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1章 二学期中間テスト

伊織ぃ♪お前また階段登ったなぁ♡

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 俺達は学校から少し歩いたところにある公園に来た。俺んちとは反対方向だったから初めて来る公園だ。公園の中心部に屋根付きの休憩スペースがあったからそこで話す事にした。
 俺は空が逃げないように常に隣にいて、空はチャラ男号をずっと握っていた。そんな俺達に伊織は「座れ」と指示を出した。
 屋根の下にあるテーブルの横に数人が座れる長い椅子に空が座って俺も隣に座る。
 伊織は反対側の空いてる椅子に一人で座った。


「んじゃ言った通り手短に済ませるぞー。お前ら何の話してたんだ?」

「俺自身の話なんで桐原さんに話したくないです」


 そう言う空の言葉を聞いて俺を見る伊織。確かに、あまり周りに話すのは良くない内容だな。


「伊織、それは俺も同じ意見だ。とにかく俺はその空自身の事を止めたくて説得してたんだ」

「貴哉は早川を止めたいのか」

「必要ありません。秋山をさっさと連れて帰ってくださいよ」

「ああ!?お前今秋山つった!?」

「間違ってねぇだろ。てか俺はお前と他人になるつもりなんだよ!名前呼ぶだけでもありがたいと思えよ!」

「人が心配してんのに何だその態度は!」

「辞めろよ。喧嘩すんな……なんとなく状況分かったわ。お前らが演技してるようにも見えねぇし。今回は俺を騙してるって訳じゃなさそうだな」

「うっ……ごめん」


 きっと伊織は月曜日の事を言ってるんだろう。
 俺が小声で謝ると、伊織はニッコリ笑った。


「いいよ。貴哉のしたいようにしろ。早川を止めたいなら頑張れ。俺に出来る事なら協力もする。ただし、間違って友達以上の事したら俺も黙ってねぇぞ?分かってるよな?」

「…………」

「伊織ぃ♪お前また階段登ったなぁ♡」


 俺は優しい伊織に嬉しくてホッとしてると、空は驚いているようだった。そうだろう?驚くだろう?誰かがちょっとでも俺に手を出したら怒る筈の伊織がこんなにすんなり許可するんだもんな~。
 

「って事だからよ!空!もうやるんじゃねぇぞ」

「それとこれとは話が別だろ。何で秋山の言う事聞かなきゃならないんだよ」

「何の事かは知らねぇけど、早川は貴哉が辞めて欲しいって言うのが嫌なんだ?辞める気はねぇの?」

「ありません。俺の人生です」

「なら貴哉が引くしかねぇだろ」

「何でだよ!俺間違ってねぇもん!」

「もういいだろ。もう俺のやる事に口出しするな。そしていちいち干渉すんな」

「てめぇ!マジ何なんだよその態度!?」


 変わらない空の生意気な態度に俺は肩を強めに揺さぶると、パシッと払われて余計に怒りが増した。この野郎~!!


「貴哉、落ち着け。早川の言い分も間違ってねぇから。でも早川、貴哉に対して何でそういう態度なんだ?俺に遠慮してんのか?」

「そうですよ。貴方キレたら何するか分からないじゃないですか」

「へー、じゃあ俺がいないとこでは普通なのか?」

「いーや!こいつはずっとこんなんだ!神社では普通にニコニコ話してたかと思ったら帰りは俺の話を最後まで聞かずに帰ったり、コロコロ変わりやがってほんっと訳わかんねぇんだ!さっきだって俺関わらないようにって思ってたのに、声掛けて来たのこいつなんだぜ!」

「一人で寂しそうだったからクラスメイトとして声掛けてやったんだろ。ありがたく思えよ」

「歯ぁ食いしばれ!一発ぶん殴ってやる!!」

「貴哉、ちょっと黙っててくんね?俺早川と話したいんだ」

「そもそもお前が早く迎えに来ねぇからっ……てか何で遅くなったんだよ?」

「んー、ちょっと野暮用。大した事じゃねぇよ」

「野暮用だぁ?」


 今は空に対しての怒りもあって、ハッキリ理由を言わない伊織にも苛立ってキツく言ってしまった。
 野暮用って何だよ?結構待ったぞ?


「俺関係ない話みたいだから帰ります」

「待てコラ!逃げんじゃねぇ!」


 隙を見て帰ろうとする空の腕を引っ張って止めようとすると、クルッと振り返って優しく笑って来た。
 これだよこれ!さっきまではめっちゃ冷たかったのに、急に笑顔になるやつ!こいつ二重人格だったのか?


「あのさ、良い加減にしてくれよ?俺がまたお前の事好きになったらどーすんの?困るのはお前だろ?桐原さんもそうなったら黙ってないでしょ?それなら早くこいつ引き取って下さい。そしてもう俺のやる事にうるさく言わないように躾けといて下さい」

「なっ……」

「はは、そりゃそうだ。貴哉俺達の負けだ。腕離してやれよ」


 悔しいけど、何も言い返せなかった。
 離したくなかったけど、渋々空の腕を離す。
 空はすぐにチャラ男号に乗って帰って行った。

 残された俺と伊織はしばらくそこにそのまま座っていた。
 俺は何とも言えない怒りと悔しさでいっぱいだった。


「貴哉、気持ちは分かるけどよ、何でそんなに早川にこだわるんだよ?本人がああ言ってんだからそっとしといてやれよ」

「だって、あいつ……」


 理由を言うに言えなくてもどかしくて悔しさが増した。
 俺だってもう関わらないって決めて声を掛けるどころか見ないようにしてたんだ!なのに、あいつが普通に笑顔で声掛けて来たからっ!
 ちくしょう……
 何で声なんか掛けて来たんだよっ。
 
 最近の空はいろんな人格を見せて来やがる。コロコロ変わってどれが本当の空なのかもう分からねぇよ。
 
 教室で空が話掛けて来た時、少しだけだけど、俺は助けてって言われてる気がしたんだ。
 だから俺は……

 訳が分からないこの状況に、伊織も困った様子だった。
 伊織が怒らなかったのは良かったと思う。それに、伊織もいてくれたからこうやって話が出来た。
 俺と空だけだったらマジで殴ってたかもしれない。

 あーちくしょー!明日もテストなのにモヤモヤさせやがってー!!


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