自覚があるからね。だから七海ちゃん七海ちゃんってみんな甘やかしてくれてたけど、今ではもう媚を売るのも忘れるぐらいの脱帽感しかないや。
 もう興味のない奴に甘えるのとかもする気が起きないしね。
 どうせなら二之宮に素直に甘えたい……


「それはどうだろうな?あの二人は俺でもすげぇと思うし、あとはタイミングもあるんじゃね?たまたま七海はそこのタイミングだったから今がある」

「えー、それ言ったらもうダメじゃん」

「そんな事ないだろ。タイミングが無けりゃ作りゃいい。何もしないでいるよりは自分で作ればいくらだってタイミングは生まれるからな」

「……いーくん、俺の事二之宮に告らせようとしてる?」

「あ?だって、お前は二之宮が部活辞めて接点が無くなるからしょげてんだろ?だったら当たって砕けろよ。それに分かんないじゃん。桃山と別れてお前んとこ来てくれるかもじゃん」

「絶対ないでしょー!俺も二人とお昼したりしてるけど、あの二人超絶仲良しだもん!」

「俺も超絶仲良しの貴哉と早川を別れさせて手に入れたけど?」

「それはいーくんだから出来たのー!俺は何でも出来るスーパースターじゃないもんっ!」

「あーだこーだうるせぇな。だったら七海にしか出来ねぇ事やってみれば?ちなみに俺は何でも出来ねぇよ。可愛いくなるのは無理だった。俺も自分に出来ない事があるの最近知った」


 いーくんは苦笑いをしながらそう言った。
 嘘、あのいーくんに出来ない事があるなんて!しかも自分で認めてる!
 確かに最近俺のとこに来ては可愛いくなる方法聞いたりしてたけど、いーくんには出来なかったのか。


「まぁ確かにいーくんはかっこいいだもんな。それで可愛いまであったら反則だもん」

「反則でも何でもいいから可愛いをやってみたかったよ。それが出来る七海はすげぇなって思うよ」

「……俺なんて」


 いーくんに凄いなんて言われる程じゃないよ。そりゃ自分自身女の子っぽいなと思うし、普段も女の子の格好したりしてるけど、でもそれは意識してやってる事だもん。自然に出来なきゃ意味が無い。
 じゃなきゃ王子様にだって見てもらえないよ。


「ま、とにかく二之宮は二之宮の考えで決めた事だし、無理に引き止めてもあいつの可能性の邪魔になるからな!好きにさせてやれよ」

「うん。そうだね」


 再び舞台の上を走り回る二之宮に視線を戻す。
 いなくならないでよ二之宮。
 俺、寂しいよ……

 ふと悲しくなって涙が出そうになった時、体育館に今話題の新しく生徒会長になった男、前田侑士が颯爽と体育館に入って来るのが見えた。


「あ、侑士じゃん」

「侑士だねー。どうしたんだろー?」


 俺といーくんは目を見合わせて、珍しい来訪者を身で追っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...