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2章 文化祭までのいろいろ

はは、戸塚ってやっぱ良い奴だよなぁ

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 皆んなが準備に風呂に入っていて、今は伊織の番。先に風呂から上がった俺は髪も乾かさずに急いで戸塚の所へ向かった。戸塚は一人でこの家を見て回ってるはずだ。
 俺は二階へ行き、電気の点いてる部屋を見付けて中に入ってみた。


「戸塚ー?いるかー?」

「秋山か、どうした?」


 中には紘夢に借りた部屋着姿の戸塚がいた。一番初めに風呂に入っていたので、髪型はすっかり元通りになっていた。
 戸塚がいた部屋は他の部屋に比べたらそこまで広くなくて、本が本棚にたくさんあって、まるで小さい図書室みたいだった。


「あのよ、実は……」

「?」


 俺が言いにくそうにしてると、無表情のまま俺を見ていた。
 俺達の黒歴史を伊織に話した事を伝えたいんだけど、何て言う?てか戸塚は覚えてるのか?覚えてないのに、思い出させるような事言っても平気か?
 しばらく唸りながら悩んでいると、いつの間にか俺の側まで来ていた戸塚は、少しだけ笑ってみせた。


「秋山が言葉に迷ってるなんて珍しいな。俺は待つからゆっくり話せばいい」

「おわっ優しいな!えっとー、戸塚ってさ、俺んちに泊まったのって覚えてるか?」

「勿論だ。芽依もいたな」

「そうそう。そん時だけどさ、俺とお前一緒に風呂入ったじゃん?」

「入ったな。それがどうした?」


 いつもの無表情で答えていく戸塚。ええー、本当に覚えてねぇのかぁ?それはそれで言いにくいもんがあるぞ。
 俺が目線を外して何て言おうか考えてると、戸塚は俺の髪を触り始めた。えっ!?いきなり何!?


「と、戸塚!?」

「まだ乾かしてないのか?風邪引くぞ」

「あ、今伊織が風呂入ってるから、急いでたんだ」

「桐原さんがいない時じゃないと話せない話か」

「……覚えてるか?」

「当たり前だ。あんなに可愛かったお前を忘れる筈がないだろう」

「かわっ!?」

「で?それがどうした?まさかまたして欲しくなったのか?」


 少し引いた目で見てくる戸塚。あーはいはい!言いやすくしてくれてありがとうございます!
 俺はここまで来たらさっさと用を済ませちまおうと、戸塚に打ち明ける事にした。


「ちげぇよ!あの時の事、伊織に自分で話しちまったんだよ。伊織ってやきもちすげぇ焼くから、戸塚に何かするかもって心配してんの!もしされたら俺に……」

「何故俺が桐原さんに何かされなきゃいけないんだ?あの時の秋山は早川と付き合っていたんだろ?桐原さんが俺に何かをして来たとしても動じなきゃいい話だ」

「うわぁ、鉄仮面強気~。なら安心したわ!そろそろ伊織が出る頃だから行くな」


 そうだったな。戸塚はいつでもどこでも誰に対しても鉄仮面。てかさっきの戸塚って紘夢っぽかったな?さすが従兄弟?伊達に血繋がってねぇな。
 俺は髪を乾かす為に部屋を出ようとすると、戸塚に手を握られた。え?さっきからどしたのこいつ?こんなボディタッチしてくる人だったっけ?


「秋山は今誰が好きなんだ?」

「……は?」

「伊織が伊織がと随分気にしているようだけど、本当に好きなのか?教室では早川と親しげにしているのを見るが、そっちの方がよっぽどお前らしいと思うぞ」

「え……」

「誰かに流されるとかお前らしくないと俺は思う。俺はお前の自由奔放さが嫌いだったが、今ではそれがお前の長所だと思うんだ。それが無くなったらお前の良い所が無くなるだろ」

「待って?それ褒めてんだよな?」

「褒めているが、俺は心配しているんだ。友としてな」


 友ーーー!!
 まさかの鉄仮面からの友達認定いただきましたー!って喜んでる場合かっ!
 
 俺は戸塚に言われた事が分からない訳ではない。誰が好きなのかって聞かれたら思い付くのは伊織と空だ。どちらかにしろと言われたら、正直答えられない。でも、戸塚の言う通り今は一緒にいて楽しいってか一緒にいなきゃなのは空なんだ。
 同じぐらい大切だから、側にいてやりたいって思うんだ。


「サンキュー。はは、戸塚ってやっぱ良い奴だよなぁ」

「秋山」

「俺は今二人共好きだけど、いつかはどちらかを選ばなきゃいけないってのは分かってる。でもさぁ、それってすぐじゃなきゃダメなのかなぁ?すぐに選べって言われたら俺、無理……」


 どちらかの手を振り払う事を想像したら悲しくなって俯いてしまった。伊織がいなくなるのも、空がいなくなるのも耐えられねぇよ。どちらにせよ俺は泣くだろうよ。
 そんな俺に戸塚は優しい声で言った。
 

「部外者が余計な事を言ってすまなかった。俺の言う事は気にしないでくれ。秋山は秋山のやりたいようにやるのがベストだと思う。周りを掻き回してでも自分のしたい事をするのがお前だからな。俺はそれを端から見学しているよ。たまにこうして話も聞こう」

「戸塚ぁ!好きだー!」

「やめろ!そのすぐに抱き付く癖直せ!」


 俺は暖かい戸塚の言葉に感動してギューってしてやった。すぐに抱き付く癖とか言ってっけど、俺から誰かに抱き付くなんてねぇからな?戸塚は特別なんだからな?あ、茜になら抱き付くかもな?
 本当に俺は良い友に恵まれたなって思うよ。

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