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1章 二学期中間テスト

貴哉はモテたいのか?

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 それから中間テストまでは学校で勉強、家でも伊織に教えてもらいながら勉強、そんな日々が続いた。
 そして金曜日、いつものように伊織に勉強を見てもらっている時に俺はふと疑問に思う。

 こいつ、毎日俺んち来て俺の勉強見てるけど、自分の勉強はしてるのか?帰るのも結構遅い時間だし、自分は大丈夫なのか?

 気になって手を止めて伊織を見ると、首を傾げてニコッと笑った。くそ、イケメンめ。


「どうした?分からないとこあった?」

「お前は自分の勉強してるのか?一年と二年じゃ内容違うだろ」

「まぁそれなりに。まだ中間だし、学校の授業と帰ってから少ししてる感じ」

「ふーん。頭良いとそれで済むからいいよな」

「頭良くても良い大学目指してたらもっとすると思うけどな。俺はそんな上目指してないから現状維持してりゃいいってだけだ」

「大学かぁ~。俺は就職かなぁ~。これ以上勉強したくねぇし」

「え、貴哉も同じ大学受けろよ。俺が教えるし」

「やだよ!話聞いてたか?もう勉強したくねぇのっ」

「気持ちは分かるけどよ。はぁ、まぁ貴哉の進路はまだ先の話だしな。とりあえず今を楽しんどけ」

「そうするー。とりあえず将来よりも来週の中間だ!それを突破する事だ!」


 俺にとってのかなりの難関だ。正直、今の高校どころか中学と合わせても赤点以上を取った事なんかない。小学生の頃なんかは父ちゃんが教えてくれたから数回ぐらいは良い点取った事はあるけど、遠い昔の話。

 
「よし、今日はここまでにすっか♪貴哉数学は出来るみてぇだな。ここさえ押さえておけば今回の中間は何とかなる。一度覚えちまえば似たようなのばっかだからさ」


 伊織に言われた通りに勉強してるけど、どうやら俺は覚えが悪いらしい。空よりは伊織のが教えるの上手いけど、それでも俺に教えるのは苦労するとか。
 だから最低限の事を集中的に教わっている。

 
「伊織お前、将来何になる気だ?やっぱり芸能関係か?」

「いや、そっちは全く考えてねぇよ。とりあえず普通の大学行って普通の会社に入ってって思ってたし」

「お前が普通とか似合わねぇな。ガチの芸能人になっちまえばいいじゃねぇか」

「俺が芸能人になっても貴哉はいいのか?」

「別にいいんじゃねぇの?」

「俺は貴哉が芸能人になんてなったらやだけどな」

「ならねぇよ」

「だろうな♪」


 俺が即答すると、伊織は笑っていた。
 伊織なら何にでもなれそうなのに、普通でいいなんて意外だと思った。


「なぁ貴哉、ずっと一緒にいようぜ。お互い爺さんになってもずっと」
 
「爺さんになってもぉ?あはは、伊織が爺さんになったとこ想像したら面白ぇな!」

「爺さんでもかっこよかったろ?」

「ああ、相変わらず赤い髪で目立ってたよ」

「貴哉はすげぇ柄の悪い爺さんになってそうだな」

「さすがにその頃には丸くなってるだろ」

「だといいな」


 お互い目を合わせて笑い合った。
 そしてどちらともなくキスをした。
 爺さんになっても一緒か。本当にそれが出来たらずっと楽しそうだな。

 
「伊織」

「ん?」


 俺が名前を呼ぶと優しく笑って顔を覗き込まれた。勉強をして疲れた頭を休めるように伊織の肩にポンッと乗せると、伊織の甘くて爽やかな匂いがした。
 伊織は俺の頭に頬を擦り寄せて来た。そして俺の顔を触って来た……。


「いってぇ!!」

「うわっ!ごめん!傷触っちまった!」


 体育の時に怪我した所を触られて思わず大きな声出しちまった。もう血が止まったから絆創膏を剥がしたんだけど、切ったというより擦りむいてるから水とか染みるんだ。
 この怪我の事を伊織には説明したけど、初めは誰かと喧嘩をしたと勘違いされて、仕返ししてやるとか言って鬼のような形相になった。何とか体育で怪我をしたんだって分かってもらえたけど、俺の顔に傷が出来た事をとても悲しんでいた。


「早く治るといいな。綺麗な顔が勿体ねぇ」

「……お前、俺の顔好きなの?」


 今も俺の左頬に出来た傷を見て悲しそうな顔をしている。だから気になった事を聞いてみた。
 

「今更?好きに決まってんだろ」

「いや、俺の顔を好きになった訳じゃねぇだろ?」

「まぁ、好きになった理由は違うけど、顔も含めだろ」

「俺さ、顔が好きって言われた事ねぇんだわ。だからお前に顔が好きって言われて不思議な感じ」

「そういう事ね。告白するのに顔が好きです!なんて言う奴いなくね?だから貴哉も言われないだけで思われてるって」

「そもそも告白すらそんなされた事ねぇよ。俺って周りから嫌われてる方だと思うし」

「……それ、ガチで言ってんの?」

「あ?ガチに決まってんだろ。俺はお前とは違ぇんだよ」


 そりゃ伊織なら告白なんて日常の一部だろうよ。生憎俺はモテた事がねぇ。同じ中学だった楓と、空と伊織ぐれぇだ。あ、直登もいたな。


「ふーん。貴哉はモテたいのか?」

「一度ぐらいはな!やっぱり男だし!」

「あ?女からモテてぇの?」

「うーん、そう聞かれるとなぁ~」


 なんか違う気がする。
 モテた事が無いからどんな風なのか気になるだけだ。俺の周りはモテる奴がいっぱいいるから余計にな。


「ダメ。貴哉はモテなくていいから。俺で満足しとけ♡」

「はいはい。いざ俺がモテたらお前うるさそうだしな。やっぱ今のままでいいや」


 俺に寄って来る奴には容赦ねぇからな。
 俺と付き合ってからの伊織は周りからの印象が大分変わったんじゃねぇかと思うんだ。
 誰にでも優しくて対等に接するみんなのアイドルが、ただの生意気な一年の事になると鬼になるなんて誰が予想した?
 俺ですらビックリしたわ。
 伊織がすげぇやきもち焼く事にな。

 
「そうだぞー♡貴哉は俺だけに愛されてればいいんだ♡」


 満足そうに笑う伊織はまるで子供みたいだった。
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