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2章 文化祭までのいろいろ
※ あまり期待させないでくれよ
しおりを挟む※空side
一人で一条さんちのキッチンに来た。
目的は明日の朝ごはんを作る事になったから材料チェックだ。簡単な物なら作れない事もない。ただ材料が揃ってなければ何も作れないから下見に来た。
一条さんの話だと、いつもご飯は使用人の的場さんが買って来てるらしいけど、そうなると、冷蔵庫の中とか期待出来ないよな~?
「おや?どうしたんです?お腹でも空きました?」
「あ、的場さん!」
ここで使用人の的場さん登場!
的場さんは緩いパーマをかけた俺らより少し上ぐらいの大学生っぽい感じの男の人で、タレ目のせいもあってかいつもやる気なさそうなイメージだ。使用人って立ち位置だからかいつもスーツっぽい格好だけど、この人の場合夜の仕事を連想させてしまう。
的場さんは両手にビニール袋をぶら下げてそれをキッチンの真ん中にある広い作業台の上に置いた。
「いや~、人が増えたんで明日の朝食の材料買い足して来たんですよ。あ、せっかくなんで冷蔵庫に入れるの手伝ってくれます?」
「えー!朝食って的場さんが作ってるんですか?」
「はい。最近は作ってますよ~?何かおかしいですかね?」
俺が驚くと、的場さんは苦笑いしながら買って来た物をしまい始めた。
てっきり朝食も冷凍系なのかと思ってた!汁物とかもお湯注ぐだけとか。
「あの、さっきゲームで負けちゃって、明日の朝食を俺が作る事になったんですよ」
「そうなんです?ラッキー♪あ、坊ちゃんは最近手作りの和食が好きなんですよ。まぁメニューは任せますけど……」
「材料もらっちゃっていいですか?」
「どうぞどうぞ~。好きに使って下さいな。一条家のお金で買って来たものなんで」
ニコニコ笑いながら的場さんは冷蔵庫をパタンと閉めた。買って来た物を見ると、結構いろいろあったな~。シャケを焼こうとしたのか、俺達の分まであった。和食とか難しそうだけど、やってみるか♪
朝食の事はなんとかなりそうだったから俺は的場さんと別れてそのままリビングに入る。
それにしても広いな~。もう家って言うよりよく映画とかで出て来る洋館って感じ?
気になったからベランダに出てみる事にした。
ベランダも広くて、白いベンチとテーブルがお洒落に置いてあった。何となくベンチに座って夜空を見上げる。最近夜とか寒くなって来たけど、風もなくて、星が綺麗に出ていた。
俺にとって家のベランダでゆっくり夜空を眺めるなんて経験なんて無かったから、何だか新鮮だった。
今は一条さんが住んでるけど、前に住んでた人達はこのベランダでこういう事を楽しんでいたのかな?朝は優雅にコーヒー飲んだり、昼は軽くランチなんかしたり?
何かめっちゃお洒落じゃん。いいなぁ。一軒家って憧れるな~。二階に自分の部屋があって、隣は兄貴の部屋。お風呂とトイレも別々にあって、廊下もちゃんとあるの。カウンターのあるキッチンで、リビングには家族四人が笑って過ごすんだ。
何度も夢に見たイメージに心を躍らせた時もあった。でもそれは叶わない夢。
俺の家族はみんな、父さんも母さんも兄貴も俺も、バラバラだから。
ふと部屋の方から人の気配がして振り向くと、一番会いたかった人がそこにいた。
「何一人で楽しんでんだ~?俺も混ぜろ♪」
そう言って貴哉は一人掛けの白い椅子にドカッと座った。
その瞬間、さっきまで考えていた夢の話が吹き飛んだ。
貴哉はいつもそうだ。いつも俺がへこんでると現れる。そして闇の中にいる俺に光を与えてくれるんだ。
「もー来るの遅いから一人で楽しんじゃったよーだ」
「なんだ、思ったより元気そうじゃん」
「え?何で俺が元気ないって分かったの?」
「七並べ終わった後に一人でフラッと出てったからだよ。ビリだったからへこんでんだろ?」
「ああ、そっちね」
どうやら貴哉は俺がトランプで負けて落ち込んでると思っていたらしい。俺が別件でへこんでいる事はわかってなさそうだった。それでも心配して来てくれたのは嬉しいけどね。
「そっちって、他に何があるんだよ?」
「うーん、一条さんちを見てたら一軒家っていいなぁって」
「おい、紘夢んちを普通の家だと思うなよ?」
「はは、分かってるよ。貴哉んちもそうだけど、一軒家って憧れなんだよ。家族が揃ってるのも憧れる」
「あー、お前今マンションだもんな。実家はアパートだしな」
「うん……」
「建てりゃいいじゃん。将来さ」
「そんな簡単に言うけどさぁ~。てか同棲するんじゃないのかよ?」
「だから、俺とお前で建てるんだよ。初めはアパートとかでいいじゃん?二人で働いていつか立派な家建てようぜ♪」
「マジで言ってんの?」
「冗談言うかよ」
「俺、本気にするぞ!?」
「しろよ。え、てか何でそんなに驚くんだよ?」
「だって、貴哉には桐原さんがいるじゃんっ」
「だから伊織は伊織だろ。俺はお前と家建てたいの!」
貴哉、自分で言ってる事が無茶苦茶なの分かってないのか?
普通に考えて恋人がいる状態で俺と同棲するのだって難しいのに、一緒に家を建てるだなんてそんな事……さすがに出来る訳ねぇだろ。
「貴哉、気持ちはありがたいけど、それはちと笑えねぇわ」
「何でだよ!お前は俺とじゃ嫌なのか?」
「そりゃ貴哉とそんな事出来たら嬉しいよ。そんなの将来の為にこれからめちゃくちゃ頑張れるよ。でも、現実的に無理だろっての。あまり期待させないでくれよ」
「何で無理だって分かるんだ?」
「だから!今貴哉が付き合ってるのは俺じゃなくて桐原さんだろ?同棲するのだって難しい話なのに」
「ふーん。お前の好きってその程度だったんだな」
「は?え?何?」
「てっきりお前は伊織から俺を奪う気でいるのかと思ってたけどよ。どうやら俺の勘違いだったみてぇだ。そんじゃさっきの話は忘れてくれ」
「はぁ?待てよ!何勝手に勘違いして片付けようとしてんだよ!」
「んだよ!お前が無理だっつーから無しにしたのに、どっちにしろ怒るとか訳分からねぇ!」
「訳分からねぇのはこっちだ!もっと考えて話せよ!」
「テメェ!人がせっかく励ましに来てやったのに!何だよその態度!」
「頼んでねぇだろ!勝手に来たのはそっちだろうが!」
ああ、結局こうなるんだ。
せっかく二人きりで過ごせてるのに、こうなるなら「うん♪そうだねっ」って、思ってなくても笑って頷いてりゃ良かった。
しかも、俺が貴哉を奪うってそんなの……やってもいいのか?
「あーはいはい!もう勝手に来たりしませんよーだ!んじゃ俺戻るわ!明日の朝飯が不味かったら作り直しさせるからな!覚えとけよ!」
すっかり怒ってしまった貴哉。俺は黙って行かせようと思ったけど、一か八かで引き止める事にした。
立ち上がる貴哉の腕を掴むと、キッと睨まれた。
「離せよ!」
「ごめん……俺が悪かったよ……」
「あ?」
「せっかく励ましに来てくれたのにごめん!お願いだからまだ行かないで?」
「……本当に悪いと思ってんのか?」
「思ってます!」
「じゃあ俺は間違ってねぇって事だな?」
「へ!?あ、はい!そうです!」
ここで貴哉はニヤリと笑った。
あ、機嫌直ったのか。
「へへ~♪俺の勝ち~♪」
「…………」
「空は俺がこの先も伊織と続いてくと思ってんのか?」
「え?普通に考えたらそうだろ」
「側から見たらそうなんだろうな。でもよ、俺がお前と付き合ってた時も周りからそう思われてたんじゃね?でも今は元彼だろ?周りはどう思ってるよ?」
「あ……」
「思うんだけど、人ってみんな同じじゃねぇじゃん?俺の場合、結構いろんな奴とぶつかる事多いから良く分かるんだわ。なんでこいつこんな怒るんだろうとか、なんでこいつこんなに大変そうなんだろうとか良く思うんだ。それってそいつと俺が違う考えを持ってるからだろ?なら、俺と伊織だって周りが思ってるのと違った未来になってるかもじゃん」
「それはそうだけど、あの人が貴哉を手離すなんて考えられねぇよ」
「何であいつが手離すの前提なんだ。俺が伊織を手離す事だって考えられるだろ。俺が何でもあいつの言いなりになんてなるかよ!」
何とも貴哉らしい。
そうだな。貴哉が誰かに縛られて生きていくのなんて想像が出来ない。嫌だったら貴哉自身から離れるだろう。でも、貴哉は情に厚いとこがあるんだよな。それ、貴哉は気付いてるのかな?
本当は恋愛感情で好きな訳じゃないのに、情で離れられない事もあるって気付かないと人と別れるのなんて難しいと思うけど。
たまに思うよ?俺の事も情で一緒にいてくれてるんじゃないかって……
考えないようにはしてるけどな。
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