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2章 兄と弟

※ どんな人なんだ?兄貴の友達って

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 ※伊織side

 父さんのマンションを出て兄貴と電車に乗って自宅がある方面へ向かう。
 兄貴は相変わらず無表情で一言も喋らなかった。
 迷ったけど、俺から話し掛ける事にした。


「兄貴、今日は本当にありがとう。これからよろしく」

「…………」

「兄貴?聞いてる?」

「うるせぇっ!今考え事してんだ!黙ってろ!」

「ごめん」


 怒られた。
 これからは兄貴に声を掛ける時は気を付けなくちゃいけないな。
 それから俺はずっと兄貴の様子を伺っていたけど、自宅がある駅の少し前で急に立ち上がった。


「うし、ここで降りるぞ」

「え?何で?」

「うるせぇ付いて来い」


 言われるがまま乗っていた電車を降りて兄貴の後を付いて行く。
 今の俺は兄貴には逆らえないからそうするしかなかった。

 黙って後ろを歩いていると、兄貴から話し始めた。


「やっぱ家具家電新調するわ」

「何で?」

「俺の部屋なんもねぇだろ?今住んでる所から持ってってもいいけど、手間とか費用とか考えたら変わらねぇなって。別途請求出来るし、この際だから最新のやつ買ってやる♪」

「確かに、兄貴ならそれぐらいしてもいいな」

「同居人にも話さなきゃなんねぇから、明日は少し遅くなるかも。平日は夕飯作ってくれる人いるんだよな?」

「うん。明日は俺、学校休みだよ。土曜日文化祭だったから振替で」

「マジかよ?あ、今日は俺に付き合えよ?買った物で持ち帰れる物は持って帰るから手伝え」

「勿論そうする。兄貴は予定大丈夫なのか?今からじゃ間に合わないの?」

「それはもういい。とにかくあの家で生活出来るようにしてぇんだ。優先順位が変わった」


 兄貴と話してると本当に貴哉と話してるようだ。
 貴哉も気分屋で言ってる事とかコロコロ変わるからな。自分第一で、気に食わないと相手が誰だろうが食い付く所なんかそっくり。
 だから俺は兄貴といるのが楽しかった。
 まだ少し気を使うけどな。


「てかよ、お前全然食ってなかったけど、体調悪いのか?」

「体調は良いよ。朝は食わないんだ。お昼も軽い物しか食わない」

「それ、これから禁止な。朝も昼もちゃんと食わせるから。残したら許さねぇからな」

「えー、無理に食ったら吐いちゃうって」

「てめぇ!俺が作ったもん吐いたら殴るだけじゃ済まねぇぞ!」

「えっ!兄貴が作ってくれるのか!?」

「おう。お前の事任されたからにはやってやる。お前は学業に専念しろ」

「兄貴~♪ありがとう!」

「恋人の事はまぁ厳しくするつもりはねぇけど、今までみてぇな派手な付き合い方はダメだぞ。何かねだられても断るんだ」

「あー、それなら大丈夫だと思う。ねだられてもご飯ぐらいだし、むしろ今まで俺が無理矢理買ってあげてた感じだし」

「おめぇダメ男じゃねぇか」

「これからは気を付けるよ。兄貴はルームシェアしてる人がいるって言ってたけど、恋人じゃないのかよ?」


 これは父さんと朝食を取ってる時から気になってた事だ。
 兄貴が他の誰かと一緒に暮らしてたなんて知らなかったから、意外で驚いたんだ。
 やっと話始めてくれたし、今なら聞いても良い気がしたんだ。


「んな訳ねぇだろ。高校からのダチだよ。全部折半で節約できっから同居してるだけだ」

「へー、どんな人なんだ?兄貴の友達って」

「お前よりダメ男だ」

「ぶはっ!何それ~?兄貴ってばダメ男と暮らしてんの?」

「まぁな。でもあいつは根はしっかりしてる奴なんだ。ただ何に対してもやる気出さないだけで。あいつがやる気出したのを見たのは俺と同じ大学行くってなった時ぐれぇだな」

「そうなんだ。仲良いんだな」

「悪くはねぇよ。なんだかんだあいつといて俺もいろいろ考えさせられたしな。こうしてお前と話してられるのもあいつのお陰だよ」


 これは新事実だ。
 確かに、兄貴が親に言われたぐらいで俺の様子なんか見に来る筈がないとは思ってたんだ。
 あんなに桐原家を嫌ってたのに、いきなり何で?って。

 なるほどな。兄貴も俺が貴哉と出会ったように、生き方を変えるような人に出会ったって事か。
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