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1章 二学期中間テスト
これから早川と関わらないでやって行けんのか?
しおりを挟む昼休みも半分が過ぎて、静かな保健室に伊織と二人で真剣な話をしていた。
俺は全てを話した。
昨日の放課後の出来事を。
伊織は途中までは笑顔で聞いていてくれたけど、空の名前が出た辺りから真顔になり、時々辛そうな顔や悲しそうな顔をしていた。それでも俺は話を続けて恋人である伊織に全部打ち明けた。
「それで、眠れなくて、ずっと泣いてたら、気付いたら朝になってたんだ……本当にごめん……」
「はぁ、やっぱそうだったか~」
話し終わった後、伊織はため息をついて言った。
どうやら空が関わってるって気付いてたみたいだ。
「野崎が協力したのは貴哉の親友だからだろ?あいつ良い奴そうだもんな。急なのに良く話合わせてくれたな」
「楓は昔から俺がヤバい時に助けてくれてたんだ。頭が良くてすげぇ頼りになるから今回も頼んじゃった。でも楓を責めないでくれ。俺が悪いんだ」
「ん。まぁ野崎はいいよ。問題は早川だろ」
「……ごめん」
俺が頼んだとは言え、伊織を騙すのに協力してくれた楓の事も怒るかと思ったけど、意外とあっさりしていた。
そして空の話題になって、俺は気まずくなった。
本当に全部話したからだ。抱き合ってキスをした事も全部。伊織が怒らない訳がない。
「ムカつく」
伊織がボソッと喋った。
やっぱ怒ってる!
俺は腹を括って頬を差し出した。
「殴るなら殴れ!避けねぇから!」
「殴る訳ねぇだろ。殴るなら早川を殴るし、今すぐにでも早川んとこ行って殴ってやりてぇよ」
「頼む!それだけは辞めてくれ!俺が無理矢理待たせてたんだ!」
「貴哉、一つ聞いていい?」
「……何?」
「貴哉は俺と早川のどっちが好きなの?」
「え……そりゃ、伊織だけど」
今は伊織と付き合ってるし、伊織を好き、な筈だ。
「本当に?早川の事は好きじゃねぇの?」
「……好き。だけど、もう関わらないって決めたんだ。あいつにも言われたし、俺はこれから……伊織が許してくれるなら伊織だけを好きになって付き合って行きたい、です……」
嘘はつかないって決めたからな。空に対する想いと、伊織に対する想いを正直に伝えると、伊織は困ったように笑って手を握って来た。
ずっと殴られるかもと思っていたからか、ビクッとしてしまった。
「それ聞いて安心した。一度好きになった奴を忘れるのは簡単じゃねぇのは俺も良く分かるから。貴哉がこれからは俺だけを好きになってくれるなら昨日の事は許すよ」
「へ?嘘?許してくれんの?」
あの伊織が?俺が友達と仲良くしてるだけでやきもち焼く伊織が?一番ダメだろうって言う相手である空と浮気っぽい事したのを許してくれるだと?
俺が驚いていると、「はは」と笑ってキスをされた。
「許すよ。本当はすげぇムカつくけど、貴哉は正直に話してくれたし、何よりお前を失いたくねぇ。お前と早川の事は知ってるから、今回は我慢する。話してくれてありがとうな」
「い、伊織ぃっ」
「ほら、俺も一緒に大人の階段登るって言っただろ?」
「ごめんっ!もっと早く話せば良かった!伊織は、絶対に怒ると思ったからっ……」
「ああ、怒ってただろうな。朝までは」
「え?」
「いや、こっちの話だ。で、これから早川と関わらないでやって行けんのか?」
「やって行く!もう決めた!」
「本当かぁ?心配なんじゃねぇの?あいつの事」
「心配は心配だけど、もう俺に出来る事はねぇから。それと、空の心配より自分の心配しなきゃだなって、また玉ちゃんに迷惑かけちまったし」
「偉いぞ貴哉♪そうだな。まずは中間テストをやっつけよう。今日は一緒に勉強出来るだろ?」
「うん!一緒に勉強する!」
もうすっかり優しい笑顔の伊織だった。
俺、伊織はメンタル強いから黙ってても平気とか勝手に思ってたけど、話して分かってもらえた方が全然心強いじゃん。
朝も無理に聞こうとして来なかったし、ずっと俺の様子を見に来てくれてたみてぇだし、俺、もっと伊織を大切にしなきゃだ……
「伊織、本当にありがとな♪伊織が許してくれるなんて思ってなかったから、俺、すげぇ嬉しい♪大好き♡」
「もー可愛いなぁ!俺も大好きだ♡」
俺と伊織は笑い合った。
きっと伊織といれば空の事も考えずにいられるだろう。空は空。俺は俺。
俺は今、改めて空と別れた事を実感した。
休み時間が終わる頃、俺は伊織と教室へ向かっていた。当たり前のように俺を教室まで送るつもりの伊織に俺はもう何も言わなかった。これからは空に気を使わずに堂々としてよう。
「そうそう、貴哉にとって嬉しいニュースあるんだけど、聞きたい?」
「聞きたい!何だよ?嬉しいニュースって」
「朝、一条が俺んとこ来たんだけど、ボラ部に入りたいって言って来たんだ」
「紘夢が!?」
嬉しいっちゃ嬉しいけど、ビックリの方がでけぇよ!あいつ部活とか興味あったのかよ!てか入るなら茜とか雉岡がいる演劇部じゃねぇのかよ!
「テスト明けに正式に入部する事になったぜ。あいつがゴミ拾いとかしてる姿とか想像出来ねぇよな」
ニシシと楽しそうに笑ってるけど、お前もゴミ拾いとか似合わねぇけどな!とは言わないでおいた。
「そっかー!紘夢が入るのか~。楽しくなりそうだな♪」
「そうだな♪」
楽しく話しながら歩いていたらあっという間に教室に着いちまった。あー、このまま伊織とサボりてぇなぁ。
「じゃ、また来るから。午後の授業頑張れよ」
「…………」
廊下で俺にそう言って立ち去ろうとする伊織のシャツの裾をギュッと握って引き止める。
行って欲しくない。まだ側にいて欲しい。
俺は口に出して言えなくて、下を向いて目線だけ伊織を見ると、それはそれは嬉しそうに笑っていた。
「何だよ、そんな事されたら離れたくなくなるじゃん♡」
「だって……」
「あー!貴哉ー!やっと戻って来たー!」
「!!」
後ろからいきなり大きな声がして、慌てて伊織のシャツの裾から手を離して振り向くと、直登が笑顔で寄って来た。
こいつ、良いところで!
「こんにちは桐原さん。貴哉元気になったみたいで良かったですね♪」
「ああ、貴哉が保健室に行ったって、中西が教えてくれたんだ」
「一時間目終わって貴哉がいないのに桐原さんが来たから、知らないのかと思って教えたのー♪んー、朝より顔色良くなってるかな?」
「あ、マスクどっか置いて来た」
「もう大分戻ってるからいらないだろ」
「風邪良くなって良かったね♪」
「おう。そうだ、今度ボラ部に……」
直登にも紘夢がボラ部に入部する事を教えてやろうとしたら、空が横を通って一瞬固まってしまった。直登も気付いて、気まずそうに目線だけ空を追っていた。
「ちわーっす。先輩」
「おう」
空は普通に伊織に挨拶をして、そのまま教室へ入って行った。
「あ、俺達も中に入ろうか!授業始まるもんね!」
「お、おう」
「んじゃ、俺も行くわ。またな貴哉♡」
伊織は俺の頬を右手で触ってからいなくなった。
それを見てた直登はニヤニヤしていた。
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