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2章 文化祭までのいろいろ

※ てか貴哉と早川は?

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 ※伊織side

 ボラ部部室に駆け込むと、既に貴哉の姿は無く、他の奴らも帰る支度をしていた。そして那智が俺に言った。


「あ、いーくん!秋山が早川と幸せになるんだ!」

「あ?んだそれ?」

「バッ!!那智くんいろいろ間違ってるし、貴ちゃんにもそれ絶対言うなって言われたでしょ!」


 那智の言う事にキレそうになった。
 怜ちんが慌てて言うけど、キレる理由に変わりはねぇ。


「どういう事だよ?てか貴哉と早川は?」

「いーくん、怒らないでよ。貴ちゃんは空くんと帰ったよ。いーくんにもよろしく伝えてくれって」


 結局帰ったのかよ貴哉は。しかも早川と。
 沸々と湧き上がる怒りが顔に出てたらしく、怜ちんが説明し始めた。


「実は空くんの様子が変だったんだよ。何か事情があるみたいだったから俺も聞けなかったんだけど、チラッと見えたのは手首に濃い痣があったんだ。それを見た貴ちゃんが、空くんを連れて出てったの」

「てか今さっき出てったばっかだからまだその辺にいるんじゃん?気になるなら直接聞きゃいいだろ」


 那智に言われて俺は廊下に出る。確か早川は自転車通学だったな。廊下から駐輪場が見えるからそこから探してみる。
 すぐに他の二人も付いて来て、俺の両隣から下を眺めていた。


「ねぇ、いーくん、気持ちは分かるけど、二人を怒らないであげてよ。俺から見て空くんは大分遠慮してると思うよ?いーくんと貴ちゃんがいるボラ部にもいてくれて副部長までやってくれてるし、俺が空くんだったらとっくに辞めてるよ」

「怜ちんは早川の肩持つんだな」

「そうじゃないよ!俺はいーくんなら、空くんの事分かってあげられるんじゃないかなって思っただけ!」

「二人共喧嘩はダメだぞー?あ!秋山と早川来た!」


 那智の声に視線を駐輪場に戻すと、貴哉が早川の腕を掴んで歩いてるのが見えた。そして立ち止まって貴哉が腕を離して少し話していた。
 窓を開けて会話を聞こうとしたけど、ここからじゃ何を話してるのかは聞こえなかった。

 
「何話してるんだろう?何か言い合ってる感じ?」

「おい、声掛けようぜ~?」

「待て那智」


 早川が自分の自転車を転がして先に帰ろうとしているようだった。
 それを貴哉がまた腕を掴んで止めていた。
 さっきより言い合ってるみたいで少しだけ声がこっちまで聞こえて来た。
 そして俺達に先に気付いたのは早川で貴哉に教えたのか、こっちを見た貴哉はゲッと言う顔をした。


「貴哉ー、喧嘩してんのー?」

「してねぇよ!大丈夫だから!」


 俺が大きな声で聞くと、貴哉は手を挙げて答えた。その隙に早川が自転車に乗って帰って行くのが見えた。


「んあ!?ああ!空テメェ何勝手に!」


 先に帰って行った早川に気付いた貴哉は慌てて追い掛けようとした。


「伊織!帰ったら連絡する!じゃあな!」

「おう。ほどほどに頑張れ~」


 最後に貴哉は俺にそう言って走って行った。
 本当は行くなって言いたかった。俺のとこに戻って来いって。まるで貴哉が早川の所に戻っちまうような感じがして、俺は悲しくなった。


「おおー!秋山足速ぇー!」

「いーくん良く出来ました♪」

「ふんっ早川の奴、貴哉に心配掛けやがって」

「まぁまぁ♪帰ったら貴ちゃんに話を聞けばいいじゃない♪さて俺達も帰ろ~」


 怜ちんに背中を押されて俺は帰る事にした。

 三人で歩きながら話す。話題は文化祭の事だった。俺は演劇部の方ばっかだからみんなに任せっ放しで今どんな感じなのかを知りたかったんだ。


「紘夢くんが来てから凄い話が進んだんだよー♪ボラ部では野菜の詰め放題やるけど、それプラス子供向けにお菓子、おもちゃの詰め放題もやろうって♪面白いよね~♪」

「へー、面白そうじゃん。でも予算内で収まるのか?」

「野菜は渡辺さんの実家で売れない野菜を提供してくれるから、実質タダでしょー?お菓子とおもちゃは紘夢くんが実費で用意してくれるから、お金が掛かるのは袋代ぐらいなんだー♪」

「さすがお坊ちゃんだな!へー、それならいいじゃん」

「それと、普通に部室を使う予定だったんだけど、どうせなら広い所でやろうって、紘夢くんが葵くんに掛け合ってくれたんだ。もうどこも場所は埋まっちゃってたんだけど、天下の葵くんの力でなんと!校舎と体育館の渡り廊下のすぐ横が取れました~♪そこは日陰になってるから、野菜にも優しいし、演劇部目当てで来てくれるお客さん達にも目に付く所だから大盛況間違いないだろうって♪本当紘夢くんって凄いよね~♪」

「発想と行動力やべぇな!こりゃ部長の座取られるな~」

「いやいや、部長はやっぱいーくんだろ!紘夢も言ってたしな!」

「一条が?」


 那智が明るく言った。どんな事を言ってたのか気になるな。俺が聞くと、那智じゃなくて怜ちんが答えた。


「今日ね、紘夢くんが描いたTシャツのデザインを見せてもらったんだ。大きな赤い薔薇があって、それの右横から下に向かっていろんな色の小さい花が赤い薔薇を囲うように続いてるの。一見何だろうって思うけど、その大きな赤い薔薇はいーくんなんだって。そして、周りの小さい花は俺達他の部員達。紘夢くんにとっていーくんは堂々と咲き誇る赤い薔薇なんだって。華麗で豪快でそこにいるだけで存在感抜群の、みんなの王様だって。今のボラ部部長はいーくんしかいないって話してたの♪」

「俺が、薔薇か……」


 悪い気はしねぇな。一条の奴、やるじゃん。


「いーくんのイメージにピッタリだよね~♪」

「うんうん!赤が映えるように黒地だったし、すげぇかっこよかったよな!」

「そりゃ見るのが楽しみだな」

「金曜日にはどれをTシャツにするか投票するらしいから、いーくんも早く描いた方がいいよ~」

「俺的には中西のが良いと思うけどな!」

「ボランティア魂♡ね!あの猫ちゃんも可愛いよね~!」

「へー、中西も上手いんだ?」

「上手いっていうか、正直那智くんのと似てるよね?猫ちゃんもイタズラ書きみたいだし。緩い感じがボラ部っぽいなって思う~」

「俺のは男らしくていいだろ!?男は黙って筋トレ!」

「うわー、まだ見てねぇけど、那智のやつ大体想像付くわー」


 いつものように三人でそんな話をしながら過ごしていた。こうして気の合う二人といるとまるで嫌な事も忘れられる。
 でも何でかな……この心の寂しさは一体?
 貴哉が隣にいねぇからかな……
 どんなに怜ちんと那智と楽しく過ごせていても、やっぱり二人は仲の良い親友。既に俺の中で貴哉はこの二人を越える存在になってるって訳だ。
 
 貴哉に会いたい。
 会って手を繋いで抱き締めたい。

 あーあ、やっぱ早川と帰らせなきゃ良かったな~。
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