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2章 兄と弟
※ 一枚ぐらいいいじゃん♪
しおりを挟む※伊織side
兄貴の買い物はガチなやつで、本当に家具家電を一式揃えようとしていた。俺は文句の言える立場じゃなかったから黙って付いて行って荷物持ちをしたけど、この時ばかりは俺の散財の事言えないんじゃないか?って思った。
まるで今まで我慢していた物を一気に発散するかのように最新のバカ高い物を選んでいた。
その時の兄貴の表情はとても楽しそうで、俺の知らない兄貴の顔だった。
ほとんどの家具や家電は配送になったからしばらくはあの何もない部屋で過ごす事になるけど、兄貴は帰りの電車の中で俺の食べ物の好みや嫌いな物を聞いて来たりして、お互い普通に楽しんでいた。
いろんな店を歩き回ってようやく家に向かう電車に乗っていた。もう19時半とか家に着くの遅くなりそうだな。
大きくなってから兄貴と過ごした初めての休日は俺にとってとても大切な一日になった。
諦めていた兄弟としての関係が、戻ろうとしている気がして俺は期待せずにはいられなかった。
そう言えば早川とお互いの兄貴について話した事があったな。
早川も俺と同じく兄貴がいるみたいだけど、俺とは違って仲が良いように聞こえたんだ。
その時俺は心底羨ましく思った。
兄貴に愛され大切にされて来た早川。
兄貴に蔑み嫌われて来た俺。
俺が貴哉以外で早川に負けてる所があったなんてな。もしかしたら他にもあるかもしれねぇな。
「なぁ伊織、今日の夕飯餃子にしねー?餃子食いてぇ」
「いいよ。兄貴の好きなので」
「そんじゃ帰りにスーパー寄ってくぞー。あの家なんもねぇから他にも買わねぇと」
「待ってよ。この荷物持ったまま行くのか?」
俺が今持ってるのは部屋に敷く丸めたラグと兄貴が着るであろう寝巻きや下着やらが詰まった紙袋。その為生活用品もあった。
兄貴は兄貴で本とかクッションとかを抱えていた。
もうこれ以上は持てないだろ。
「面倒だけど一回帰るか~」
「それがいい」
電車の中、お互いドアの横に立っていたけど、兄貴はドアにもたれてスマホをいじり始めた。何か調べてるのか、同居人の友達に連絡してるのか。少し笑顔に見えた。
ここで俺はふと思いついて自分のスマホを取り出して兄貴に気付かれないようにカメラモードにする。
スマホに夢中の兄貴に背を向けてカメラをインカメにして俺と兄貴を映るようにしてパシャリ。
さすがに気付いた兄貴に睨まれた。
「お前、それ盗撮って言うんだぞ。立派な犯罪だ。早速問題起こす気かよ」
「一枚ぐらいいいじゃん♪」
「キモー。悪用すんなよー」
兄貴は思った程怒らなかった。
俺はそれが嬉しくてさっき撮った写メを見て思う。
そうだ。早川に送ってやろう。
あいつは気の使える男だから、俺が兄貴から嫌われてるって話しても何も言って来なかったし、良いふらしもしなかった。
多分可哀想な男だと思われたかもしれない。
はたまたそんな話はもう忘れてるかもしれねぇな。
それでも同じ次男として報告しておきたかった。
いや、兄貴と仲良いのがこんなに嬉しいなんて、誰かに自慢したかっただけかも。
俺は撮ったばかりの兄貴との写メと、短い文を添えて早川にメッセージを送った。
すると、すぐに既読になって、すぐに返信があった。
あいつって見かけによらず真面目だよなー。
そして返って来た文を読んで俺は笑った。
『イケメン兄弟羨まー。自慢オツです』
早川らしい文だった。
そしてその後すぐにもう一通届いた。
『もうお兄さんを怒らせないように仲良くして下さいね。写メ、楽しそうで良かったです』
あいつ……
俺はスマホを閉じて兄貴を見る、もう既に自分のスマホをいじっていた兄貴に俺は声を掛けた。
「兄貴」
「あ?何だよ?」
「ありがとう」
「?おうよ」
突然のお礼に訳が分からない顔してたけど、すぐにまたスマホをいじり始めた。
最近になって自分の愚かさを知ってへこんでいたけど、今日少しだけ吹っ切れた気がする。
今まで何をするにも敵無しって思ってたけど、そんな事無かった。
貴哉と出会って全然思い通りにいかないし、何も出来ない自分がいて悔しかった。
もうスーパー高校生じゃないって理解してからも自分のマイナスな所ばかりが出しゃばって、結果的に貴哉に逃げられそうになった。
正直これ以上どうしたらいいのかなんて分からなかった。俺はただ今まで通りに貴哉を追うしかないと思っていた。
でも違った。他にも道はたくさんあったんだ。
それは兄貴が教えてくれた。
まずは自分を見直そう。
そしたらまた貴哉を追うんだ。
そうすればきっと今よりも貴哉の事を幸せに出来る気がするから。
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