19 / 52
1章
弱い心
しおりを挟む授業が始まる鐘の音が聞こえる少し前に俺は教室を出て律を探しに出た。律がどこに行ったのかなんて分からなかったけど、とりあえず校内をウロウロしていた。
電話してみようとスマホを出すと、メッセージが入ってるのに気付いた。それは少し前に来ていたもので、律からだった。
『屋上で待ってる』
嘘だろ……二人と話してて全然気付かなかった。
急いで階段を駆け上がり、屋上のドアを開けると、ちょうど授業が始まる鐘が鳴った。
「律ー!いるのかー?」
「遅いよ」
姿が見えなかったので呼び掛けると、すぐ横から声がして驚いて振り向くと、ドアの横の所に律が座っていた。
いつも笑顔の律なのに、今は無表情だった。
「ごめん、気付くの遅くなった」
「夏樹は俺の事嫌いになった?」
「ならないよ、なんで?」
「俺が高城くんの事嫌いだから」
「…………」
「律の事、取られちゃうと思うと嫌なんだ」
「弘樹はそんなやつじゃない」
「分からないじゃんそんなの。現に澪くんが俺の事好きだったのに、夏樹も俺を好きになったじゃん。仮にその時の澪くんが俺で、夏樹が弘樹くんだったら?」
「それは……」
確かに俺は澪が律の事を好きなのを知っていて、律を好きになり今付き合っている。
そうか、律の言うことも分からなくないか。
俺は座る律の横に座って近付くと、律は悲しそうな顔をした。
「本当は夏樹を困らせてるの分かってる。でも好きだから、不安で嫌になるんだ。夏樹の事を独り占めしたいんだ」
「うん。確かに、俺も律の立場だったらいい気はしないかもしれない。律って誰にでも好かれてるから当たり前って思っちゃってるけど、俺より律と付き合いの長い人が居て、その人が律の事にベッタリだったらすげぇやだもん」
「夏樹もそう思ってくれるの?」
「うん。もしそうなったら律は俺を不安にさせないようにキッパリその人に言うんだろうな。ごめんな、俺がハッキリしないやつで不安にさせて」
「優しすぎるんだよ夏樹は」
俺が反省してそう言うと、今度は不貞腐れたような顔をしてフイッと向こうを向いてしまうのが何だか可愛くて、俺は更に近付き、ほっぺにキスをしてしまった。
すると、律はバッと俺を見て驚いていた。
「な、夏樹?」
「俺がこんな事をしたいと思うのは律だけだよ。今の俺律を怒らせてるのに、凄く愛おしく思う。初めてだから分からないけど、これって好きって事なんだろ?こんな感情他のやつには沸かなっ……んっ」
俺が言い終わらない内に、今度は律が俺に抱き付きながら唇にキスをしてきた。
律とのキス。昨日、別れる時にした筈なのになんだかしばらくしてないみたいで少し懐かしく思った。
律は俺から離れると、困ったような笑顔をしていた。
「夏樹の事が大好き。誰にも取られたくない。俺だけのものにしたい。他の誰かと話してるのを見るのが嫌。夏樹には俺だけを見ていて欲しい。ごめんね、俺弱くて」
「ううん、嬉しい。律、俺も大好きだよ」
俺からキスをすると嬉しそうに笑った。やっぱり律は笑顔が似合う。俺も笑顔になれた。
でも律の希望を叶えてやるのは難しそうだな。他の誰かと話すのってやつ、それやったら俺めちゃくちゃ嫌なやつになるじゃん。他の人ならまだしも、澪と弘樹は避けられないもんな。
「夏樹、ずっと一緒にいて」
「うん、ずっと一緒だよ」
うーん、律の事も不安にさせたくないし、でもどっちも大事にしたいなんてそんな欲張りな事できない。何かいい考えはないものか。
「そうだ!こうしないか?」
「何?」
「俺は律を安心させる為にキチンと弘樹に言うよ。
その代わりに律はもう弘樹の事を気にしないで欲しいんだ」
「本当に言ってくれるの?」
「言うよ。澪から聞いた事は秘密にしたいからもしかして~みたいな感じで言おうと思う。その方が俺もスッキリするしな。律は出来るか?」
「うん。夏樹がそう言ってくれるなら、今後高城くんの事は気にしないようにする。でも、仲良いの見たらヤキモチ焼いちゃうかも」
「ヤキモチぐらいなら許す。じゃあ早速今日言うから三人で話そうぜ」
「夏樹、ありがとう。本当に嬉しいよ」
嬉しそうに笑う律。きっと弘樹ならしっかり話せば澪の時みたいな言い合いにはならないと思うんだ。俺は律の事が好きで大切にしたい。だから律の悩みの種である弘樹に俺の気持ちを伝えて安心させる方法を選んだんだ。
「それと、ごめんね」
「ん?」
「俺が弱いから友達に言いにくい話する事になっちゃって」
「弱い?誰でも不安はあるだろ。俺の方こそ不安にさせてごめんな」
「夏樹かっこいい」
「本当か?それあまり言われないから凄く嬉しい!」
「夏樹は真っ直ぐで友達想いでとてもかっこいいよ。憧れだよ」
「そんなに言われると照れちゃうだろ!」
「あと、授業サボる事になっちゃってごめんね」
「あ!ヤバい!」
律の事に夢中で授業すっぽかしちゃった!もう始まってるし、先生に怒られるんだろうなぁ。でも律とのモヤモヤが晴れたしいっか。
その後授業が終わるまで律と話しながら屋上で過ごした。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます)
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。
お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
お前を誰にも渡さない〜俺様御曹司の独占欲
ラヴ KAZU
恋愛
「ごめんねチビちゃん、ママを許してあなたにパパはいないの」
現在妊娠三ヶ月、一夜の過ちで妊娠してしまった
雨宮 雫(あめみや しずく)四十二歳 独身
「俺の婚約者になってくれ今日からその子は俺の子供な」
私の目の前に現れた彼の突然の申し出
冴木 峻(さえき しゅん)三十歳 独身
突然始まった契約生活、愛の無い婚約者のはずが
彼の独占欲はエスカレートしていく
冴木コーポレーション御曹司の彼には秘密があり
そしてどうしても手に入らないものがあった、それは・・・
雨宮雫はある男性と一夜を共にし、その場を逃げ出した、暫くして妊娠に気づく。
そんなある日雫の前に冴木コーポレーション御曹司、冴木峻が現れ、「俺の婚約者になってくれ、今日からその子は俺の子供な」突然の申し出に困惑する雫。
だが仕事も無い妊婦の雫にとってありがたい申し出に契約婚約者を引き受ける事になった。
愛の無い生活のはずが峻の独占欲はエスカレートしていく。そんな彼には実は秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる