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一章
16.レオの過去
しおりを挟むアースと買い物をした後、部屋に戻って片付けをしていた。そしてアースに昨日泡風呂で汚した風呂掃除もしてもらった。
「まさかあのアキトがレオをこの部屋に入れるなんてな。最近良く二人を一緒にする事が多いけど、何か変な感じだな」
風呂掃除を終えたアースが夕飯の準備に取り掛かりながら言った。
やっぱり変だよな。ただでさえ手の掛かるレオだ。俺といたら更に好き勝手やりだすのに何故か俺とレオを一緒にする事が増えた。
「アキトの奴、何か企んでるよな?」
「どうだろうな。俺はレオ好きだから良いと思うけど」
「俺も嫌いじゃねぇよ。うるせぇなとは思うけど、強いからなアイツ」
「本当に強くなったよな、レオは。初めてここに来た時は小さくて怯える子猫みたいだったのに」
「今じゃ猛獣だな。誰よりもデカく育ちやがって」
レオがここに来たのは俺が12歳の時だ。レオは俺の一個下だけど、同世代とは思えない程に痩せていて小柄だった。背も低く、常に眉毛を下げて震えていたな。
レオは親に虐待されていたんだ。長い間家に監禁されて、そこで酷い事をされ続けていたらしい。親が居ない間に窓をガラスごと割って外へ逃げ出した。長期間監禁されていたせいで、実年齢よりも筋力や知力が劣っていたらしく、逃げる時に割ったガラスで怪我をしたレオは大量の出血でそのまま道端で意識を失った。それをアキトが見付けてすぐに連れ帰って傷の手当てをして、レオの体力が回復するまで面倒を見たんだ。
レオは生まれた時から超人の力を覚醒させていた。レオは普通の人間よりも生命力が長けていた。それを周りに知られるのを恐れたレオの両親は隠すように育てていて、次第に扱いもぞんざいになり、虐待になってしまったらしい。
これはアキトがレオから聞いた話と個人的に調べた情報だ。
まぁレオはあの通り見事に立派に逞しく成長した訳だけど、知力の方はどうにもならなかったみたいだな。
「ところで今日の夕飯何?」
「ウルの好きなすき焼きなんてどうだ?」
長ネギをカッコよく持ったアースがそう言ってニヤリと笑った。
俺は居ても立っても居られず、アースがいるキッチンに駆け込み、冷蔵庫を開ける。すると朝は無かった綺麗な色の牛肉がこれでもかってぐらいに入っていた。
俺は興奮してすぐにアースに聞く。
「コレ、どうしたんだ!?」
「バージョンアップが終わった後にアキトに頼んだ♪ウルに好物を食わせたいからって言ったらすぐに手配してくれた♪さすがアキトだよな」
「すげぇ!早く食いたい!」
俺は肉が好きだ。中でも好物はすき焼き。特にアースが作るすき焼きはやや肉多めの俺好みのすき焼きなんだ。
牛肉の他にもきっと最高級であろう卵や野菜や豆腐達がキラキラと輝いていた。
アキトの奴、普段俺に厳しい癖にこういう餌付けみたいなのは惜しみなくやってくれるよな。
「喜んでくれて良かった♪すぐに準備するな~」
「おう!頼むぜアース!」
あ、ちょうど良いや。なんならレオとウィル呼ぶか?あいつも肉好きだからな。
「なぁ、ウィルと連絡取れるか?」
「ウィルが起動してれば出来るけど……呼ぶのか?」
本日二度目のアースの驚いた顔。
確かに俺が部屋に誰かを呼ぶのなんて今までにない事だろうけどよ。
「お礼言いたがってたじゃん。二人も呼んで一気に言えばいいじゃん」
「はは、すぐに呼ぶよ」
アースは嬉しそうに笑って目を閉じた。
新型の人造人間同士はこうして互いに通信する事が出来るようになっている。
どうやらすぐに繋がったみたいで、アースが目を開けて喋り出した。
「ようウィル。うちの主人からディナーの誘いなんだが、レオと来れるか?そうだな、30分後ぐらいに」
レオなら絶対来るだろ。
問題はレオが俺の部屋に入れるかどうかだ。昨日はアキトが俺の護衛の為に入れるようにしてくれたから泊まれたけど、基本的に俺とアキトの部屋へは許可が無ければ他の人間や人造人間は入れないようになっている。
もし入れないようになってたらアキトに訳を話して許可をもらえばいいだけだけど。
「……じゃあ待ってるよ」
どうやら来る事になったらしいな。
ウィルと話した後にアースは笑顔のまま作業に取り掛かかった。
「30分後に来るって。レオは寝てたみたいだけど、ウルの名前出したらすぐに起きたらしい」
「また寝てたのかよ」
「そう言えばレオが訓練室にいるのを見たけど、何でだ?昨日その斧男と戦ったばかりなんだろ?」
「知らね。ウィルに会いに行った事しか分からねぇ」
「まぁレオが来たら聞けばいいか。あ、一応アキトにも報告しておくな」
「やっぱ必要ー?まぁいいけど」
何かいちいちアキトに報告するのって、何をするのにも親の許可をもらわないとダメみたいで嫌なんだよな。
黙ってやって怒られる方が面倒だから従うけどさ。
アースは再び目を閉じて今度はアキトに連絡をする。
すると、すぐに部屋の電話が鳴った。
げっ。絶対アキトじゃん。
部屋の電話は至る所に設置されていて、今は一番近いキッチンの壁にあった電話のボタンを押した。
この研究所の電話は音と共にボタンが光り、そのボタンを押すとスピーカーから相手の声がして何かをしながらでも通話する事が出来るようになっている。
『ウルー!やっぱり寂しくなっちゃったー?私も早くウルに会いたいよ~』
「あー、違くて……今日の夕飯さ、レオとウィルも一緒にしていい?」
『あれ?今日はアースがすき焼き作る予定じゃなかった?』
「今作ってるよ。だからレオとウィルも一緒にと思って」
『…………』
「おい?アキト?」
『理由聞いてもいいかな?』
「理由って……うーん、アースが二人に昨日の事をお礼言いたいらしいんだ。俺もあれからウィルに会ってねぇし。てかもう誘っちゃったんだけどな」
『アースとウィリアムが通信したのは分かったけど、まさかそんなやり取りしてたなんてね。分かった。許可するよ。レオとウィリアムが部屋に入れるようにしておく。あ!アース!レオがウルに何かしそうになったら本気でやっていいからね!』
「はーい」
「サンキューアキト。じゃあ仕事頑張れよ~」
許可も出た事で俺はさっさと電話を切る。
やっぱりもうレオは入れなくなってたか。
アキトに連絡しておいて良かったかもな。
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