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2章 文化祭までのいろいろ
別に喜んでねぇよ!驚いただけだ!
しおりを挟む伊織は俺を引っ張ってリビングには行かずに、廊下を歩いて行った。完璧怒ってんなぁ。でもさ、あんなの男同士だしただ戯れてただけじゃん。それになっちは伊織の友達なんだからこんなに怒る事なくね?
俺は自分は悪くないと思って伊織に引っ張られていた腕を振り払って立ち止まった。
伊織も立ち止まり振り向いて俺を真っ直ぐ見て来た。
「お前何怒ってんだよっ俺となっち遊んでただけじゃん!」
「あれが遊びか?他の男の見て喜んで、それにお前は那智の事をまだ分かってねぇよ」
「別に喜んでねぇよ!驚いただけだ!」
「お前、那智と気が合うからってすげぇ懐いてるけど、俺と怜ちんと那智の中で一番危ねぇのは那智なんだからな」
「どういう意味だよ?」
「あいつは、俺と怜ちんと違って好きでもない奴とヤレるんだよ。那智にとってセックスはスポーツ、ただのスキンシップなんだ。挨拶交わす感覚で誰とでもヤっちまう危ない奴なんだ」
「……で、でも!なっちは俺の事そう言う目で見てねぇし、俺も見てねぇ!友達を信じられねぇのかよ!」
「たとえお互いに恋愛感情が無くてもセックスなら出来るだろ。俺は普段のあいつの事なら信じてるけど、性的な面での信用は全くねぇよ。怜ちんも同じ事言うだろうな」
ここで俺は思い当たる節があって言葉が出なかった。
それは空だ。空は恋愛感情が無かったとしてもそういう出会いの場所を使ってた事がある。実際無理矢理やられてたし……
それに、同じクラスの藤野もなかなか本気の出会いを探してる人がいないような事を言っていた。
確かに、空が本当に好きでもない奴とそういうのやったって考えると嫌だ。
俺は那智とはする気はさらさら無いけど、もしそうなってしまったら伊織の気持ちが分かって俺は何も言えなかった。
「……ごめん。俺が悪かったよ」
「貴哉……」
俺がボソッと謝ると、意外だったのか伊織の声が優しくなった気がした。
俺は下を向いて、元気を無くしてると伊織が近寄って来て俺の手を握った。
「俺も強く言い過ぎたな。でもそれだけお前の事を誰にも触られたくないし、大切に想ってるんだ。分かって欲しい」
「……うん」
俺が下を向いたまま元気無く返事をすると、今度はギュッと抱きしめられた。
香水を付けてるのか伊織の甘くて爽やかな匂いがした。
それを嗅いだら俺は自分がガキみたいに拗ねていた事に気付いて笑っちまった。
いつも伊織は俺を甘やかしてくれるな。こうやって怒る事はあっても必ず俺を引き止めようと優しい言葉をくれるんだ。
「貴哉、愛してる」
「ははっ!伊織は俺に甘過ぎんだよぉ~」
「お前が可愛いくて仕方ないんだ」
「伊織、俺も愛してる♡いろいろ不安にさせてごめん!今度からはちゃんとするから。だから許して?」
「もー♡可愛い過ぎだー♡許してやる♡」
またギューってされたから今度は俺も抱き返した。ああ、最近の伊織は変わったと思って少し甘え過ぎてたな俺。もう少し伊織の事も考えて行動しないとだな~。
改めて伊織との仲を再確認し合っていると、感じる多くの視線……
「桐原さん、朝からそんなとこでイチャイチャされたら迷惑なんですけどー?」
リビングのドアのとこから顔を出してジーッと恨めしそうに見てる空。
「えー?俺は良いと思うよー♡貴ちゃんが幸せならね♡」
そのすぐ上には嬉しそうな紘夢。
「どうでもいいが、早く席に着いてくれないか?朝食が遅れるだろう」
二人の後ろから現れた鉄仮面。
「なになにー?盛り上がってんじゃん♪俺も混ぜろーい♪」
洗面所から出て来た服を着たなっち。
「ちょっと~!味噌汁運ぶの手伝って下さいって~!ここの家はみんなで協力しないと食事出来ませんよ~!」
キッチンからお玉を持って出て来た的場。
って全員集合してんじゃねぇか!
俺は見せ物になった気分になり、慌てて伊織から離れて集まって来た奴らを散らせようと「見てんじゃねぇ!」と怒りながら向かうと、みんなは笑顔でリビングに入って行った。
そして振り返り、伊織を見るとそれはそれは幸せそうな顔をしていた。
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